消費税の逆進性と所得課税の非累進性

消費税の逆進性

消費税は逆進的ではない - 池田信夫 : アゴ
http://agora-web.jp/archives/1035708.html

 中身はそう長いものではないので、リンク先をみてほしいのですが、タイトルがすべてを物語っています。なぜか。その根拠は、池田センセイが書いておられます。

人々は当期だけで場当たり的に消費するわけではないので、生涯所得(恒常所得)で考えたほうがよい。

生涯所得で考えると、人々の所得は勤労所得と引退後の年金にわけられます。一般に後者のほうが低いので、現役のとき高い所得を得ていた人でも、引退後は所得が低くなり、消費性向は上がる。人々が合理的に消費すると仮定すると、死ぬまでに所得をすべて使い切るので、生涯所得に対する消費税の比率は同じです。

 この話は「ライフサイクル仮説」とよばれるで、池田センセイの元ネタになった大竹・小原論文にも紹介されています。

 このなかにある、

人々が合理的に消費すると仮定すると、死ぬまでに所得をすべて使い切るので

という部分にコメントやSBMのコメントの批判が集中しています。富裕層はどう考えても莫大な遺産をつくるだろ? とかそういう話ですね。

 池田センセイの紹介した「ライフサイクル仮説」は確かに勤労所得には一定あてはまるのですが、株とかでもうけたりするような人の「資本所得」にはあてはまりません。

 これにたいして、池田センセイは逆ギレ!

「死ぬまでに使い切るという仮定は非現実的だ」とかいうコメントがたくさん来たので、すべて削除しました。その仮定が実証的にフィットしているのだから、死ぬときの遺産の残高は生涯にわたる消費の総額に比べると無視できるということ。

とコメント欄でのたまう始末。「その仮定が実証的にフィットしているのだから」てw 実証が仮定と分離されているならいいんですけど、大竹の「実証」には「生涯消費=生涯所得」つまり遺産はないものとするという仮定が入り込んでいるんですからフィットするのは当たり前なのです。だから仮定の当否の検証をやめちゃいけないんです。

 この件に関して、

経済時評/消費税に“新説” 逆進性ない? - 友寄英隆http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-05-29/2008052904_03_0.html

において、

 消費税の逆進性の根源には、消費する時点で勤労所得には根こそぎ課税して、消費されない資本所得(利潤、利子、配当など)にはまったく課税しないという不公平なしくみがあります。これこそ大衆課税としての消費税の階級的本性です。

とのべているのはなかなか示唆深いものがあります。消費税の逆進性は、単に「大金持ちといってもそんなに消費できるもんじゃない」とかそういう類の認識でいたわけですが、ここに根っこがあったのかと認識を新たにしたのです。

 友寄は上記のURLの記事のなかで、大竹を批判して3つの論点を書いています。
 第一に、ライフサイクル仮説は勤労所得にはある程度あてはまっても、資本所得にはあてはまらない、第二に、大竹のやり方は消費階級別データで序列化した所得階級別データを「生涯所得」とみなすとしていて、「生涯所得=生涯消費」の仮説を前提としており、統計的に無理があること、第三に、もしこの前提が正しいとしても消費税率が途中でかわったら前提(世代間の比例性)が崩れてしまうので、税率はずっと変わらないことになるということ、でする。

 この3つの論点は、池田への批判コメントのなかにだいたい現れています。池田センセイは残念ながらそれには反論できていません。コメント欄を追っていくと2010年6月21日時点でほぼ批判されつくしてしまっています。

所得課税の非累進性

日本の所得税制が超高所得者に有利な逆進課税になっている動かぬ証拠 - kojitakenの日記http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20100619/1276918374

 所得階級別に所得税負担率を示すと、あるラインから、いわゆる大金持ちほど負担が軽くなってしまっているという事実が示されている。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/files/%E7%94%B3%E5%91%8A%E7%B4%8D%E7%A8%8E%E8%80%85%E3%81%AE%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E%E8%B2%A0%E6%8B%85%E7%8E%87%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%9019%E5%B9%B4%E5%88%86%EF%BC%89_small.jpg?d=.jpg

 なぜこんなことになってしまっているかといえば、ひとことでいえば「分離課税」の結果です。リンク先の「追記」にあるように、「『株式等の譲渡所得等』の割合が急上昇」しているからです。

 100億円以上という人はたった9人しかいないんですけど。

株で何百億ともうけた人に減税1人35億円 - しんぶん赤旗http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-07-20/2009072001_02_1.html

 07年分申告所得税標本調査によると、合計所得が100億円を超える高額所得者はわずか9人。このうち株式等譲渡所得(申告所得のみ)を主な所得としているのは8人でした。8人の株式譲渡所得の合計は2829億円となり、1人あたり平均354億円の株式等譲渡所得を得ている計算になります。

 仮に、これらのすべてに軽減税率が適用されるとして試算すれば、1人当たり約35億円もの減税の恩恵を受けていることになります。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-07-20/2009072001_02_1.html

 同記事には「株式などを売り買いして得られる利益や配当にかかる税金は本来20%の税率が、証券優遇税制によって11年末まで10%に減らされています」とあります。グラフで100億円以上の人の負担率が14%ちょいになっていることからもわかるように、そして上の記事にも書いてあるように、この人たちの所得はほとんど株式譲渡所得からだけ得られています。うろ覚えですけど、たしか任天堂の山内かだれか1人だけが給与所得があって、それでちょっぴり負担率の数値があがっているんじゃなかったですかね。

 所得税最高税率引き上げというのはこの問題そのものの解決としてはちょっとスジの違う話です。分離課税を総合課税に、というのは根本的なんですが、根本的すぎます。
 いうところの「証券優遇税制」をすぐ20%に戻せばいい。記事にもあるとおり、1兆円ほどの財源がすぐ転がり込んできます。
 この税制の各国での税率をみると、アメリカ(ニューヨークの場合で27.6%、さらに5%引き上げが提案されています)、ドイツ(26.4%)、フランス(30.1%)、イギリス(42.5%)だそうですから*1、20%に戻しても「金持ちが海外に逃げて行く」うんぬんは出ようがありません。海外に逃げて行ったらもっと高い税金が待ってますからw