ブラック隠しの臭いしかしねえ、福岡市の「働き方改革」推進企業認定


 「ブラック企業」の反対としての「ホワイト企業」。
 つまり完全にコンプライアンスばっちりの企業、みたいな感じ。
 そこまでいかなくても、そのつもりでかなり努力しているぜ、という。


 今日の日経で見たんだけど、福岡市が「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」始めるっていうんだよね。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/k-roudou/life/hatarakikata-nintei.html

福岡市は27日、従業員が働きやすい職場作りに取り組む企業に向けて独自の認定制度を始めると発表した。政令市では初めてという。……働き方改革のために福岡市が独自に設けた28項目のうち、16項目を満たせば認定する。子育てと仕事の両立支援や高齢者や障がい者らへの配慮、長時間労働の是正といった取り組みが対象となる。(日経2017年10月28日付)

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2282140027102017LX0000/


 ブラック企業を規制する条例を自治体でどうつくるかを考えた時、独自の法規制がなかなか難しい中では、啓発や相談がけっこう大きな比重を占めると思うが、「ホワイト企業認証」のような反対の企業を顕彰するのはその中の具体策の一つとして一般的にはありうる


 だけど、これって、ヘタをすると「ブラック企業の実態隠し」になりかねない

過労自殺企業が「子育てサポート企業」認定受けていたアレ

 2015年に高橋まつりの過労自殺事件を起こした電通厚労省に「子育てサポート企業」と認定(くるみん認定)されていたことは大きな問題になった。


 旧「くるみん」の認定基準にはこうある。

次世代法や労働基準法男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの関係法令に違反する重大な事実がないことが必要です。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/26a_004.pdf

 ところが、電通は高橋の過労自殺が起きる2015年のすぐ前、2013年にも過労死事件を起こし、2014〜2015年に是正勧告を受けている。なぜ2015年に引っかからずに「くるみん」認定を受けられたのか。


 国会質問を見ると、こうなっている。

国務大臣塩崎恭久君) くるみん認定を受けるためには重大な労働関係法令違反がないことなどが基準として定められております。具体的には、育児・介護休業法や男女雇用機会均等法に違反して勧告を受けていないこと、そして労働基準法に違反して送検され当該事案が公になっていないことなどでございまして、これらに該当する場合は認定を受けることができないということになっています。
 電通につきましても、東京労働局において認定の際に基準に適合をしていることを確認をした上で認定をしたものでありますけれども、今回のような事態になり、大変遺憾なことだと思っております。(参議院厚生労働委員会2016年11月08日、強調は引用者)

 つまり、「労働基準法に違反して送検され当該事案が公になっていない」ので、引っかからなかったというわけである。
 相当にハードルが高くないか?
 人が死んだり、たびたび勧告されたりする「程度」では、「くるみん」認定拒否はできないのである。
 そして、改定された「くるみん」認定の基準はこちらだ。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000156432_1.pdf


 そこにこういう基準がある。

10.法および法に基づく命令その他関係法令に違反する重大な事実がないこと
※「その他関係法令に違反する重大な事実」とは、以下の法令違反等を指します。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000156432_1.pdf

8.労働時間数について、次の1及び2を満たすこと

  1. フルタイムの労働者等の法定時間外・法定休日労働時間の平均が各月45時間未満であること。
  2. 月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいないこと。


 いやー、率直にいわせてもらえば、これでさえかなりハードル高いっすよ。
 「労働基準関係法令の同一条項に複数回違反」あたりが電通事件を意識して入ったのかなと思うけど、それだけでももう十分ブラックだよ。それがないっていうだけで「くるみん」認定していいの?
 しかも「月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいないこと」ってどうやって調べんの?
 さっきの国会質問をした共産党の倉林は、こう言っている。

この確認は申請書類、企業の自己申告によるものだということだと思うんですね。(前掲)

 結局、企業の自己申告なのか*1


 「ホワイト企業」を偽装して実はブラックな実態がある「隠れブラック企業」、「おしろい企業」について、表面上キレイゴトを並べていた飲食大手のサトレストランシステムズ強制捜査が入る様子をNHKが報道している。

会社は、実働8時間・完全週休2日をうたい、時短勤務の推進を掲げていました。
この制度が守られていれば、過重労働など起こり得ないと、社長も自信を持っていました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3886/1.html?utm_int=detail_contents_news-link_003

しかし、長時間労働が隠れて行われているという内部告発などをきっかけに、「かとく」*2が捜査に乗り出したのです。
全従業員、およそ1万人分の勤務記録を押収。
一枚一枚を徹底的に分析し、記録が実態と合っているかどうか照らし合わせていきました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3886/1.html?utm_int=detail_contents_news-link_003


 ここまでやって、ようやくこの企業のブラックが暴きだされた。

ホワイト企業アワード2017とかにして1つだけ選ぶようにむちゃちゃ厳しくしろ

 さて、ここで福岡市の「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」に戻ってみよう。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/60539/1/pressrelease.pdf


 「認定の要件」において、「市税の滞納がないこと」とされているだけだ。あとは書類審査だけっていう可能性がもんんんんんのすごく高い。詳細は11月1日に発表みたいだけど。
 つまり、企業から出された書類審査して、ホワイト認定してはい終わり、というずさんなやり方。そうなる可能性が高い。


 実は、ブラック企業問題にとりくんでいる弁護士に話を聞いた際に、「ホワイト企業認証」の話を聞いた。
 そこで聞いたのは、「ホワイト認定」は、よほど慎重にしなければ、「ブラック隠し」にお墨付きを与えることになってしまう、ということだった。
 その弁護士が紹介してくれたのは、「ホワイト弁護団」というところの「ホワイト企業認定」だった。
 

  1. 経営陣からの本音の聞き取り調査
  2. 規定等の整備状況及び運用実態についての現地調査
  3. 運用実態等に関する従業員へのアンケート調査
  4. 認証後における「フォローアップシステム」の実施
http://white-bengodan.jp/ninsyo/index.html

 2.と3.がすごいと思う。話を聞いた弁護士も、従業員全員からアンケートをとって、実際にはどうかを検証すると言っていた。
 もともとこのホワイト弁護団のメンバーは、ブラック企業の被害者に寄り添って追及をしてきたが、事件が終わると企業側とのつながりが切れてしまい、まじめに改心しようとしている経営者は放置されることになる、という危惧から、ホワイトに生まれ変わるための継続的な関わりとして、このような企画を思い立ったのだという。

被害者支援をしている弁護士からは、「個別事件での被害者救済は可能だが、それによってブラック企業はなくならない。個別事件が終わればブラック企業との関わりがなくなり、結果的に当該企業は放置されてしまう。」との懸念が表明されております。また、労働基準監督署が何らかの「指導」「監督」をしたとしても、企業が具体的にどのような経営改善策をとるべきかの「指導」「監督」が行われることがないのが実態です。
……
他方で、企業の方にも、法的な知識不足等から、「ブラック」という指摘を受けてもどうしたらよいか分からないが何とかしたいという要請があります。
そこで、企業の経営陣が真剣に経営改善を目指したいということであれば、「企業の立場からの経営改善」という方法をもって支援する弁護団があるべきだという考えから、「ホワイト弁護団」を立ち上げました。

http://white-bengodan.jp/purpose/index.html

 ゆえに、

ホワイト弁護団は、いわゆる「ブラック士業」とは対極にある専門家チームとして経営者に真正面から真剣に「モノを言う弁護団」であり、ブラックを取り繕うため、あるいは一時的誤魔化し等のための経営改善支援は行いません。

http://jyohoku-law.com/news/entry20130926.html

 本来、これくらいやるのが行政の役割というものだ。
 まあ、そこまでは望まない。
 福岡市は、書類審査で「ブラック実態隠し認定」をするのをやめるべきである。
 考え方を変えるべきである。
 本当に調べ尽くして「これぞ推薦できる企業」というのを年1つだけ選ぶのである。
 いわば「ホワイト企業アワード2017in福岡市」っていう発想だ。
 例えば全従業員アンケートくらいはやったらどうなのか。できれば、抜き打ちで従業員面接インタビューとかしたりしてね。雁須磨子『かよちゃんの荷物』のかよちゃんみたいに、社屋から出てきた社員に、ここサビ残って本当にないんですか? って不意打ちで聞くんだよ!
*3

 コマを見てもらうとわかるが、手書きっぽい活字や小さい活字のセリフの散りばめや勢い込んで喋るかよちゃんの感じが、真の行動力を描いている印象を与える。“労働条件ばっかり気にして就職を真剣にしようとしないかよちゃんを叱る、友達のひとみちゃん”が次のページに待っているのだが、ひとみちゃんの考えは違うと思う。かよちゃんのやっていることはすごくエラいんだよ。
 つうか、就職しようと思う人、特に新卒の学生さんとかには、ぜひこういう「かよちゃん的行動力」を見習ってほしい。
 実際に社員に本当のところを聞くんだよ。不意打ちで。


 企業の調査はこれくらい厳しくないと。
 だって、市が「認定企業」だって言っているのを見て、学生が就職先を選ぶかもしんないんだよ? それがブラックだったら、市は責任取れんのかよって話。

*1:ただしこの倉林発言は「プラチナくるみん」についてのもの。

*2:過重労働撲滅特別対策班。労働基準監督官の特別チーム。

*3:雁須磨子『かよちゃんの荷物』1、竹書房、p.29