書評

『資本論』にでてくるabstraction

若い人たちとマルクス『資本論』の学習会をやっている。 その話は詳しくはまた別の機会にすることもあるだろうけど、『資本論』の本文を頭から読み合わせしていく方式なので、文章の細かい点にどうしても目がいくことになる。 その学習会が使っているのは日…

三島由紀夫『金閣寺』

リモート読書会で三島由紀夫『金閣寺』を読んだ。 ストーリーは有名だが一応言っておくと、国宝だった金閣を青年僧が放火した実話にもとづく物語であるが、主人公をはじめ登場人物の名前は変えられ、三島が自身の作品世界を構築するために再構成したフィクシ…

酒井邦秀監修・佐藤まりあ著『大人のための英語多読入門』

英語を勉強していると書いたためであろうか、人から英語の勉強法を勧められることもある。ある人から勧められた勉強法もあるのだが、まだ読み終えていない。なので、ここでは引き続き「自己流」のものを書いていく。 英文の記事を読んでわからない単語を単語…

寺澤芳雄編著『名句で読む英語聖書 聖書と英語文化』

『名句で読む英語聖書』を読んでいるとき、 Yea, though I walk through the valley of the shadow of death, Iwill fear no evil. たといわれ死の蔭の谷を歩むとも禍害(わざわい)をおそれじ (旧約聖書「詩篇」) という有名な句が出てきた。 古い英語Yea…

マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

才能も努力もガチャだと思う 親ガチャが話題であるが、才能はガチャだと思う。 本人が努力して得たものもあるだろうけど、努力できるのも才能の一つだ。ロールズの次の意見は正しい。 努力しよう、やってみよう、そして通常の意味で称賛に値する存在になろう…

井上圭壯・藤原正範『日本社会福祉史』

「○○主義について話してほしい」という珍しい依頼を若い人たちから受けた。 資本主義とか社会主義とか科学的社会主義とか新自由主義とか、「主義」ばっかりいっぱい出てきてよくわからない、というわけである。 ただ、よく意図を聞いてみると、基本的には資…

アーロン・バスターニ『ラグジュアリーコミュニズム』

ぼくらが将来について話をするとき(ぼくら自身の将来でなくても子どもや孫たちの将来について話をするときでもいい)、たいていは「暗い」未来予想図で話す。 あろうことか、革命(選挙による政権獲得)をめざしているぼくの周りの左翼でさえ、「はあ…20年…

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』完結を受けて

戦争に参加した兵士を主人公にした物語がフィクションだというのはいくらでもあることだ。 にもかかわらず、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』がフィクションだという前提には、やはり驚かされてしまう。 ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミッ…

平野啓一郎『本心』

リモート読書会は平野啓一郎の小説『本心』であった。 本心 作者:平野啓一郎 コルク Amazon この作品のテーマの一つが「自由死」である。 ある時期が来たら自分の意思で死を選ぶということである。この小説の世界では、それが強制ではなくあくまで権利として…

山本健太郎『政界再編』

立憲民主党・本多平直議員(辞職)の件についてぼくが書いたことに、松竹伸幸が批判的激励?を書いていた。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com ameblo.jp 自民党の異論の吸収方式 ぼくが政党の内部議論は非公開とした上で自由な発言が保障されるべきだとしたこ…

久坂部羊『老乱』

80を超える父母が旅行したいと言い出したので宿の手配などした。ぼくは参加せず、父母だけが行ったのである。 帰る日の前日になって「新幹線の切符が取れないか」と電話で依頼された。 それを受けてぼくがネットで取ったものの、予約した新幹線の時間、号車…

ニコ・ニコルソン、佐藤眞一『マンガ 認知症』

久坂部羊『老乱』をリモート読書会で読むことになったので、それを読んだ後、本作を読み直す。以前読んだことがあったが、問題意識を持って読むと染み通り方が違うなと思った。 『老乱』を読みたいと言ったAさんは「自分では理解できない病気・症状の人の意…

「風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつ」で思い出す筒井康隆

www.kaiseisha.co.jp これを読んで当然この箇所に目がいく。 風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつのだと思います。 そこにこの記事。 m-dojo.hatenadiary.com 筒井康隆の風刺・パロディ論争を思い出す(「笑いの理由」/筒井『やつあ…

夏目漱石『吾輩は猫である』

リモート読書会は夏目漱石『吾輩は猫である』だった。 吾輩は猫である 作者:夏目 漱石 Amazon この超有名な小説、ぼくは読んだことがなかった。 つーか、中学生、高校生時代に何度か読もうとして途中で挫折している。 「面白くなかった」からである。 11章あ…

英語を勉強しているんだが

英語を勉強している。 なんのために? いや…別に…意味もなく。 『超訳マルクス』*1をやった時には、辞書を引き引きという具合だった。 サラサラ読めたらカッコいいかな、くらいに。 しかし英語というものはいったん始めたら日課にしないといけない。 筋トレ…

藤丸篤夫「ハチという虫」/『月刊たくさんのふしぎ』

今月(2021年6月号)の『月刊たくさんのふしぎ』は藤丸篤夫「ハチという虫」。ハチを進化の角度で切り取っていて、大変わかりやすく、読み応えがあった。 ハチのイメージが変わった。 ハチという虫 (月刊たくさんのふしぎ2021年6月号) 作者:藤丸 篤夫 発売日…

不破哲三『激動の世界はどこに向かうか』ノート

先日『資本論』について講師を務める機会があった。 その時、社会民主主義政党の見方やヨーロッパの到達の見方について質問があった。 ぼくなりの答えをその時はしておいたけど、以下は日本共産党の幹部の一人である不破哲三はどのように見ているか、という…

坂口安吾『戦争と一人の女』『堕落論』

リモート読書会は坂口安吾『戦争と一人の女』『堕落論』。 ファシリテーターは、以前ブログでエントリも書いたことがあるぼくである。 参加者の一人、Aさんが事前に「『戦争と一人の女』って読み終えたけど、『なに、これ…』みたいな感じだった…。どういう感…

上西充子『政治と報道 報道不信の根源』

本書は、第一に、マスコミの政治報道への違和感から出発してそれを市民による権力監視の方向で正そうとしている。第二に、マスコミとは別のジャーナリズムの姿を見せて、政治報道のオルタナティブを示している。 政治と報道 報道不信の根源 (扶桑社新書) 作…

ジェニファー・エバーハート『無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか』

リモート読書会は、ジェニファー・エバーハート『無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか』(明石書店、山岡希美訳、 高史明解説)。 無意識のバイアス——人はなぜ人種差別をするのか 作者:ジェニファー・エバーハート 発売日: 2021/01/08 メディア: K…

田川建三『イエスという男』

リモート読書会では田川建三『イエスという男』を読んだ。 イエスという男 第二版 増補改訂 作者:田川 建三 発売日: 2004/06/10 メディア: 単行本 もちろんなんでもハイハイと言う「イエスマン」のことではなく(笑)、キリスト教の始祖とされているイエスの…

斎藤幸平『人新世の「資本論」』

リモート読書会は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』だった。 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 発売日: 2020/10/16 メディア: Kindle版 その中身は、 気候変動が人の生活に与える影響はこのままいくと限界になる。 気候変動はSDGsやグリーン・…

村崎一等兵のセリフを読む

ここ数年続いていることは毎日の筋トレと、風呂場での大西巨人『神聖喜劇』の朗読である。 対馬での軍隊生活を描いた『神聖喜劇』の方は、もう何べんも読み返しているが、今は光文社版文庫本の第2巻、主人公の東堂が対馬には大きな軍隊が駐留しているのにな…

ヴィトルト・ピレツキ『アウシュヴィッツ潜入記』

まもなくアウシュヴィッツが解放された記念日(国際ホロコースト記念日)である1月27日である。 私はアウシュヴィッツで危険なゲームをやっていた。いや、この文章は現実を正しく伝えているとはいえない。実際、私の経験は世間の人々が考える危険をはるかに…

スポーツの本質的暴力性とどうつきあうか

リモート読書会は、川谷茂樹『スポーツ倫理学講義』を取り上げた。 この本についてはすでに2005年に書評を書いている。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com 例えば写真は、今年11月28日付の西日本新聞夕刊の記事であるが、柔道の1984年五輪における山下・ラシュ…

伊東順子『韓国 現地からの報告』

リモート読書会で伊東順子『韓国 現地からの報告──セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)を読んだ。 韓国 現地からの報告 (ちくま新書) 作者:伊東 順子 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 韓国に住んでいる著者が話題ごとに書いた短い文章の集…

星乃治彦『赤いゲッベルス ミュンツェンベルクとその時代』

学生運動をしていた頃の友人に勧められて読む。 赤いゲッベルス ミュンツェンベルクとその時代 作者:星乃 治彦 発売日: 2009/12/18 メディア: 単行本 ヴィリー・ミュンツェンベルクの評伝である。 ミュンツェンベルクは、ナチス期のドイツでコミュニストの側…

石牟礼道子『苦海浄土』

リモート読書会は石牟礼道子『苦海浄土』だった。 新装版 苦海浄土 (講談社文庫) 作者:石牟礼 道子 発売日: 2004/07/15 メディア: 文庫 水俣病について書かれたということは有名な本だが、果たしてこれはノンフィクションなのか、小説なのか。石牟礼は「新し…

山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』

タイトルに惹かれて読んだ。 日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~ (光文社新書) 作者:山田 昌弘 発売日: 2020/05/29 メディア: Kindle版 山田がいうには、 日本はスウェーデン、フランス、オランダの対策をモデルにし…

藤野裕子『民衆暴力』

藤野裕子『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書)についての感想です。