高山理図・高野聖『異世界薬局』

 「現代の知識で過去にすごい活躍をする」という設定はゾクゾクする。

 自分の原体験は小学校の登下校中に友だちと『ドラえもん』の「ホラふきご先祖」で笑い合ったからに違いない。

 この設定を作品としてちゃんと読んだ最初は、横山光輝『時の行者』である。

  その次は、村上もとか『JIN』であろうか。

 

JIN―仁― 全13巻セット (集英社文庫(コミック版))
 

 

 医療というのは、過去を見ると本当にどうしようもない技術だったのだとしか思えない。もし昔に転生するようなことがあったら、絶対にかからないだろう。

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 そこに現代の医師、それも最先端の知見をもって活躍する医学者が「転生」したら、これはもうスカッとしてしまうこと、請け合いですわ。それが『異世界薬局』なのである。

 

異世界薬局(1) (MFC)

異世界薬局(1) (MFC)

 

 

 新進気鋭の薬学者である薬谷完治は過労死し、ヨーロッパ中世ごろの技術設定である世界、しかし地球ではないどこかの異世界の子どもに「転生」してしまうという設定である。子どもではあるが、物質を作り出す「神術」を操れることになっている。

 この作品は2017年からスタートしているが、知らなかった。

 知らなかったのに今知ったのは、ネット広告を見たからである。

 ネット広告で読まされたのは、瀉血で体調を崩して、しかも感染症を起こしているという見立てを主人公が行うシーンである。

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高山理図・高野聖異世界薬局』2、KADOKAWA。kindle117/170

 主人公の断定口調がカッコイイのと、「あれ、ちょっとエロいのかな…」的な意味不明の誤解をして思わず興味を持ってしまったのである。

 しかも、主人公は、この近代医学の知識をもとにしてそれを貴族階級の独占物とせずに平民階級にも広げようと、市井に薬局を開くという話なのだから、コミュニスト的にはもうたまんない設定なわけである。「白粉」の中毒の話は、『JIN』にも出てきてもう手垢がついているのであえて出さなくてもいいとは思ったが、これを王に進言して政策にしてしまうあたりは新しい展開なのでまあ良しとしようではないか。

 だけど、近代的な視点から見た過去の医学・慣習のおぞましさというのは無数にあると思うので、ネタには困らないはずである。そこをいろいろ見せて欲しい。

 

 

 これは個人的な好みであるが、宮廷ドラマとなる『薬屋のひとりごと』よりはのめりこめる。