ぼくは地元の自治体の高校には行かず、電車で片道1時間半もかけるような、となりの大きな市の進学校に行ったので、自分と同じ中学から来ている生徒は同学年に1人もいなかった。
そこで生まれて初めて「誰も知り合いがいない」という状態を体験した。
生まれてからずっと友だちに囲まれ、しかもその中で「文化的リーダー」であると自負していたから、いつもコミュニティの中心にいるような気持ちが中学校まではずっとあった。
そこへ来ていきなりの孤立である。
「友だちを作る」などという、これまでに経験したことのないミッションをこなさねばならず、しかもぼく程度の成績の「優等生」は掃いて捨てるほどおり、ぼくは誰からも注目されない、誰からも話しかけられない、透明人間のような存在となった。
「街」の奴らの会話やノリにはついていけず、かと行って同じような田舎臭い人たちと話していても別に楽しくもない。自分は一体どういう人間関係の距離をとればいいのか初めて悶え苦しむことになった。
本作『スキップとローファー』は、石川県から東京の進学校にやってきた岩倉美津未(いわくらみつみ)は別にそのような悶絶を経験するわけではない。
しかし、田舎から独特の気負いを持って乗り込み、都会の洗練された人間たち(江頭ミカのような)からいろんなジャッジを受けてしまう様を見ると、あの頃の自分を思い出してしまい、どうにも身もだえしてしまう。
だが、みつみは志摩聡介というチャラそうなイケメン、そして、村重結月(ゆづき)という謎めいた美少女という、2人からなぜか興味と好意を持たれてしまうことによって、むしろその純朴なまっすぐさを救済される。
都会的なコミュニティの上位に位置する人間に庇護される形で、「みつみらしさ」を失うことなく活躍できるわけで、ぼくから見て、ユートピアというほかない。
この作品でぼくが好きな瞬間は、聡介や結月から庇われ、みつみへの攻撃を彼・彼女が暴きたて、ミカのような存在が逆にその虚偽の部分を失って「まっとう」になっていく、そのあたりのシーンである。
あの頃、こんな友だちがいたら……! という羨望の気持ちで読む。
『このマンガがすごい! 2020』にて番外の「オトコ編」作品として選ばせてもらった。オトコ編7位に入って嬉しい。