こりゃあいい。
最近本作を何度も見返してしまっている。
高校のアイドル研究会に集うさえない3人の男子生徒(山田・杉森・河野)が、ギャル2人(渡辺・鯖戸)をアイドルとしてプロデュースさせてくれないかと頼み込むところから唐突に物語は始まる。
もちろん断られるのだが、杉森を女装させたら美少女っぽく仕上がってしまい、そこから物語が次々と回転していく。
オタクに優しいギャル…を裏切るのかと思っていたら、オタクに優しいギャルになっていくではないか。
いいマンガ、この場合、ぼくがずっと見返してしまうマンガの条件として、
- コマやキャラに見とれてしまう。それを何度も見たい。
- セリフがクセになる。脳内で反芻してしまう。
- シチュエーションが甘い。ついそのページを見てしまう。
というものがたくさんあることだ。まさにこれである。
まず1巻。
やっぱり女装した恥ずかしそうな杉森。そして、ふだんの杉森。何度も見たくなる。いや、かわいいんだよ。
うちらが断ったけどそのあと誰かアイドル引き受けたやついるの? といって、杉森の写真を見てショックを受ける鯖戸と渡辺。ここへ呼んで来い、と河野に命じた時、川のが
杉森くんをここに呼び出す!?
そ…そんな事したら……
闇鍋カリフォルニアロールになっちゃうよ…
と妄想する、その妄想の絵面。エッチなのか、シュールなのか、かわいいのか、わからんけど、このからまった絵柄、ついつい見たくなる。
本屋でアイドルの(水着というか下着的な)写真集を買っているところを見られる山田。を見つめる渡辺の顔とセリフ。
へー……
そういうの
買ってるんだ
やっぱり……
その、さーーーーーっと引いていく感じがもうね。
そのわりに、その直後に一緒にゲーセン行く、そして、なんでうちらに声をかけたのって聞いて、あーさっきみたいなエロいかっこうさせようとしたんだろと追及したクセに、山田がとってくれたクレーンゲームのキャラをカバンに渡辺がつけるって…いや、妄想だろそれ! と思うけど、意外と現実はそんなものかもしれん。などと脳内変換してしまう自分がコワい。
ギャルが理由もなく部室に居座ると、「こいつ俺のことが好きなのか」とすぐ勘違いする山田=オタクに既視感が…。
河野の膨大なメモ。高校の女子(と一部男子)のことが詳細につけすぎてあって引く。しかし本当にそんなものがあったら…というやべーものを見る気持ちでついそのページを見てしまうのであった。
ドル研のカラオケに闖入する渡辺と鯖戸。オタクのカラオケにギャルが理由もなく入ってくるとかいうのが、いかん。いかんなあ、まったく。
そして、恥ずかしげにアニソンを歌って、中途半端にノリが必要なセリフを張り切って言ってしまってスベる渡辺。というシチュが見たくてページを繰る。
楽しそうなドル研の活気を見て、本当は山田を受験をさせたい顧問の先生が、感動して、山田の受験断念を支援するのかと思いきや
よしみんな これからも今まで通り山田に協力しないように!!
が笑った。
次に2巻。
2巻の方がよく見返す。
同じく女装した山田をやはり女子と勘違いした河野が、
急にドル研の女子比率がヤバい事に!?
ハーレムラブコメ始まった!?
と妄想するときの「陰キャのオレが☆アイドルと!?」というハーレムラブコメっぽい絵柄が大写しになるコマ、好きすぎる。
鯖戸が山田のクラスに行って、カーテンの陰で陰鬱な作業をしている、そのカーテンの中に入っていくシークエンスがいい。特に鯖戸がかわいく描けていると思う。
鯖戸は「ドル研手伝ってあげようか?」と提案するコマも好きだし、バイト先のゼオンタウンにドル研が下見に来たときの姿もいい。
うちらの初ライブ決定ー
今週の日曜日空けといてねー
フフ…どんな衣装を着せてみようかなー
っていう勝手な感じもすごくいい。
ゼオンタウンで初ライブ。ハンパにしか注目されないモールのライブって、考えただけでも胃がきゅうううっっっってなるわ。
ライブシーンはほとんど描かず、終わってからの山田と杉森の失敗感だけを描きながら、渡辺の回想の中ではなんだか汗だくで青春っぽい感じに仕上がっているのが、いいよな。オレから見ても、グラフィックとしてキモい山田と渡辺がなんとなく接近しているのがワクワクする。
スタバならぬスタボで山田に、鯖戸と渡辺が無防備に「ちょっと味見する?」と全然間接キスとか気にしないことを気にしまくるオタク3人。
山田のお母さんが、杉森を見て、自分の推しのアイドルに似てないって大騒ぎするのも何度でも見たい。「はわわわ…」「キャハア…」「興味ある!? 動画見る!?」っていうはしゃぎよう。かわいいだろ。このお母さんのコマ、特に、「キャハア…」「興味ある!? 動画見る!?」が脳裏に焼き付いて離れない。
渡辺の父親の車で渡辺と一緒に帰る山田のシチュもいい。
山田が慌てふためいてお辞儀をする様を父親が「角度すごいね…」とびっくりしながら見つめる導入は、父親の、ニュートラルな、しかしどちらかといえば山田に好意的な感じを絶妙に表している。ような気がする。「角度すごいね…」というセリフのセンスに脱帽する。
父親が「ニコがいつも話題にしている」という趣旨のことを言って「黙れ」とか「盛るな」とか恥ずかしがっているんだぜ。口のきき方が、ぼくと娘に似ている。
きわめつけは、モブキャラ扱いのはずの鈴原舞が、見出されて、楽曲をつくるくだりも好きだ。
「聴かないでください…」と恥ずかしがる様子とか、「河野くんて部室ではこんなに喋るんだ…!!」と驚いたりとか、鯖戸が近寄ってきて「いいニオイがします…」とつぶやいたりとか、そして、
はじめて誰かのために曲を作った
自分でもびっくりするくらいにすぐ曲ができた
早く聴いてもらいたくて
思わずかけこんでしまった
という、ちょっと上気しながらの鈴原の独白はまさに青春ではないかと思わしめる。
オタクとギャル、という個人体験については、かつて『イジらないで、長瀞さん』のところで少しだけ書いた。
しかし、ギャルがオタクの領域にまで侵入し、その文化に理解を示し、あまつさえ恋愛を繰り広げてしまうかもしれないという体験はさすがにない。そんな体験、成立しようがないだろ。と思うくらいアクロバティックなことだ。
ギャルがオタクに侵入してその優しさを示す場合はあまりにも突飛だったりする。それ以外に手の施しようがないからであろう。
あるいはギャルがオタクであることを隠しているというパターンで、その隠れオタクのギャルが橋渡しにもなって他のギャルがオタクの文化圏へ侵入を果たすようなケースもある。
『ずっと青春ぽいですよ』では、そのフックがほとんどない。
いや…ないことはない。
鯖戸が実はアイドルをやってみる(人前で衣装を着て歌ってみる)ことは満更でもないと思っているし、何よりもメイクや写真にこだわりがあって、ふだんは1行でラインでしか返さないのに、メイクや写真の映りのことになると途端に饒舌になったりするわけだし。
だけどだからと言ってオタクの文化圏には入ってこないだろう。
交わらないはずなのだ。
交わらないはずなのに、やがてオタクの圏内に侵入を果たすという、そこをどう不自然でなく、自然な流れで、オタクの夢を壊さずに実現しているのかを見ているような気がする。