米田優峻 『高校数学の基礎が150分でわかる本』

 米田優峻 『高校数学の基礎が150分でわかる本』を読む。

 表題通りか、ストップウォッチで計って読んでみたよ!

 その結果どうだったか?

 まあ、あわてるな。

 まず、この「150分」っていうのはどこを読んだときなのか? という定義をしっかりさせたい。

 というのも、本文p.14に「たった150分で読める!」に注がついていて「演習問題をしっかり解いても5〜6時間で読み終わると思います」と書いてあったのだ。

 ということはだよ。

  • 演習問題
  • 確認問題
  • 確認テスト

は、やらないことにする。

 同じように、

  • コラム
  • 休憩「思考力を高めるパズルに挑戦」

も、とばす。

 つまり「本文だけを読んで、果たして150分以内で読めるのか?」ということにチャレンジすることにした(まあ、注は読みたいところだけ読み、「はじめに」「おわりに」「謝辞」などはすべて読んだ)。

 その結果…

 

 

 

合計123分20秒で読めた!

 というわけで、看板に偽りはなかった。

 少なくともぼくに関しては、ね(四大卒という条件あり)。

 

 とはいえ、疑問は残る。先にその疑問点を書き記しておこう。

 主に3点ある。

 第一に、これで果たして「基礎がわかる」とまでいえる網羅性があるのか? という点。「本書で学ぶ主な内容」として紹介されているのは、

一次関数/二次関数/指数関数/対数関数/場合の数/確率と期待値/統計/微分積分/整数の性質/数列/三角関数

ということだが、これにしぼって「基礎」とした理由はあるのだろうか。

 ぼくの娘は高校1年だが、「数学A」と「数学Ⅰ」という2つの教科書がある。

 この中には例えば「集合」とか「図形の性質」などがあるのだが、そうした要素はこの「基礎」の中にはないのではなかろうか。

 また、例えば「数学Ⅰ」では有理数無理数とか絶対値を教えているのだが、そうしたものは書かれていない。

 何を省いて、何を選択したのか。つまりなぜそれを「基礎」としたのかという問題がある。

 

 

 第二の疑問点は、理屈抜きで答えを導く公式を教えている箇所が、けっこうあることだ。

などである。

 

 第三の疑問点は、やさしい記述であることには違いないのだが、それでも数学の理屈というものは理解するのに時間を要する場合がある。「わかるまで進まない」というふうにしてしまうと、どんどん時間が過ぎていってしまう。

 少なくともその章を終えれば次の章では関係ないことが多いので、わからないところがあっても飛ばして読んでもらうのがいいのではないか。

 

 疑問は以上の3点だ。

 だが、本書は次のような点がすぐれていると感じた。

 

 何と言っても、やさしいことだ。

 言葉を難しくせず、数学にありがちな厳密な条件や言葉の定義にこだわらず、「ザクっと理解する」ことに重点をおき、言葉もやさしいままにしている。だから、数学のシロート、あるいは数学に苦手意識を抱いている人にとって、例えば「微分とはこういうことをする作業だ」と人に説明できるようにする、または、自分の中でイメージを持てるようにする、という点ではよくできている。

 それとセットなのだが、演習問題なども決して「考えさせる」ようなものではなく、本当に今そこに書いてあったことを確認する程度のものなので、挫折感を味わわずにすむ。「お! 俺って意外とやるじゃない?」という謎自信を持って次に進められるのだ。

 疑問点の2つ目で挙げたこと(理屈抜きで計算させる)は、疑問点には違いないのだが、「微分という概念さえわかってもらえることが大事で、計算方法の考え方まではここでは学ぶ必要がない」という割り切りをしていることは、ある人にとっては不満点だが、やはりぼくのようなドシロートからすれば、ホッとしてしまい、次を読もうという気力につながる。親切のつもりで計算方法の考え方まで教えようとすると、ぼくなどは「うーん…なんとなくわかるけどなあ…」となってしまい、やっぱり数学は難しいというコンプレックスに引きずられてしまうのである。

 

 もともとぼくはなぜこの本を手に取ったのか。

 娘が中学校のうちは、数学の問題を聞かれても、応じることができた。

 しかし高校に入ってからは、すでに概念すら忘れていて解けない。教科書を見て概念を思い出すが、とても問題は解けない。解答を見せてもらってようやく理解するというほどのものだが、理解できないものも多い。もはやすっかり役立たずになってしまっているので、娘はぼくなどあてにせず、もっぱらつれあいに訊いている。

 チクショー。

 そこでまず、「教科書を見てその数学的概念を思い出す」あたりを省略できないかと思い、本書が出た時「ほうほう」と思って買った次第である。

 だが、まあ、そのような当初の目的の役に立つには少し距離があったかな。

 例えばさっき挙げた無理数有理数などは本書ではわからなかった。

 しかし、三角比・三角関数はこれを読んでいれば「どういう概念だったか」を思い出せたのである。

 

 まあそういうぼく自身も当初の目的はおいておくとしても、「高校の数学ってだいたいこういうものだよ」ということを俯瞰し、思い出すには、役に立った。

 そして、わからなかったことがわかったこともある。一例を挙げると偏差値については標準偏差の計算方法の考え方は理解できなかった(教えてくれなかった)が、偏差値というものがどういう考えで作られているか、などはイメージすることができた。

 

 高校数学を知るというより、ぼくにとっては、「わかりにくいものをどうわからせるか」という一つの見本であり、そのさいに思い切った削ぎ落としをすべきであること、日常の言葉のまま理解してもらうことなどについて考えさせられた。