社会主義

松井暁『ここにある社会主義:今日から始めるコミュニズム入門』

社会主義は遠い将来の話なのか 左翼の集まりで社会主義や共産主義の話をすると「自分たちが死んだ後の遠い将来のこと」という目をされる。 日本共産党は最近の綱領改定で、高度な生産力、経済の社会的規制・管理のしくみ、国民の生活と権利を守るルールなど…

ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』

タイトルに惹かれて手にしたのが本書である。原題は「LESS IS MORE(少ない方が豊か)」だから粋だとは思うけど、それではぼくのようなコミュニストは手に取らなかっただろうな。 資本主義の次に来る世界 作者:ジェイソン・ヒッケル 東洋経済新報社 Amazon …

アンナ・ラーリナ『夫ブハーリンの想い出』

長い休みの間、不破哲三『スターリン秘史』を読み直し、スターリンの大テロルについて関連の本をあれこれ読んでいる。 不破の本の中で紹介されているのが、本書である。 ぼくは身近にいる、ある左翼活動家の女性に「ブハーリンって知ってますか?」と聞いた…

齋藤孝『図解 資本論 未来へのヒント』と『資本論』学習の支援

最近出た『資本論』入門を紹介するシリーズの3冊目。 齋藤孝『図解 資本論 未来へのヒント』だ。 図解 資本論 未来へのヒント 作者:齋藤孝 ウェッジ Amazon これが一番正統な「入門書」だろう。『資本論』第1部の順番にだいたいそって、内容を紹介し、解説…

『マルクス「資本論」に脱成長のヒントを学ぶ』

最近でた『資本論』入門書シリーズの2つ目。 斎藤幸平+NHK「100分de名著」制作班監修『マンガでわかる! 100分de名著 マルクス「資本論」に脱成長のヒントを学ぶ』(宝島社)である。 マンガは前山三都里。「編集協力」は山神次郎、「取材・文」は乙野隆彦…

的場昭弘監修『マンガでわかる資本論』

ある出版社の出している『資本論』を手に入れようと大手書店の経済書のコーナーに立ち入ったら、しばらく見ないうちにずいぶんいろんな『資本論』入門書が出ているじゃないか…!? というわけでその中から3冊ほど感想を書いてみたい。 最初は的場昭弘監修『マ…

『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』

唐鎌直義が紹介していたので読んでみた。 じゅうぶん豊かで、貧しい社会 ――理念なき資本主義の末路 (ちくま学芸文庫) 作者:ロバート・スキデルスキー,エドワード・スキデルスキー 筑摩書房 Amazon サブタイトルが「理念なき資本主義の末路」であることからも…

シーニア「最後の1時間」を理解する

『資本論』を若い人たちと読むことを続けている。 先日も合宿で読んだ。再び、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアごとに止まってその場で30分〜1時間読み合わせするという狂気のやり方。 いよいよ次は第1部8章である。 その前は、もちろん第7章…

二つの『資本論』の訳本を読んでときどき感じる当惑について

新日本出版社の『新版 資本論』を読んでいてわからない箇所が出てくる。 新版 資本論 第2分冊 作者:カール・マルクス 新日本出版社 Amazon 例えば、第2篇第4章「貨幣の資本への転化」の次の部分である。 買うために売ることの反復または更新は、この過程そ…

井上圭壯・藤原正範『日本社会福祉史』

「○○主義について話してほしい」という珍しい依頼を若い人たちから受けた。 資本主義とか社会主義とか科学的社会主義とか新自由主義とか、「主義」ばっかりいっぱい出てきてよくわからない、というわけである。 ただ、よく意図を聞いてみると、基本的には資…

アーロン・バスターニ『ラグジュアリーコミュニズム』

ぼくらが将来について話をするとき(ぼくら自身の将来でなくても子どもや孫たちの将来について話をするときでもいい)、たいていは「暗い」未来予想図で話す。 あろうことか、革命(選挙による政権獲得)をめざしているぼくの周りの左翼でさえ、「はあ…20年…

「暴力革命」宣伝のスジの悪さ

“日本共産党は現在も暴力革命を方針とする政党である”という宣伝は、現代では珍しいほどかけらも真実がない純然たるデマである。なんの根も葉もない。大昔は共産党はどうだったとか、何があったとか、そういうことを百歩譲って認めるとしても、今現在共産党…

不破哲三『激動の世界はどこに向かうか』ノート

先日『資本論』について講師を務める機会があった。 その時、社会民主主義政党の見方やヨーロッパの到達の見方について質問があった。 ぼくなりの答えをその時はしておいたけど、以下は日本共産党の幹部の一人である不破哲三はどのように見ているか、という…

斎藤幸平『人新世の「資本論」』

リモート読書会は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』だった。 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 発売日: 2020/10/16 メディア: Kindle版 その中身は、 気候変動が人の生活に与える影響はこのままいくと限界になる。 気候変動はSDGsやグリーン・…

「ラディカルであるとは、ものごとを根本からつかむことである」(マルクス)について

ある左翼組織の会議に出ていたら、報告者がマルクスの有名な章句を引用していた。報告が文書になっており、引用は次の通り。 物質的な力は物質的な力によってたおされなければならない。しかし理論もそれが大衆をつかむやいなや物質的な力となる。理論が大衆…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その6)

はい、ローマーの『これからの社会主義』の書評です。で、今度こそ本当に最後ですわ。もう前の話とか忘れている人が多いですかね。別にいいんすけど。 ローマーが『これからの社会主義』で紹介した「市場社会主義」は、「クーポン型市場社会主義」って言われ…

他人に雇われる働き方はなくなるのか?

今回、不破哲三の社会主義論にちょっと戻ります。 不破が『マルクスと友達になろう』で述べている次の箇所についてです。 「生産手段の社会化」によって、社会がどう変わるか。具体的に見てみましょう。 まず、人間の労働のあり方が根本から変わります。他人…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その5)

ローマーの『これからの社会主義』については「あと1回」と書いたけど、前回記事のコメント欄を読んでみて思うところがあり、もう1回、前回の補足をしておきます。 所有と企業の民主化についてです。 世の中の「所有」のイメージが貧しすぎる まず、所有に…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その4)

ローマーの『これからの社会主義』について引き続きコメントをします。 今日は第5章「集権的計画経済はなぜ失敗したか」と第6章「市場社会主義の現代的モデル」についてです。 第5章「集権的計画経済はなぜ失敗したか」は、旧ソ連・東欧の「社会主義」経…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その3)

ローマーの『これからの社会主義』について引き続きコメントをします。途中から読んでもらってもわかると思います。 ローマーはソ連タイプの「社会主義」を批判し、「市場社会主義」をかかげているアメリカのアナティカル・マルクス派の人です。 さて、今回…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その2)

引き続きローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』についてです。 今回は第1章「社会主義者が望むもの」について。 理性で社会をつくろうとするローマー ここでローマーは、“これまでの社会主義者が搾取の終焉(搾取の廃止)を求めていたのはそ…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その1)

ジョン・E・ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(青木書店、伊藤誠訳、1995)について、コメントしていきます。 ローマーはアメリカのマルクス主義の一派、「アナティカル・マルクス派」の中心人物です。これを書いたときはカリフォルニア…

「あ」さんの問題提起で時短論を一部修正する

前々回と前回のエントリで不破哲三の時短論について疑問を書いてきた。 それぞれの記事について、コメントがついている。 うち「あ」さんが提起されているぼくへの批判(「紙屋は誤読しているのではないか」という批判)についてぼくもよく考えて再度コメン…

時短論補足

※この23日付および24日付の記事については一部疑問が解消し、修正をした。併せて読んでほしい。 http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20171125/1511658305 前回の記事「抜本的時短のために『みんなが生産活動に従事する』ことは必要か?」は、それ自体とし…

抜本的時短のために「みんなが生産活動に従事する」ことは必要か?

※この23日付および24日付の記事については一部疑問が解消し、修正をした。併せて読んでほしい。 http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20171125/1511658305 生産手段の社会化とは何か、を考える前に、生産手段の社会化が労働時間の抜本的な短縮をもたらすと…

社会主義について

このブログでときどき社会主義について、本を読んで思ったことを書きたい。 ここでいう「社会主義」というのは主に、ポスト資本主義としての社会体制、「社会主義体制」「社会主義社会」のことだ。 そんなことを書きたいと思った一番のきっかけは、AI(人工…

宮本顕治君のこと

などと書くと、「そうそう、宮本君はいつも……」と回顧談でもしそうな感じでちょっといい。 この文章の後につけたものは何でも回顧録っぽくなる。「そうそう、宮本君はいつも『きょうは「かみちゅ!」の発売日だ』と言って、早々に常任幹部会を抜けていったね…

『風の谷のナウシカ』を批判する

※1998年の12月祭(全国学生学術文化祭)に提出したものを加筆・補正したものです。 1. 『ナウシカ』に多くの人が共感をよせている 多くの人が、『ナウシカ』をみて、それに感動し、支持をしています。しかしそのとき、多くの人の頭のなかにあるのは、マンガ…