書評

藤野裕子『民衆暴力』

藤野裕子『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書)についての感想です。

シーナ・アイエンガー『選択の科学』

今度のリモート読書会で取り上げたのは、シーナ・アイエンガー『選択の科学』(文春文庫、櫻井祐子訳)である。 選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫) 作者:シーナ アイエンガー 発売日: 2014/07/10 メディア: 文庫 アイエンガーの…

『こわい顔じゃ伝わらないわよ』『二月の勝者』

「勉強が全然楽しくない」と泣く 田舎の中学校とはいえ、自分が「優等生」であったものだから、自分の物差しで子どもを測ってしまう。定期考査で平均点とか取ってくると、正直がっかりする。しかも全教科そんな具合だからなおさらがっかりする。点数亡者めと…

文学は国語にとってどう役立つのか

議論になっているこれだが。 ozean-schloss.hatenadiary.org 本論の前に一つ。 そもそもこのブログが批判している元記事「『本が読めない人』を育てる日本、2022年度から始まる衝撃の国語教育」は一体誰が書いた記事なのか? diamond.jp 署名が「榎本博明」…

「社会を明るくする運動」の宿題作文のこと

中1の娘の短い夏休みの宿題の一つが「社会を明るくする運動」作文である。学校が配布した課題一覧表には「1年生は全員取り組むこと。2・3年生は自由」とされている。選択課題でなく必須なのである。 「社会を明るくする運動」の概要がプリントに書いてあ…

坂田聡『苗字と名前の歴史』

2006年に出ていた本であるが、最近福岡市の博物館の1階にある小さな書店に立ち寄った際に立ち読みし、面白そうなので購入した。 苗字と名前の歴史 (歴史文化ライブラリー) 作者:坂田 聡 発売日: 2006/03/01 メディア: 単行本 ぼくの問題意識は「氏と苗字は…

「ペストで農業労働者の賃金が高騰した」っていうけど農奴なの? 労働者なの?

「パンデミックは世界を変えるきっかけになる」という命題があって、ペストが中世を大きく変えた話は、いろんな人がしているよね。 ペストがヨーロッパ社会に与えた影響は、少なくとも三つあった。第一に、労働力の急激な減少が賃金の上昇をもたらした。農民…

山本太郎『感染症と文明 共生への道』

新型コロナウイルスが広がって被害を及ぼしているから、こんなウイルス滅ぼしてしまえばええやん、と思う。ほら、天然痘とかポリオみたいにさ。 しかし、そうでもないらしい。 あるウイルスが消えた後のポジション(生態学的地位)を埋めるように、新たなウ…

レベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』

Zoom読書会でレベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』を読んだ。 説教したがる男たち 作者:レベッカ・ソルニット,ハーン小路恭子 発売日: 2018/11/15 メディア: Kindle版 女性を何も知らない無知な存在と見下して説教したがる男性仕草を「マンスプレイニ…

宮本常一『忘れられた日本人』

宮本常一『忘れられた日本人』をZoom読書会でやるというので関連本を読む。 忘れられた日本人 (岩波文庫) 作者:宮本 常一 発売日: 2017/04/20 メディア: Kindle版 素人として、この本をどう扱ったらいいのかが少し戸惑ってしまう。 解説の網野善彦の読み方は…

戦争とコロナは同じか。「新しい生活様式」は吐き気がするか。

大塚英志のこの記事を読んで思ったこと。 www.webchikuma.jp 戦争とコロナは同じか 第一に、戦争と感染症(ペストとかコロナ)は同じだろうかという問題。 大塚が「同じ」と言っているかどうかは後で触れる。 まずぼくはマルキストであるから、人間が起こし…

カミュ『ペスト』

Zoom読書会をやっている。 このコロナの状況下なのでせっかくだから『ペスト』を読もうということで読んだ。 ペスト (新潮文庫) 作者:カミュ 発売日: 1969/10/30 メディア: ペーパーバック 記憶について いろいろ思うことはあるんだけど、とりあえず、この箇…

上西充子『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』

選挙演説は誰に向けてやっているか? 選挙活動を応援することが多い身として思うことは、選挙での演説は「自分の立場に近くて、投票を迷っている人、投票行動をしそうな人」に向けてしゃべるのが目的だということだ。これを「投票迷い層」と名付けよう。 逆…

すでに明らかなことを本に書く気はない

拙著が家に届きました。 今日あたりから書店に並ぶと思います。「不要不急の外出自粛」が呼びかけられている地域も多い中であり、まあ「必要であり急ぎである買い物」と位置付けてもらって……とは申しませんが、何かの折にぜひお読みください。あまり初刷りは…

松田奈緒子『重版出来!』14

マンガ編集、マンガの執筆、そしてマンガに関わる人の物語となっている、松田奈緒子『重版出来!』の14巻で注目したのは、書店をクビになった書店員・河舞子がまわりの協力を得ながら「ひとり書店」を立ち上げる話だ。 重版出来!(14) (ビッグコミック…

「学校の設置者」とは誰なのか(パート1)

すでに新型コロナウイルスの感染拡大予防のための学校一斉臨時休業が始まっているので、これを明らかにしてももう遅いんだけど、メモのようなつもりで残しておく。また、まだ考察の途中だし。 新型コロナウイルスによる学校の一斉臨時休業は学校保健安全法の…

「麒麟がくる」を見て『戦国の軍隊』を読む

別に「麒麟がくる」をこれからずっと見ようと決めているわけでも、決めたわけでもないし、貶めようとか、逆に持ち上げようとか、なんの意図も持っていない。 この前の日曜日にぼさっとテレビの前にいたら、「麒麟がくる」の第2回が始まって合戦シーンが流れ…

『めざそう! ホワイト企業 経営者のための労務管理改善マニュアル』

「今の日本では労働者は解雇できない」という意見に対して「きちんと手続きを踏めば労働者は解雇できる」と答えたら、あたかも解雇指南をしているかのようである。 いや実際「解雇テクニック」としてそういう「手続き」を教える場合もある。 www.jcp.or.jp …

『もし部下が発達障害だったら』『綿谷さんの友だち』

佐藤恵美『もし部下が発達障害だったら』(ディスカヴァー携書)の冒頭に、いかにも上司がいいそうなセリフが掲げてある。 「おまえ、なぜ何度言っても同じミスを繰り返してばかりなんだ? 発達障害なんじゃないか? 病院に行って調べてもらってこい」(佐藤…

堀和恵『「この世界の片隅」を生きる〜広島の女たち〜』

被爆や戦争の体験をどう語るのか、あるいはどう継承するのか、ということで広島をめぐる5人の女性が紹介されている。 『この世界の片隅』を生きる ~広島の女たち~ 作者:堀 和恵 出版社/メーカー: 郁朋社 発売日: 2019/07/24 メディア: 単行本 山代巴、大田…

倉本一宏『戦争の日本古代史』

知り合いの研究者が10年前に韓国で学会(理系)に参加したときと、今回参加したときではその水準がまるで違っていて、「ああ、日本は今抜かれつつあるというか、抜かれたんだなと思った」と話していたのを印象深く聞いた。 韓国のことに詳しい同僚が「前衛」…

松竹伸幸『日韓が和解する日』

本書にある、 日本は法的に立派に責任を果たした。韓国との間で日韓基本条約と請求権協定を結び、これまで忠実にそれを守ってきたというのは、法的責任を果たしたということである。「法的に解決済み」という日本政府の言い分にはいささかの間違いもない。(…

『国語 六 創造』『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』

前回、小6の娘の国語の教科書の話を記事にしたんだが、続きである。 高畑勲「『鳥獣戯画』を読む」の後には、「この絵、私はこう見る」という節がある。今娘はここをやっている。 「『鳥獣戯画』を読む」では、筆者は、さまざまな表現を用いて、私たちに『…

こうの史代『ギガタウン』

娘の保育園時代のクラスで毎年集まりを持っているのだが、小学校を卒業する今年で終わりとなる。 そこで記念として、カップに絵を描こうということになった。 最近は専用のマーカーがあって、電子レンジで温めるだけで絵が固定してしまう便利なものがある。 …

ぼくのかんがえたさいきょうのてんのうせい

日本国憲法第1条は 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。 っていう具合に「日本国民の総意に基く」わけだから、天皇という制度自体はそもそも基本的人権や平和主義のように「永遠に」動…

『韓国の小学校歴史教科書』を読了してぼんやり思うこと

また、前の記事の続き。 きょうは、『韓国の小学校歴史教科書』(明石書店)を読み終わった。 韓国の小学校歴史教科書 (世界の教科書シリーズ) 作者: 三橋広夫 出版社/メーカー: 明石書店 発売日: 2007/10/02 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含む…

澄川嘉彦・五十嵐大介『馬と生きる』/「たくさんのふしぎ」2019年11月号

つれあいの母、すなわち義母が契約をして、現在小6の娘に「月刊たくさんのふしぎ」を毎月送ってくる。小学1年生くらいまでは「こどものとも」だった。 これらは福音館書店が毎月発行している雑誌で、「こどものとも」はいわば定期絵本であり、「たくさんの…

『まんが朝鮮の歴史』『韓国の小学校歴史教科書』

日韓関係がアレだというのに、韓国(朝鮮半島)の歴史のこと、なんも知らんなあ……と気づいた。 少し勉強を、と思ったものの、知らない地名や人物が次々出てくるともういけない。 こういうときは、自分が日本史でそうだったように、学習マンガでまず「物語&…

ナディア・ムラド『THE LAST GIRL』

「イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語」というサブタイトルの通りで、性暴力のすさまじい実態が告発されている。書名は「この世界で私のような体験をする女性は、私が最後であってほしい」という意味である。著者は昨年ノーベル平和賞を受賞した。 TH…

上西充子『呪いの言葉の解きかた』

昨年ぼくは「ご飯論法」の命名者の一人として流行語大賞をいただいた。「朝ごはんを食べましたか?」という問いに、米飯は食べていないがパンは食べたという事実を隠して「ご飯は食べておりません」と答弁する……このタイプのごまかしを安倍政権がやっている…