災害で2階に逃げればそれでいいのか? 立退くべきなのか?

 先ほどNHKスペシャル「誰があなたの命を守るのか  “温暖化型豪雨”の衝撃」を見ていた。

 学んだことは多かったが、疑問もいろいろ感じた。

 避難情報を流しても住民が避難しない問題が取り上げられていた。

 この問題は以前ぼくはブログに書いたし、同趣旨のことを拙著『どこまでやるか、町内会』でも書いた。

kamiyakenkyujo.hatenablog.com

 

(118)どこまでやるか、町内会 (ポプラ新書)
 

 

 ぼくは身近な市政、福岡市のとりくみを見ていて、不思議に思うことがある。避難指示を出して住民の避難率が0.17%とかそんな数字なのにそれを全く問題に感じていないことだ(2018年9月10日本会議)。

◯50番(中山郁美) …まず、豪雨時における避難、災害対策についてです。
 7月5日から6日を中心に西日本地域を襲った、これまで経験したことのない豪雨による被害は甚大なものとなりました。…
 そこでまず、今回、本市において避難準備情報、避難勧告、避難指示が発出された経緯と住民の実際の避難行動について、その人数も含めお尋ねします。…

 

◯市民局長(下川祥二) 7月5日から6日にかけての避難情報につきましては、河川の水位の状況や土砂災害の危険度情報などをもとに対象区域を指定し、7月5日の16時30分に避難準備・高齢者等避難開始を、6日の6時45分以降、順次、避難勧告を発令しております。さらに、土砂災害の発生または発生のおそれが高まった箇所については、6日の11時5分以降、順次、避難指示を発令しております。また、実際に避難所等に避難された方の人数につきましては1,179人でございます。以上でございます。

 

◯50番(中山郁美) 避難勧告に照らせば、実際の避難者はわずか0.17%と相当少なかったと言えますが、これは問題ではないか、御所見を伺います。

 

◯市民局長(下川祥二) 避難勧告及び避難指示の対象となった世帯数及び人数につきましては、避難勧告が36万7,369世帯、65万7,969人であり、避難指示が1,151世帯、3,715人となっております。避難所に避難しなかった方の中には建物の2階以上の安全な場所へ垂直避難された方も数多くいらっしゃったと考えており、約8割が共同住宅であるという本市の特徴も影響しているものと考えております。以上でございます。

 

◯50番(中山郁美) 今の認識は、避難が少なくても問題がないと言わんばかりのとんでもない答弁だと思います。そんな姿勢では住民の命は守れません。避難勧告や避難指示が発出されても、本人の判断で避難しなくてもよい、結果的に避難者がゼロでも問題ないということですか、もう一度答弁を求めます。

 

◯市民局長(下川祥二) 答弁の前に、訂正しておわびします。先ほど避難指示が、1,551世帯が正確なところを1,151世帯と申しました。おわびします。
 今回の豪雨におきましては、広島県岡山県などにおいて避難がおくれたことで被害が拡大したことを受け、国においても住民避難のあり方の検証を行うワーキンググループが設置されております。本市としましても、今回の避難に関する分析を行うとともに、国における検討状況や専門家の意見等も踏まえ、実際の避難行動に結びつけるための検討を行ってまいりたいと考えております。以上でございます。

 

 問題はないのかと正され、問題・課題があるという認識を示そうとしない。つまり、市は、「垂直避難すればよい(2階以上に逃げればよい)」「マンションが8割なのであまり問題ない」と考えているわけだ。

 ここにはけっこう大事な問題があると思う。

 結局、止むを得ない場合は2階にいればいいのか?

 マンションだから避難行動を起こさなくてもいいのか?

 

 

2階以上に逃げればいいのか? 立退くべきなのか?

 まず前者である。

 災害対策基本法には避難指示についてこう規定されている。

第六十条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。

 Nスペでは避難行動を起こさずに結局家から出られなくなり、2階に避難していた広島の家族が紹介されていた。「出ろ」と言っているのである。

 しかしこういうふうにも書かれている。

第六十条3 災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、避難のための立退きを行うことによりかえつて人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、屋内での待避その他の屋内における避難のための安全確保に関する措置(以下「屋内での待避等の安全確保措置」という。)を指示することができる。 

 どうしようもないときは外に出るより屋内の安全な場所で退避することも止むを得ない、というわけである。

 ただ、常識的にこれを読めば、まず逃げること。しかし、逃げることが逆に危険である場合は屋内に退避しろ、と考えるべきではないのか。

 福岡市(高島市政)が「災害が起きても家の中にいればいい」と考えているのは染み付いた考え方であることは、他の答弁からもわかる(2015年10月8日決算特別委員会総会)。

◯堀内委員 避難対象者3万9,979人に対して避難者は125人で、避難者は対象者の0.2~0.3%、西区だけで見ると0.02%~0.03%であり、少な過ぎると思わないか。また、市民が避難しなかった理由をどのように考えているのか。

 

△市民局長 避難者の数が少なかった理由については、住民の避難行動は、災害対策基本法では、避難所など安全な場所に移動するだけではなく、建物の構造や状況に応じて屋内や近隣の2階以上の安全な場所に移動を指示することができるようになっている。今回の台風第15号に関しては、マスコミや防災メール、広報車などにより、屋外に出ることが危険であると感じる場合は、自宅や近くのできるだけ安全な建物の2階以上に避難することを呼びかけている。また、避難指示を発令して以降、雨が小康状態となったことから、避難指示を受けた住民の多くが避難所へ移動しなかったものと考えている。

 

◯堀内委員 大事な問題であるため確認するが、災害対策本部長である市長も局長と同じ認識なのか。

 

△市長 市民局長の答弁と同様の認識である

 

◯堀内委員 これは非常に重大な認識である。災害対策基本法第60条第1項には何と書いてあるか。

 

△市民局長 災害が発生し、または発生するおそれがある場合において、人の生命または身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立ち退きを勧告し及び急を要すると認めるときはこれらの者に対し避難のための立ち退きを指示することができると規定されている。

 

◯堀内委員 避難指示は立ち退きの指示であると明確に規定されている。屋内の安全な場所への避難ではない。市民が避難しなかった理由について、降雨が小康状態となったためと局長は答弁したが、避難指示は解除されていなかったのではないか。とりわけ土砂災害において避難指示は重要である。平成27年8月に内閣府が策定したガイドラインの8ページの2段落目を読み上げられたい。

 

△市民局長 国が平成27年8月に策定した避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインにおいては、避難勧告等が発令された場合、そのときの状況に応じてとるべき避難行動が異なることから、指定緊急避難場所や近隣の安全な場所へ移動する避難行動を立ち退き避難と呼ぶこととし、屋内にとどまる安全確保を屋内での安全確保措置と呼ぶこととする。立ち退き避難は指定緊急避難場所に移動することが原則であるが、指定緊急避難場所へ移動することがかえって命に危険を及ぼしかねないと避難者みずからが判断する場合には、緊急的な待避、近隣のより安全な場所、より安全な建物等への避難をとることとなる。さらに外出することすら危険な場合には屋内での安全確保措置、屋内でもより安全な場所への移動をとることとなると記載されている。

 

◯堀内委員 マニュアルにおいては立ち退き避難が原則であると記載されており、土砂災害においては特に立ち退きが原則であるとされている。

 

 避難者数が少なくても全く問題はない、家の中にいればいい、という考えがこのご時世の福岡市の危機管理意識の水準であるということに絶望的な気持ちすら覚える。

 しかも、市は自分たちで避難指示を出しておきながら、「当日は雨が小降りになったから避難しなかったんでしょ」と平気で答えているのである。小降りで大丈夫ならすぐ避難指示は解除すべきである。避難指示を出しっぱなしにしておいて、逃げないことになんの問題意識も感ぜず、なんという言い草なのか。「『市はちゃんと避難指示出しましたよ?』という責任逃れ」のために出しているのかとさえ思う。

 

マンション住民は逃げなくていいのか?

 もう一つ。マンションは避難しなくていいという問題はどうなのか。

 市は「住民が逃げない理由はマンションも多いからだろう」と答えているだけであるが、それを問題視している様子はない。0.17%という数字が問題であるという認識はどこにも答えられていないのである。

 

 マンションに住む人は本当に避難しなくていいなら、それはそれでよい。そうはっきりと避難情報を出すべきである。

 だがそうではあるまい。

 しかし、1階ではダメじゃないのか? あるいは2階でもダメな時は当然あるのではないのか? そのあたりの判断が常識的には必要になってくるはずである。

 本当は科学的予測が立てられる行政がそれを判断して情報を出すべきではないかと思う。2階まで浸水しそうだから、大事をとって4階までの住民を避難させるとか、そんな感じで。

 もしその情報が現時点で難しければ、仕方がない。

 ただ、災害が終わってみて、「本来事前に避難すべき住民はどれくらいであり、そのうち実際にどれくらい避難行動をしたか」を行政としては検証すべきではないのか。つまり検証のための母数を確定して、さらに分子を確認する作業が必要だろう。福岡市のこの答弁からはその姿勢が全く伝わってこない。0.17%でも0.02%でも「問題なし」としているのである。

 

 少なくとも福岡市は(1)2階以上の屋内退避でもOK、(2)マンション住民は必ずしも逃げなくてもいい、としているわけで、その問題をどう整理するのか、真剣に考えるべきだろう。

 

 「本物と偽物の違いは有事にわかる」とは高島・福岡市長の言葉なのだが、まさにその通り。高島市長自身が試されている。

 

Nスペへの違和感

 災害の時に避難行動を起こす3つの要素がビッグデータの分析から浮かび上がったと報じられていた。

  1. 避難情報
  2. 環境の異変
  3. 他者の行動/働きかけ

である。この3つのうちの2つがあると避難行動を起こすスイッチが入る人が多かったという。

 ところが、最後は子どもたちに「自分の身は自分で守ろう」と唱和させる映像が流れて番組は終わる。また、識者がこのスローガンを叫ぶところも映されていた。

 いや、1.と3.って「自分」ではないよね? 特に1.は公的な責任が大きい部分だよね?

 自分の身は自分で守るというけども、「災害で死にたい」と思っている人などまずいない。わざわざこのスローガンを子どもにまでしみこませようというのは、例えば防災情報の提供、例えば堤防の整備、例えば消防体制の整備、そういった公的責任をあいまいにするためにくりかえし教育しようとしているのではないかと思えるほどだ。

 

 「自分の身は自分で守ろう」を善意に解釈してみれば、「消防署や警察とか自衛隊とか、誰かが助けに来てくれると思っているという甘い意識を追放するためだ」という反論があるかもしれない。

 しかし、まさにNスペで問題になったのは、「誰かが来てくれる」という思い込みではなかったはずである。

 いざとなったら消防やレスキューなんか、必ずしも自分のところに来てくれないことは百も承知だろう。

 そうではなくて、自分の身は自分で守りたいとは思っているが、「まだ大丈夫」というバイアスがかかることが避難行動をとらせない問題の根源ではなかったのか。そんなところに「自分の身は自分で守ろう」などと唱和させても意味はない。公的な責任への批判意識を眠りこませるだけだ。

 避難行動を起こさせるための具体的な手立てこそ考えるべきではないのか。そしてそれこそは行政の責任で知恵を出すべきもののはずだ。

 福岡市の地域防災計画を見ても、避難誘導は行政の責任である。

避難の誘導者
避難の誘導者は原則として,市長又は福岡県知事の命を受けた職員等,警察官,海上保安官消防団員,自衛官とし,実施要員が不足する場合においては,自主防災組織要員その他地域住民に協力を求める。 なお,避難誘導に際しては誘導を行う者の安全確保に留意する。 

 避難行動を起こさせるために本当に必要なことは、もしその3つがスイッチであるとすれば、ぼくならこうする。

  1. 避難情報を確実に届ける。Nスペで問題になった災害弱者は高齢者ばかりでそういう人たちがスマホやホームページを確認するすべが弱い以上、倉敷市が始めた水位計をネットで確かめるようなやり方ではなく、もっとアナログな方式で避難情報を届ける方法を考えるべきである。
  2. 他者の行動/働きかけが促しやすいよう、町内会のハードルを下げる。町内会の組織だった避難行動ではなく、気軽な近所づきあいが必要なわけで、そのためにも町内会やPTAの仕事を減らして気軽に入って人間関係がゆるやかに広がるようにすべきである。