台湾有事答弁の「撤回」?

共産党の地方議員からの「抗議」

 数年前の話だが、ぼくが日本共産党を応援する演説例をつくったとき、対米従属の危険性を暴くくだりで、台湾をめぐりアメリカと中国が戦争になったら、日本がまきこまれる、という趣旨のことを書いたら、共産党の地方議員から抗議を受けたことがある。これは共産党の見解ではない、と。

 その議員は基地問題を熱心に取り組んでいる人で、地元の自衛隊基地が米軍の戦争準備に使われる危険があることを議会でも住民運動でもさかんに取り上げていた。

 しかし「米中戦争」とか「台湾有事」のようなことを左翼陣営の側が口にして煽るな、という意味でぼくに抗議したのだろうと思う。

 ただ、今の日本政府の軍事・外交対応は明らかにそうした事態を想定しているのではないか、それを暴露し、戦争の危険(先制攻撃戦争への加担の危険)を訴え、その根源にある日米安保条約(日米軍事同盟)の廃棄を迫るのが共産党のど真ん中の役割ではないのかとぼくは思っていたので、そういう「抗議」は釈然としなかった。

 けれども、選挙戦も近かったし、争っている場合でもないと思ったので、そこは折れた。 

対米従属の最大の危険とは何か

 ぼくは、日本における対米従属の最大の危険を「米軍の戦争にまきこまれる」という点で考えてきた。

 そのことは、このブログでも過去に繰り返し書いてきた。

kamiyakenkyujo.hatenablog.com

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 拙著『正典で殴る読書術 「日本共産党独習指定文献」再読のすすめ』でもとりあげてきた。

 宮本顕治の『日本革命の展望』にみられたように、かつては革命の権力問題として、在日米軍の存在を考えてきたのが日本共産党だったのだが、「先進国の革命政権を米軍が武力で弾圧する」というシナリオがあまりリアリティを持たない今、対米従属を緊急に解消すべき目の前にある危険性は、朝鮮有事・台湾有事などの米軍の戦争、しかも先制攻撃がなされるかもしれない戦争にまきこまれることではないのか、と思ってその部分を書いた。

沖縄・普天間基地

共産党は“台湾有事を想定したものだ!”という暴露をしてきたのでは

 高市首相が台湾有事をめぐり「存立危機事態になりうる」と国会で答弁したことをめぐり中国との対立が深まるとともに、日本国内での世論が沸いている。

 日本共産党はこれに対して、国会で高市答弁の撤回を求める論戦を行なっている。

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 「撤回」…なんですかね、求めるものは。

 という違和感がどうしても残る。

 共産党は日本政府が進めている軍事的対応が台湾有事を想定したものではないかということをむしろ積極的に暴露しようとしてきたのではないかと思うからだ。

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 それなのに“答弁を撤回して台湾有事を想定したものではないということにせよ”という要求をするのは、なんだかなあと思うのである。

安保条約を結んだ当時の首相・吉田茂(神奈川の大磯山公園の銅像

安保法制廃止にとどまらず安保条約廃棄を訴えるべきでは?

 むしろこのような危険が浮き彫りになった以上、「撤回」を求めるのではなく、米軍の戦争に直接加担してしまう安保法制を廃止すべきであり、さらに、米中戦争の戦闘への直接の加担がないとしてもそもそも米中戦争に出撃拠点を事実上提供する日米安保条約=日米軍事同盟を廃棄すべきだと訴えるのが日本共産党の綱領から言えば筋ではないのだろうか。

 日本共産党綱領には次のような規定がある。

日米安保条約、一九六〇年に改定されたが、それは、日本の従属的な地位を改善するどころか、基地貸与条約という性格にくわえ、有事のさいに米軍と共同して戦う日米共同作戦条項や日米経済協力の条項などを新しい柱として盛り込み、日本をアメリカの戦争にまきこむ対米従属的な軍事同盟条約に改悪・強化したものであった。

 常識的に考えて、台湾をめぐって米中が戦争を始めて、それがなぜ日本にとって「存立危機事態」になるのか、説明がつかない。いきなりどこかの国が日本を攻めてくるわけではなく、わざわざ好きこのんで直接関係のない戦争に参加して当事者になりに行くので、どうかしているとしか思えない。

 日本にある在日米軍基地が、台湾をめぐる米中の戦争の出撃拠点に「事実上」なってしまうから、そこに中国は攻撃をしかけてくることになる。(もちろん、具体的にどのように戦争の拠点になっているか、攻撃の実態に即して考えられるべきだろうから、そのまま在日米軍基地の存在自体が単純に中国による日本の攻撃の「正当性」を付与するものではないではあろうが。)「米軍基地が日本にあって、米中戦争が始まればそれめがけて中国が攻撃してきて日本が火だるまになるから『存立危機事態』なんだYO!」という理屈なのだろうが、「なら米軍基地置くのをやめたら?」「台湾をめぐる戦争に手を貸さない方がいいと思うよ」というのが共産党綱領が説く道理のはずである。

 

 共産党は、田村質問の後に「根源は安保法制」というキャンペーンを始めた。

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 田村質問がそこをつかなかったことを問題視する党幹部まわりでの議論があった…かどうかはわからないが。でもまあ、これ自体はいいことであると思う。

 20日の田村委員長の記者会見で、「撤回」と並んで、安保法制廃止の強調が始まった。

 ただ、同じ20日参院の委員会での山添拓議員の質問は、安保法制廃止に言及しているものの、質問そのものでは求めていない。

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 立憲民主党など、他の党が「答弁撤回」を求めるのはわからないでもない。*1

 しかし、共産党綱領が求めているのは、安保法制にとどまらず、安保条約(日米軍事同盟)そのものの廃棄である。共産党はこの機会になぜその告発・暴露をしないのだろうか。

 台湾をめぐる米軍の武力行使に日本が手を貸さなくても(安保法制がなくても)、米中でドンパチが始まれば日本に米軍基地がある以上そこを攻撃される危険は去らない。「じゃあやっぱり基地貸与をやめます」というのが根本解決策だ。そしてそれをいうプレイヤーが政党では共産党しかいない。「存立危機事態になるぞ!」という脅しの前提(在日米軍基地の存在)を他の党は認めてしまっているので、日本の安全にとってラディカルな選択肢が出てこないのである。

 

 共産党が目指す政権は、安保条約容認政権ではなく、安保条約廃棄政権(民主連合政権)であり、これは原則的にはいかなる中間段階の政権も設けないはずの、直ちに行うべき課題のはずである。例外的に条件があるときだけ野党連合政権や暫定政権を求めるべきものであって、本来、中間段階を設けずにひとすじにこの安保条約の即時廃棄を求めるはずのものだ。*2

 

 これは反語ではない。

 純粋な疑問である。

 共産党の立場から言っても、外交の機微として、ぼくのような「しもじも」のものにはわからないこともあるのかもしれない。

 だけどそれは一体どういうことなのかをわかるように説明してほしい。

 そして、「撤回」ではなく、問題を積極的に暴露し、安保法制廃止や安保条約廃棄こそ必要だという論戦になぜならないのかもあわせて説明してほしい。

 いや、ホントにぼくはわからないので。繰り返すが純粋な疑問である。イキっているのではない。

*1:質問をした岡田克也議員は「今撤回したら中国に言われて撤回したことになってしまう」として単純に撤回は求めないようだが。

*2:そうだからこそ、「綱領のどこにも日米安保条約を段階的に解消するとの立場はない」「安保条約の段階的解消論――安保条約解消のためにはいくつかの中間的段階が必要だという立場では決してない」と大会で決定して松竹伸幸を「安保条約容認」のかどで、追放したはずであろう(ぼく自身は共産党のこの松竹に対する認識は間違っていると思っているが)。