書評

上間陽子『海をあげる』

リモート読書会で、上間陽子『海をあげる』を読む。 海をあげる (単行本) 作者:上間 陽子 筑摩書房 Amazon エッセイ集である。 抗議集会が終わったころ、指導教員のひとりだった大学教員に、「すごいね、沖縄。抗議集会に行けばよかった」と話しかけられた。…

部落問題は解決したか、他の人権問題でも活かせるか:「地域と人権」4月15日号を読む

今年は全国水平社創立100周年である。 人権連(全国地域人権運動総連合)は機関紙誌でくり返しこの特集を組んでいる。人権連は全解連(全国部落解放運動連合会)が発展的改組したものだ。 2022年4月15日の同団体機関紙「地域と人権」では、100周年記念事業の…

シーニア「最後の1時間」を理解する

『資本論』を若い人たちと読むことを続けている。 先日も合宿で読んだ。再び、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアごとに止まってその場で30分〜1時間読み合わせするという狂気のやり方。 いよいよ次は第1部8章である。 その前は、もちろん第7章…

志村貴子『おとなになっても』6巻、西村賢太『小銭をかぞえる』ほか

もうこの文章を書いたのも10年近く前か、と思いながら読み返す。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com そこで「疎外」について書いている。 自分が書いたもの・描いたものが、自分から離れ、自分に対してよそよそしくなり、やがて自分に対立するようになる。 『ど…

二つの『資本論』の訳本を読んでときどき感じる当惑について

新日本出版社の『新版 資本論』を読んでいてわからない箇所が出てくる。 新版 資本論 第2分冊 作者:カール・マルクス 新日本出版社 Amazon 例えば、第2篇第4章「貨幣の資本への転化」の次の部分である。 買うために売ることの反復または更新は、この過程そ…

森鷗外『山椒大夫・高瀬舟』、関川夏央・谷口ジロー『秋の舞姫』

森鷗外は高校の教科書にあった『舞姫』のイメージが強かった。 ゆえにぼくの中では森鷗外といえば「留学先で懇ろになった女性を捨てたひどい男」みたいな雑なイメージしかなかった。 ところが、今回リモート読書会で森鴎外を扱うことになって新潮文庫の短編…

笑えば幸せになるのか アラン『幸福論』の履き違え

高島宗一郎・福岡市長が成人式でよく成人に対して説教することの一つに次のようなものがある。 ふたつ目。それは「幸せだから笑うんじゃない、笑うから幸せになる」——これは私の恩師からいただいた大切な言葉です。 コロナのせいにせず、親のせいにせず、友…

堀内京子『PTA モヤモヤの正体』の書評が「赤旗」日曜版に載りました

堀内京子『PTA モヤモヤの正体』(筑摩選書)の書評が「しんぶん赤旗」日曜版2022年1月16日号に載った。 PTA モヤモヤの正体 ――役員決めから会費、「親も知らない問題」まで (筑摩選書) 作者:堀内 京子 筑摩書房 Amazon PTAにかかわりながら日常に感じるモヤ…

鯨岡仁『安倍晋三と社会主義 アベノミクスは日本に何をもたらしたか』

新年は「新資本主義」を掲げるの企業新聞広告のオンパレードだった。 年頭の岸田首相のメッセージを受けて、投資家もどきみたいな人たちが集まっている「市況かぶ全力2階建」は大騒ぎである。 kabumatome.doorblog.jp 「社会主義」だって? 岸田が? 岸田の…

『資本論』にでてくるabstraction(続き)

前のエントリにIkimono-Nigiwaiさんから次のようなコメントがありました。 紙屋さんの論説を楽しく読ませていただいています。私は理系で社会科学には疎いので捨象するという日本語に馴染めません。英語のwe make abstraction from the means of subsistence…

『資本論』にでてくるabstraction

若い人たちとマルクス『資本論』の学習会をやっている。 その話は詳しくはまた別の機会にすることもあるだろうけど、『資本論』の本文を頭から読み合わせしていく方式なので、文章の細かい点にどうしても目がいくことになる。 その学習会が使っているのは日…

三島由紀夫『金閣寺』

リモート読書会で三島由紀夫『金閣寺』を読んだ。 ストーリーは有名だが一応言っておくと、国宝だった金閣を青年僧が放火した実話にもとづく物語であるが、主人公をはじめ登場人物の名前は変えられ、三島が自身の作品世界を構築するために再構成したフィクシ…

酒井邦秀監修・佐藤まりあ著『大人のための英語多読入門』

英語を勉強していると書いたためであろうか、人から英語の勉強法を勧められることもある。ある人から勧められた勉強法もあるのだが、まだ読み終えていない。なので、ここでは引き続き「自己流」のものを書いていく。 英文の記事を読んでわからない単語を単語…

寺澤芳雄編著『名句で読む英語聖書 聖書と英語文化』

『名句で読む英語聖書』を読んでいるとき、 Yea, though I walk through the valley of the shadow of death, Iwill fear no evil. たといわれ死の蔭の谷を歩むとも禍害(わざわい)をおそれじ (旧約聖書「詩篇」) という有名な句が出てきた。 古い英語Yea…

マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

才能も努力もガチャだと思う 親ガチャが話題であるが、才能はガチャだと思う。 本人が努力して得たものもあるだろうけど、努力できるのも才能の一つだ。ロールズの次の意見は正しい。 努力しよう、やってみよう、そして通常の意味で称賛に値する存在になろう…

井上圭壯・藤原正範『日本社会福祉史』

「○○主義について話してほしい」という珍しい依頼を若い人たちから受けた。 資本主義とか社会主義とか科学的社会主義とか新自由主義とか、「主義」ばっかりいっぱい出てきてよくわからない、というわけである。 ただ、よく意図を聞いてみると、基本的には資…

アーロン・バスターニ『ラグジュアリーコミュニズム』

ぼくらが将来について話をするとき(ぼくら自身の将来でなくても子どもや孫たちの将来について話をするときでもいい)、たいていは「暗い」未来予想図で話す。 あろうことか、革命(選挙による政権獲得)をめざしているぼくの周りの左翼でさえ、「はあ…20年…

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』完結を受けて

戦争に参加した兵士を主人公にした物語がフィクションだというのはいくらでもあることだ。 にもかかわらず、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』がフィクションだという前提には、やはり驚かされてしまう。 ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミッ…

平野啓一郎『本心』

リモート読書会は平野啓一郎の小説『本心』であった。 本心 作者:平野啓一郎 コルク Amazon この作品のテーマの一つが「自由死」である。 ある時期が来たら自分の意思で死を選ぶということである。この小説の世界では、それが強制ではなくあくまで権利として…

山本健太郎『政界再編』

立憲民主党・本多平直議員(辞職)の件についてぼくが書いたことに、松竹伸幸が批判的激励?を書いていた。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com ameblo.jp 自民党の異論の吸収方式 ぼくが政党の内部議論は非公開とした上で自由な発言が保障されるべきだとしたこ…

久坂部羊『老乱』

80を超える父母が旅行したいと言い出したので宿の手配などした。ぼくは参加せず、父母だけが行ったのである。 帰る日の前日になって「新幹線の切符が取れないか」と電話で依頼された。 それを受けてぼくがネットで取ったものの、予約した新幹線の時間、号車…

ニコ・ニコルソン、佐藤眞一『マンガ 認知症』

久坂部羊『老乱』をリモート読書会で読むことになったので、それを読んだ後、本作を読み直す。以前読んだことがあったが、問題意識を持って読むと染み通り方が違うなと思った。 『老乱』を読みたいと言ったAさんは「自分では理解できない病気・症状の人の意…

「風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつ」で思い出す筒井康隆

www.kaiseisha.co.jp これを読んで当然この箇所に目がいく。 風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつのだと思います。 そこにこの記事。 m-dojo.hatenadiary.com 筒井康隆の風刺・パロディ論争を思い出す(「笑いの理由」/筒井『やつあ…

夏目漱石『吾輩は猫である』

リモート読書会は夏目漱石『吾輩は猫である』だった。 吾輩は猫である 作者:夏目 漱石 Amazon この超有名な小説、ぼくは読んだことがなかった。 つーか、中学生、高校生時代に何度か読もうとして途中で挫折している。 「面白くなかった」からである。 11章あ…

英語を勉強しているんだが

英語を勉強している。 なんのために? いや…別に…意味もなく。 『超訳マルクス』*1をやった時には、辞書を引き引きという具合だった。 サラサラ読めたらカッコいいかな、くらいに。 しかし英語というものはいったん始めたら日課にしないといけない。 筋トレ…

藤丸篤夫「ハチという虫」/『月刊たくさんのふしぎ』

今月(2021年6月号)の『月刊たくさんのふしぎ』は藤丸篤夫「ハチという虫」。ハチを進化の角度で切り取っていて、大変わかりやすく、読み応えがあった。 ハチのイメージが変わった。 ハチという虫 (月刊たくさんのふしぎ2021年6月号) 作者:藤丸 篤夫 発売日…

不破哲三『激動の世界はどこに向かうか』ノート

先日『資本論』について講師を務める機会があった。 その時、社会民主主義政党の見方やヨーロッパの到達の見方について質問があった。 ぼくなりの答えをその時はしておいたけど、以下は日本共産党の幹部の一人である不破哲三はどのように見ているか、という…

坂口安吾『戦争と一人の女』『堕落論』

リモート読書会は坂口安吾『戦争と一人の女』『堕落論』。 ファシリテーターは、以前ブログでエントリも書いたことがあるぼくである。 参加者の一人、Aさんが事前に「『戦争と一人の女』って読み終えたけど、『なに、これ…』みたいな感じだった…。どういう感…

上西充子『政治と報道 報道不信の根源』

本書は、第一に、マスコミの政治報道への違和感から出発してそれを市民による権力監視の方向で正そうとしている。第二に、マスコミとは別のジャーナリズムの姿を見せて、政治報道のオルタナティブを示している。 政治と報道 報道不信の根源 (扶桑社新書) 作…

ジェニファー・エバーハート『無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか』

リモート読書会は、ジェニファー・エバーハート『無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか』(明石書店、山岡希美訳、 高史明解説)。 無意識のバイアス——人はなぜ人種差別をするのか 作者:ジェニファー・エバーハート 発売日: 2021/01/08 メディア: K…