2016-01-01から1年間の記事一覧

『この世界の片隅に』の原作とアニメの距離――もしくは戦争についての創作はどう描くのが「成功」なのか

書いていたら長くなった。 先に要旨をまとめておく。 マンガ『この世界の片隅に』は前半が戦前・戦時の日常の描写、後半が主人公の心象であり「記憶」と「想像力」をめぐる物語である。他方、アニメ「この世界の片隅に」は、戦前・戦時の日常をそのまま再現…

博多駅前陥没事故について(および福岡市政について)

博多駅前陥没事故で復旧が早かったことに関連して、びっくりしたことがある。 復旧の早さそのものではない。 高島宗一郎・福岡市長に対してまで賞賛の声が上がっているのを聞いてびっくりしたのだ。 異常という他ないので、一言書いておきたい。 事故の最高…

大塚玲子『PTAがやっぱりコワい人のための本』

もしPTAをしなくていい権利をお金で買えたら - Togetterまとめ 「PTAは任意団体なんだから退会すればいいのに…」とならずに、こういう問いが成り立ってしまうのは、このまとめの中の終わりの方のツイートにあるように、同調圧力がこわいからという1点に…

志村貴子『娘の家出』

志村貴子『娘の家出』5巻を読む。 『娘の家出』は、家出をしたがる年頃の思春期の少女たち、およびそこからつながっている老若男女たちのオムニバスストーリーである。 Pちゃん 「Pちゃん」に目がいく。 「P」はネットゲームのハンドルネームである。小さな…

「ユリイカ 詩と批評」の「特集・こうの史代」に書きました

「ユリイカ 詩と批評」(2016年11月号)の「特集・こうの史代」に「『この世界の片隅に』は「反戦マンガ」か」という一文を書きました。今日、出版社から届いていました(ありがとうございます)。 ぼくにとってスリリングな1冊です。 なぜスリリングかとい…

文学フリマ福岡に参加します

2016年10月30日(日)都久志会館(福岡市・天神)で開催される文学フリマ福岡に参加します。 http://bunfree.net/?fukuoka_bun02 以下はぼくが出す本の目次(およびその回に言及したマンガ作品や参照にした本など)と、その本の「はじめに」で書いたことです…

おかざき真里・雨宮まみ『ずっと独身でいるつもり?』・白河桃子『格付けしあう女たち』

白河桃子『格付けしあう女たち』は、女性たちがそれぞれに分断された社会の中でさらにカースト化し、分断し合う様をルポしている。そして、「なぜ女同士はつながれないか」という問いを立てている。 一見すると白河のルポは、分断を憂え、なんとかつながろう…

ユージン・B・スレッジ『ペリリュー・沖縄戦記』

「戦争はいやだ」という感情に対して 「戦争はいやだ」という反戦・厭戦的感情に対して、ネット上では(あるいはリアルでも)よく「そうだよな。だれも戦争なんか望んでいない。だから攻められたときにはそれを押し返す軍事力で対抗するんだよ(もしくは「だ…

『シン・ゴジラ』を観てきた

以下、ネタバレあり。 『シン・ゴジラ』を一家でみる。 一言で言って、娯楽作品として大いに楽しんだ。 ゴジラが津波と原発を想起させる存在だと思いながらも、ゴジラによるドハデな破壊、ゴジラの制御不能ぶりに右往左往しつつアタックを繰り返す様子を、ワ…

池上彰・増田ユリヤ『徹底解説! アメリカ 波乱続きの大統領選挙』

予備選挙の場合、過去に有権者登録をして投票したデータがインターネットに公開されていてダウンロードできるようになっている。名前、住所、電話番号はもちろんのこと、年齢や支持政党、過去にどの党に投票したかまでデータ化されているのだ。アメリカでは…

武田一義・平塚柾緒『ペリリュー 楽園のゲルニカ』1巻

太平洋戦争の激戦地・ペリリューの戦記。 『さよならタマちゃん』の武田一義が、一見のどかな絵柄で「楽園の地獄」を描く。 読んですぐに思ったことは、「これはタイムスリップものではないのか」ということだった。 というのは、当時の兵隊は「田丸くん」(…

岡田一郎『革新自治体』

どこかで聞いたような… 美濃部革新都政が誕生した選挙で、美濃部陣営に加わった中野好夫が当時の社会党に対して、それまでの都知事選挙(社会党は田川・加藤・有田・阪本の4候補を歴代担いできた)の経過をふりかえって加えた批判は次のようなものだった(…

『グラゼニ 東京ドーム編』7巻、『おおきく振りかぶって』27巻

ぼくのヒザ故障の経験 中学校の時、運動系の部活動をやっていて、生涯にあれほど運動した(させられた)経験は今後もう二度と訪れないであろう。 基礎をつくるトレーニングについては、教員はまともに指導していなかったし(最初の2年間に顧問だった教員は…

森永卓郎『モリタクの低糖質ダイエット ぶっちぎりのデブが4カ月で19.9kg減!』

ぼくの場合 7kgダイエット 引越しをしてからも元の住所のところに行ったりする。 数ヶ月ぶりに会った人たちから「紙屋さん、痩せました?」と必ず聞かれる。病気ではないか、とかガンではないかとも言われる。 ちょうど引越しの頃からダイエットをして、現…

東條さち子『主婦でも大家さん』『大家さん10年め。』『大家さん引退します。』

投資は目的と必要額のために行うもの 何のために投資をするのか。 子どもの将来の学費を貯めるためとか、老後の不安とか、そういう生活上の具体的な目標がある場合は、本当ならその額をはっきり決めて、その額を得るために投資をするのがよい。 うぅ、だけど…

斉藤利彦『明仁天皇と平和主義』

天皇明仁の問題意識 天皇の生前退位が話題である。 天皇が訪問できなくても、「調子悪い」って言って寝ておけばいいんじゃないの? 無理していく必要あんの? と思っている人も多かろう。(まあ、それでもいいと言えばいいのであるが。) そのあたり、天皇明…

参議院選挙の結果を見て

野党共闘の、「驚くべき」と言ってよい「成果」 参院選が終わって一番の注目すべき点は、何と言っても野党共闘をした1人区で11も勝利したことだろう。1人区での野党の勝利は前回わずか2だったのだから、正直驚いた。 民進党は前回2013年参院選の17と比べ…

谷本雄治『カブトエビの飼育と観察』『カブトエビは不死身の生きもの!?』

仕事帰りに近所の田んぼを熱心にのぞきこんでいると「なんかおるとですか」と地元のばーちゃんが声をかけてきた。 「カブトエビがいるんですよ」 と答える。その田んぼだけに、カブトエビが大量にいるのである。 そのばーちゃんは、カブトエビを知らなかった…

高田かや『カルト村で生まれました。』

ヤマギシ会*1の村で育った著者の半生。 題名ほどのセンセーショナルさはなく、ヤマギシ会が営んでいた共同体での出来事を描きながら、周りとの齟齬や抱いた違和感を綴っている。 著者・高田かやが育ったのは、平成になってからの話であるが、今はこのときか…

山本浩資『PTA、やらなきゃダメですか?』

『“町内会”は義務ですか?』(小学館新書)の著者として、『PTA、やらなきゃダメですか?』(小学館新書)の著者、山本浩資さんと対談した。ぼくは対談に臨むにあたってぜひ聞いてみたい点が3つほどあった。善意が暴走するPTAと町内会は変われるか | PTAの…

宮崎学『死を食べる』

子ども向けの絵本、というか写真で構成された絵本である。 死んだ動物が他の動物にどのように食い尽くされていくかを写真で示している。図書館で偶然手に取った。 サンドウィッチマンでピザ屋のコントを思い出した。 配達を終えて帰ろうとした宅配ピザ屋(富…

【読み捨て版】読書家などとは言えぬぼくが勧める、ぼくの人生を大いにもしくは少しだけ変えた5冊

もちろんこの記事のパロである。 【保存版】数千冊は読書した私が勧める、あなたの人生を変えるかもしれない30冊 - トイアンナのぐだぐだ 「面白かった!」と思える本に出会うのはたやすいけれど、人生を変えるほどの衝撃を与えられることはめったにない。ブ…

呉市立美術館で『この世界の片隅に』について講演します

呉市立美術館で8月21日(日)14:00〜15:30講演します。 http://www.kure-bi.jp/?cn=100526 「マンガは『あの戦争』の体験をどう描くか―こうの史代『この世界の片隅に』を中心に―」というタイトルです。同館の「こうの史代『この世界の片隅に』展…

マルクス主義者にとっての人生の意味

旧日本軍に入営した主人公・東堂太郎が異常な記憶力と軍の規定を駆使して、軍隊内の不条理と向き合う、大西巨人の小説『神聖喜劇』をくり返し読んでいる。 風呂でほぼ毎日朗読している。 光文社文庫版第2巻の372〜373ページには、ヨッフェの遺書が掲載せら…

「格差は教育費無料でも広がる」のか

このエントリを読んで思い出したこと。格差は教育費無料でも広がる ぼくは無料塾で講師のようなことをやってきたが、この春、ずっと教えてきた中学生のRくんが志望する学校に合格できた。万歳! Rくんは前のエントリでも書いたけど、「偶数と偶数の和はなぜ…

吉野朔実『ぼくだけが知っている』

子どもが持つ矛盾についての物語である。 小学4年生、すなわち10歳になる夏目礼智とそのクラスメイトたちの物語だ。 「子供の頃から大人だった。」という印象的なモノローグではじまる。 夏目礼智は、すでに小さな子ども時代から自分の行為の意味するところ…

伊藤野枝『無政府の事実』精読

前のエントリで書いた伊藤野枝であるが、いくつか彼女の書いたものを読む。読みやすくて面白い。被差別部落出身者の運命の悲惨さ、そこに蓄積される(負の)エネルギーを身も蓋もなく描いた小説「火つけ彦七」もよかった。その中の一つで短い論説である「無…

栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』

新しく引っ越したところの町内会の堅牢さにほとほとまいっている。別に今何か役を押し付けられたわけでもないけども、ピラミッド状のがっちりした組織が、引き受けなくてもいいような行政仕事を請け負って、その負担の重さに悲鳴をあげている様子が、総会の…

Cuvie『絢爛たるグランドセーヌ』

※少しネタバレがあります。 面白い。 このマンガの面白さを支えているのは何だろうと考えた。 バレエマンガである。 主人公の有谷奏(ありや・かなで)が幼いころに見に行った近所の「おねえちゃん」のバレエ舞台に魅せられて、バレエを始めるところから物語…

小児性愛者を「合法的に手助け」する人形の議論について

この問題。 小児性愛者を「合法的に手助け」する人形の製造は是か非か〜BuzzFeed Japan記事への賛否両論 - Togetterまとめ 原理的にはあまり難しい問題はない。 まず、こうしたドールが小児性愛者を「合法的に手助け」するかどうかは、本筋の論点とは思われ…