書評

伊藤整「組織と人間」

「組織のようなものにしばられたくない」と若い人たちがどんどん表明しだしたのは、大学での学生運動が下火になりつつあった1970年代後半以降だろう。1980年代は「政治の季節」が去って、個人主義・消費社会へ…と総括されることがあり、そういう単純な総括自…

石井遼介『心理的安全性のつくりかた』

リモート読書会の次のテキスト。ぼくはファシリテーターである。 心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える 作者:石井遼介 日本能率協会マネジメントセンター Amazon ハラスメントは、それをやってしまったら人権侵害にな…

山崎聡一郎『こども六法』

山崎聡一郎『こども六法』を娘と読んでいる。 夕食が終わり、こたつでぼくがゆったりとしていると、保育園のころに「絵本を読んでほしい」と言ってきたときのようなのと同じニュアンスで、高1の娘が本を持ってやってくるのだ。 別に「勉強しよう!」とかそ…

鈴木透『食の実験場アメリカ』

リモート読書会で読んだ。 食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書 2540) 作者:鈴木 透 中央公論新社 Amazon サブタイトルが「ファーストフード帝国のゆくえ」なので、ははあ、アメリカ=ファストフード帝国批判なんだろうなと思って読…

ローズマリー・サリヴァン『スターリンの娘 「クレムリンの皇女」スヴェトラーナの生涯』

スターリンの娘、スヴェトラーナ・スターリナあるいはスヴェトラーナ・アリルーエワの生涯を知ったとき、その激しさと寂しさに、複雑な思いがこみ上げてくる。 スターリンの娘(上):「クレムリンの皇女」スヴェトラーナの生涯 作者:ローズマリー・サリヴァン …

『ニッポン政界語読本 単語編』『会話編』『公務員の議会答弁言いかえフレーズ』

政治家や役人が使う言葉の異常さ・奇妙さは、日々SNSで指摘され、ネタにされている。中には「ご飯論法」のように、公式の答弁としての基礎を破壊してしまうような重大性を抱えている言葉の使い方さえある。 本書はイアン・アーシーという、一見すると「ずい…

倉沢愛子『インドネシア大虐殺』

東南アジア関連の本を読んでいて、“インドネシアは一番民主的な国”という評価をみた。 ぼくの記憶の中に「インドネシアでは共産党員が200万人くらい虐殺されていたと思うけど…」という断片が浮かび上がる。 むろん、それは「昔」の話のはずだから、そのまま…

『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』

元旦の「しんぶん赤旗」を読んでいたら、志位和夫の東南アジア訪問についてのインタビューが載っていた。 www.jcp.or.jp 日本共産党は安全保障の枠組みとして、「地域協力」を押し出している。同党の綱領では、なかでも東南アジア諸国連合(ASEAN)を「とく…

ストレイチー『ナイティンゲール伝』 茨木保『ナイチンゲール伝』

佐原実波『ガクサン』で予備校講師参考書の面白さが主人公の一人から語られる。 そこで世界史で「ざっくり歴史を要約してくれる」ような面白い講義があるのではないかと本屋でいろいろ立ち読みしてみると、『青木裕司 世界史B講義の実況中継3』が実にぼくの…

更科功『若い読者に贈る美しい生物学講義』

リモート読書会で更科功『若い読者に贈る美しい生物学講義』を読む。 若い読者に贈る美しい生物学講義――感動する生命のはなし 作者:更科 功 ダイヤモンド社 Amazon この本は、生物学に興味を持ってもらいたくて書いた本である。タイトルには「若い読者に」と…

米田優峻 『高校数学の基礎が150分でわかる本』

米田優峻 『高校数学の基礎が150分でわかる本』を読む。 【フルカラー図解】 高校数学の基礎が150分でわかる本 作者:米田 優峻 ダイヤモンド社 Amazon 表題通りか、ストップウォッチで計って読んでみたよ! その結果どうだったか? まあ、あわてるな。 まず…

出口治明『仕事に効く教養としての「世界史」』

世界史を学んだのは高校のとき。 それ以来、本を読んでつまみ食いのようにして学んできた。 たとえばポール・ケネディ『大国の興亡』、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』、『マクニール世界史講義』、グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』の…

『最新版 図解 知識ゼロからの現代農業入門』

日本の農業をどうしたらいいんだろうか。 福岡市でもちょうど高齢化した農家が世代交代の時期となり、田んぼがどんどん消えて宅地に変わっていっている。自分の近く、目の前でそうした現実を見せつけられる。素朴な素人感覚で申し訳ないが、そういう事態が進…

『西村賢太対話集』

「長い休み」はまだ終わらない。いつ終わるともしれない。なんの見通しもなく、いつ終わるのか聞いてもその返事さえない。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com なんのための時間なのかさえ、具体的に示されない。 治療と投薬へ追い込まれ、ぼくの精神が蝕まれて…

磯前順一『石母田正 暗黒のなかで眼をみひらき』

石母田正を知らない人のために、言っておけば、有名なマルクス主義歴史学者である。 石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選) 作者:磯前順一 ミネルヴァ書房 Amazon 以前に小熊英二の本の感想の中で彼について触れたことがある。 kamiyak…

松井暁『ここにある社会主義:今日から始めるコミュニズム入門』

社会主義は遠い将来の話なのか 左翼の集まりで社会主義や共産主義の話をすると「自分たちが死んだ後の遠い将来のこと」という目をされる。 日本共産党は最近の綱領改定で、高度な生産力、経済の社会的規制・管理のしくみ、国民の生活と権利を守るルールなど…

ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』

タイトルに惹かれて手にしたのが本書である。原題は「LESS IS MORE(少ない方が豊か)」だから粋だとは思うけど、それではぼくのようなコミュニストは手に取らなかっただろうな。 資本主義の次に来る世界 作者:ジェイソン・ヒッケル 東洋経済新報社 Amazon …

『ブハーリン裁判』『共産主義とは何か』

『夫ブハーリンの想い出』のブログ記事のところで述べたことを、もう少し詳しく書いておきたい。 無実の罪によって銃殺されるブハーリンは、さぞや自分の裁判で、自分は冤罪であることを力説しているであろう、と思って、その裁判記録である『ブハーリン裁判…

アンナ・ラーリナ『夫ブハーリンの想い出』

長い休みの間、不破哲三『スターリン秘史』を読み直し、スターリンの大テロルについて関連の本をあれこれ読んでいる。 不破の本の中で紹介されているのが、本書である。 ぼくは身近にいる、ある左翼活動家の女性に「ブハーリンって知ってますか?」と聞いた…

カール・ローズ『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』

本書のメインタイトルであるWoke Capitalismは、簡単に言えば環境保護、人権、ジェンダー平等、人種差別反対などといった社会問題を解決したり、対処したりする「Woke」(目覚めた)な資本主義・企業活動を指す。サブタイトルではそれを「『意識高い系』資本…

堀和恵『評伝 伊藤野枝 〜あらしのように生きて〜』

今年は伊藤野枝が官憲に虐殺されて100年である。そのメモリアルのイベントも福岡市で行われる。 9月15(金)&16(土)「伊藤野枝100年フェスティバル」のチケットは3種類。・2日間通し券(前売¥3,000)・16日午後券(講談、講演、座談会=前売¥2,000、当…

「ごん狐」におけるごんの行動や気持ちがなぜ地域に伝わっているのか

新美南吉はぼくの生まれた愛知県の出身である。「ごん狐」があまりにも有名だ。 ごんぎつね (日本の童話名作選) 作者:南吉, 新美 偕成社 Amazon さて、そんな「ごん狐」について、昨日(2023年8月21日)付の「しんぶん赤旗」で、教育実践の報告記事があった…

田村景子『希望の怪物』の書評が掲載されました

日本社会文学会「社会文学」第58号に書評を掲載していただきました。 田村景子『希望の怪物 現代サブカルと「生きづらさ」のイメージ』(笠間書院)についての書評です。 希望の怪物: 現代サブカルと「生きづらさ」のイメージ 作者:田村景子 笠間書院 Amazon…

双龍『こういうのがいい』

双龍『こういうのがいい』は、形式に拘泥したり、強い束縛をかけてくる彼氏・彼女とのつきあいにうんざりした江口友香(えぐち・ともか)と村田元気(むらた・もとき)がゲームのオフライン飲み会をきっかけにセックスをし、それをきっかけに独特のゆるいつ…

松本清張『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』

リモート読書会は松本清張『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』である。「或る『小倉日記』伝」だけではなく、それに収められた短編全体を読むことになった。 或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫) 作者:清張, 松本 新潮社 Amazon 恥ずかしながら…

娘からもらった『私たちが拓く日本の未来』を読む

高校生になった娘からいきなり総務省・文部科学省発行の『私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身に付けるために』という副教材をもらった。教師から「親に渡すように言われた」というのである。 https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/new…

及川琢英『関東軍——満洲支配への独走と崩壊』

そうだなあ、高校の教科書程度しか知識のない人間=ぼくが読んだのだが、読みやすいとはなかなか言えない本であった。 関東軍――満洲支配への独走と崩壊 (中公新書 2754) 作者:及川 琢英 中央公論新社 Amazon その原因は、人名や役職名、組織名などが多く、そ…

坂本貴志『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』

坂本貴志『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社新書)はなかなか刺激的な本である。政治的に見れば日本の高齢者政策の根本的な問題点を指摘したくなることもあるが、そうした「大きな視点」をひとまず脇において、読んでみる。 ほん…

幹部たちの“知的水準の衰弱”

休みで、いろんな本を読んでいるが、読み返すものもある。 不破哲三『スターリン秘史』もその一つである。 スターリン秘史―巨悪の成立と展開〈5〉大戦下の覇権主義(下) 作者:不破 哲三 新日本出版社 Amazon 不破はこの著作の中で、スターリンの問題点の根源…

桑野隆『生きることととしてのダイアローグ バフチン対話思想のエッセンス』

村西てんが『教え子がAV女優、監督はボク。』を読んでいたら、冒頭にバフチンが出てきた。 村西てんが『教え子がAV女優、監督はボク。』1、小学館、p.11 この作品は、タイトルの「教え子がAV女優、監督はボク」という最も反倫理的と思われる状況に向かって…