参議院選挙の結果を見て

野党共闘の、「驚くべき」と言ってよい「成果」

 参院選が終わって一番の注目すべき点は、何と言っても野党共闘をした1人区で11も勝利したことだろう。1人区での野党の勝利は前回わずか2だったのだから、正直驚いた
 民進党は前回2013年参院選の17と比べれば32を獲得した。民進党内でどう評価され、どう表現されるかよく知らんが、「ウハウハと言っていいんじゃないか。民進党にとっては『起死回生の野党共闘』だ」とか言ってた民進党関係者もいた。
 「共産党と一緒だと損だ。民進党は目を覚まして共産党を切り、健全野党になれ」的な意見をネット上でチラホラ見たけど、こういう目の前のソロバン勘定だけで考えても、この種の意見は説得力に乏しい。だけど、そういう目の前の利益だけでなく、長期的に考えて、日本の政治文化にとってもこの道が一番いいだろうとぼくは思う。

安倍首相の支持率はなぜいつまでも高いのか

 安倍首相ではないが、野党共闘は「道半ば」である。
 野党共闘に決定的に欠けているのは、政権合意だ。
 野党には政策合意がある。共通の公約もある。しかし政権をつくる合意はない。
 自民・公明側の「野党は野合であり不安定だ」という批判が“効く”とすれば、それはまさに政権合意がないからである。その意味で確かに野党共闘はどんな政権の形になるかわからず、「不安定」なのだ。


 安倍政権はなぜいつまでもこんなに支持率が高いのか? と言われることがあるが、基本的にはオルタナティブ(代替)がないからである。
 オルタナティブである野党共闘はようやく生まれたばかりだ。政権合意となり、さらに政策協議、現実の共闘、法案を共同提案する経験が重なって行けば、野党共闘は育っていく。それが次第にオルタナティブとして姿を現していくことになる。


 だって、このきっかけになった共産党の「国民連合政権構想」提案の時から考えてみれば、ずいぶん進歩したと思うぜ?
 あれが出た当初、「そんなんうまくいくわけねーだろwwww」的な嘲笑が読売新聞を含めて圧倒的だった。
 ところが、「とりあえず参院選挙協力やろうぜ?」みたいな合意ができてしまった。
 「まあ、どっちみち棲みわけ程度ダロwwww」と思われていたが、実際に熊本を皮切りに「棲みわけ」どころか一本化して、共産党を含めた全野党が一本化候補を熱心に推すという動きになった。
 「う…いや、せいぜい2つとか3つくらいの選挙区でしょ?」と思われていたのが、(実際野党の中でもそういう受け止めの空気があったわけだけども)あれよあれよという間に、1人区すべてで野党一本化が実現してしまった。この中で驚いたのは、香川のように共産党公認を一本化候補にするところまで出たことである。
 そこへきて衆院北海道5区の補選で実際に与党を追い詰めてしまった。あと一歩だったのである。
 与党筋はだんだん青ざめてきて「政策のない野合」という批判に転じたのだが、これもかなり広範な分野を網羅する15本の野党共同提案の法案をベースにして、野党共通公約を作ってしまった。
4野党の共同法案15本 4野党の共同法案15本

安倍暴走との対決鮮明/参院選 野党「共通政策」豊かに 安倍暴走との対決鮮明/参院選 野党「共通政策」豊かに

 こうして歩みを振り返ってみると、短期日のうちに、実に早く野党共闘を成長させてきたものである、と驚く。
 しかし、現時点でもっとも大事なもの、政権合意が欠けている。野党側は、確かに与党が言うように、安倍政権を倒した後の、合意されたビジョンが存在しないことになっているのだ。ということは、オルタナティブとしてまだ最小限の要件を満たしていないのだと言ってもよい。だからこそ、安倍政権はまだ高支持率を維持している。


 野党共闘は、ここに進むべきである。
 すでに15本の共同法案をベースにした共通公約という「種」がある。これを育てていけばいい。政権合意をきちんとして、それを育てるうちに、オルタナティブとしての実体が生まれてくるのだ。
 こんなものはどこまで育てても大した花にはならん、という人がいるかもしれないが、それは「言わせとけ」と言いたい。とりあえず、雑音にとらわれずに、育てることだ。


「根本理念が違うから連立できない」?

 よく「根本理念が違う政党が連立などできない」などという、連立政権というものの性格を知らないか、知っていて「ためにする攻撃」をしているか、どちらかわかんないけど、とにかくそういう議論がある。
 例えば9条をはじめとして現憲法を根本から作り変えようとしている自民党と、現憲法を「平和憲法として親しまれ、日本の成長を支えてきた」として現憲法の枠組みはそのままにして時代の新要請を条文で加える「加憲」を掲げ、「第9条の改正は必要ない」という公明党とは「根本理念が違う」ということにならないのか。まあ、そもそも根本理念が違うから別の政党を作っているはずなのだが。



 連立政権とは、きちんとした合意に基づいてその合意の範囲で政権を運営し、現状変革(あるいは現状保守)の仕事をする政権である。
 自公政権連立政権のはずですでに1999年から15年近くやってきているのに、こういう感覚に乏しい。結局、公明党の役割は、消費税増税は「軽減税率」、アベノミクスは「福祉給付金」、安保法制は「国会承認」、集団的自衛権は「限定的」などといった、反動政治の巨大なストリームを承認した上で小さな「おこぼれ」をつけて「なんとか食い止めた」と飾ることがもっぱらになっていて、「ブレーキ役」とか「限定した合意の範囲内での政権」というふうになっていないのである。


 野党共闘は、まさに根本理念の違う政党間の、合意による限定的な政権運営という、本来の意味での連立政権の嚆矢になるべきだ。そのような政治文化を育てるのだ。
 一つの大きな政党が、様々な派閥や族議員を持つことで、多様な民意を色分けして表現できるというのが自民党のこれまでの強みだった。しかし、それは単一・単色政党化しつつある。自民党憲法草案をもし真面目に国民が読んだとしたら、あれ自体を支持できる層は少ないのではないか。民進党が「健全野党」として大きくなるという幻想もこれに似ている。*1
 それよりも、様々な政党が組み合わさることで、民意を多様に表現し、明確なルールと合意のもとで、その多様性を反映する政権をつくり、その役割を終えれば、パッと解体して、新しい枠組みを作る――こういう道を新たに作り出した方が、はるかに民主主義としては、リアルだ。
 そのような「寄木細工」を時々に作るという、連立政権本来のあり方に、まだ国民も政党も習熟していない。その文化をこれから育てていけばいいのである。そして、先ほど述べたように、すでにそれは野党共闘として急速に育ちつつある。


自衛隊を合憲として運用するということ

 さて、「限定的な合意を任務とする連立政権」という場合に、今回選挙で野党側に課せられた一つの問題は、自衛隊問題であった。
 というか、問題としてクリアになっているはずなのに、もたついていた。
 「共産党自衛隊違憲だとしているではないか」「憲法違反だと言っているのに自衛隊を使うのは立憲主義に背く」的な議論への対応である。これに対して共産党小池晃が、選挙のテレビ討論で次のように言っていたことは、反論の基本点を示している。

小池 今度の選挙の野党共闘の中に、われわれの独自政策は持ち込まない。われわれは「国民連合政府」という提案をしていますが、その際でも(改悪前の)自衛隊法の適用もするんだと(言っています)。


 もし日本に対して急迫不正の侵害があれば、自衛隊のみなさんに活動していただくということは明確にしているんです。


 谷垣さん、自衛隊をなくそうということが(参院選の)テーマではないですから、争点そらしはやめていただきたい。自衛隊を海外に出すのかどうか。海外の戦争に自衛隊員を出すのかどうか。それが問われている選挙ですよ。それが今回の最大の争点じゃないですか。争点そらしはやめてください。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-07-04/2016070402_01_0.html

 小池の発言で基本点は述べていられているのだが*2、さらにきちんと言ってほしいのは、共産党自身が唱えている「国民連合政府」ができた場合、その「国民連合政府」は自衛隊をどう扱うかといえば、自衛隊を合憲として扱うということ、自衛隊憲法に基づいた組織として運用し、災害救助と急迫不正の主権侵害対応(つまり国防)に使う、ということだ。共産党は党としては自衛隊違憲だという立場だが、そのことを政権には持ち込まないからである。
 ちなみに、共産党が目指す「民主連合政府」ができた場合でも、その「民主連合政府」は自衛隊をどう扱うかといえば、やはり自衛隊は合憲だとされる。共産党としては自衛隊違憲だという立場だが、安保解消後に北東アジアの環境が変わり国民が「もういいんじゃない?」というゴーサインを出すまでは、そのことは政権には持ち込まないからである。
 ここまでは共産党の政策や綱領から自然に出てくることであるが、政権における扱いについては、以上のようにもっと明示的に言った方がよい。*3



 似た問題で、政党助成金がある。
 政党助成金は、共産党にとっては憲法違反の制度である。国民の思想信条を侵すから。
 しかし、もし政党助成金に頼っている民進党がこれを政権合意に入れなかったからどうなるのか。
 その場合、政党助成金は合憲として運用される。共産党違憲だと思っているが、そのことは連立政権には持ち込まないからである。
 それが連立政権というものである。*4



 いずれにせよ、本当の意味での連立政権の政治文化をつくる、歴史上かつてない実験が目の前で今行われているのである。

*1:絶対ないとは言わんけど、二大政党制が破綻した今、当面はそういう政党になるのは自民も民進も難しいんじゃないか。

*2:だいたい、谷垣の論法で言えば、現行憲法を否定すべきと思っている自民党が現行憲法をそのままにして政権を運用するのはおかしいではないか、ということになる。

*3:さらに、長期間、災害救助と国防(専守防衛)に使うのであればその2つの任務にそった活用の方向を具体化して、この実力組織を民主的に管理しておくようにする政策にまで発展できれば、なおいいだろう。そうした原則や政策を作っておくことで、共産党自公政権下の自衛隊の活動も是は是、非は非として判断できる明確な基準を持つことになる。

*4:ちなみに、これは余談であるけども、共産党の政策展望に関わって言えば、安保解消後の将来に平和的な国際環境が実現されて自衛隊を解消してもよいと国民が判断したとしても、政府が「自衛隊違憲」という憲法解釈に切り替える必要はなく、政策判断として自衛隊を解消すればいいだけだろう。それは政党助成金についても同じである。