これホントに言ったの?
立憲民主党の枝野幸男代表は21日夜、野党共闘について「3年前に(参院選で)初めてこういった形を取った時よりは、いろいろな意味で連携が深まっていると思っている」と評価した。そのうえで「この連携をさらに強化して、次の総選挙ではしっかりと政権選択を迫れるような状況を作っていきたい」と述べ、立憲民主、国民民主、共産、社民、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」の野党5党派で政権交代を目指す考えを示した。
っていうか、直接それを示す文章がないけど、「野党5党派で政権交代を目指す考えを示した」っていう含意で解釈していいの?
いや、批判しているわけじゃなくて、これはなかなかスゴいことだと思う。
共産党が加わっての政権協議が始まれば、それは歴史的なことだ。
今回の選挙は改憲に必要な3分の2を割らせたし、野党共闘をした1人区で3年前とほぼ同じ10の区で勝利した。それはそれで大事な成果である。
ただ、現状では限界があることも確かである。
自公を少数にできていないのだから。なぜか。
前からずっと言ってきたことだけど、安倍政権が続いている一番大きな原因は、野党側が「政権」という形のオルタナティブを示せていないからだ。
ある意味で、安倍首相が言う「安定か混迷か」「当選したらまたバラバラ。あの混乱の再現」という野党批判には「道理」がある。
それができてこなかったのは、野党内に「共産党が入った政権」を嫌がる向きがあって、話が進まなかったのである(ゆえに2017年総選挙直前に「共産党外し」をして野党共闘を壊す「希望の党」騒動が起きたのだ)。
ところが、今回の枝野の言明は額面通りであれば、これを乗り越えるものだ。画期的。すばらしい。
野党は、まず「共通した代替の政権像」を示せて初めて政権交代の第一歩を踏み出せると思う。
逆にいうと、これが示せていない段階で「若者が安倍支持をするのは……だからで〜」とか「リベラル・左派がしょうもないのは……だからであって〜」的な意見にあまり過剰に付き合う必要はない(もちろん、聞くべき点はあるし、それはそれで参考にして改善すればいいとは思うが、とらわれすぎないほうがいい)。そんなことより、まず政権合意をつくるほうが先だ。確かな代替案が見えないから安倍政権支持が続くことが主要な問題であって、示せれば状況は変わると思う。
実は、今回の参院選で、市民連合を通じた「共通政策」は合意されている。
「まだ具体的ではない」という意見もあるとは思うが、これは、自民党・公明党が政権を奪取した時の政権合意と比べても、具体性にそれほど遜色があるとは思えない。
https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf083.pdf
しかし、これは政権合意ではない。あくまでもこの選挙での候補者が今後6年間どう活動するかということの縛りでしかないのだ。
しかも、前述の通り、野党に対する「混迷」「バラバラ」という安倍・自公の批判には一定の「道理」があり、国民の意識(不安)が反映していることはしっかり見ておくべきで、細かいことをあれこれ詰めるのではなく、次のような原則や戦略方向がきちんと確認されておくべきだ。
(1)政権の戦略・イメージ
まず、政権の戦略・イメージである。
要は、松竹伸幸が指摘する「どういう未来を見せられるか」問題だ。
もともと野党連合政権は、「安保法制廃止・立憲主義の回復」から出発した。いわば「暫定的政権」「緊急避難的政権」が議論のスタートだった。つまり、「基本政策はぜんぜん一致しないけど、安保法制をなくし、現憲法下での集団的自衛権の行使を再び禁じるまでとにかく戻すということで緊急避難的に政権つくろうぜ」という性格の政権(構想)だったのである。
しかし、もはやそういう緊急避難的政権をとりあえずつくろうという話ではなくなっている。「安倍政権に代わる政権をどうつくるか」っていう話に発展しているのだ。だとすれば、それはすでに経済、外交・安全保障、民主主義など全般にわたる「本格政権をどう作るか」という議論でなければならない。
「共通政策」は消費税増税中止などを盛り込んでいてけっこう問題の根幹に触れているものの、一体その野党連合政権は何を目指しているのか(どんな日本を作ろうとしているのか)、は今ひとつである。それを国民にわかりやすく示さなければならない。
それは一言で言えば、国民民主党が掲げている「家計第一」、つまり、安倍政権が大企業サイドの歪んだ成長を追求しているのに対して、野党政権側は、分配と持続的成長を対置する…などの方向ではなかろうか。
「薔薇マーク」キャンペーンなどが指摘するように、経済についての戦略方向を鮮明にしてそこをメインにした政権イメージを示すべきだと思う。
市民連合との「共通政策」で言えば「消費税増税中止・原発再稼働中止・改憲中止の緊急政権」的な打ち出しになってしまうかもしれないが(この3テーマはもちろん国政上の根幹をなす政策だから、決して瑣末なものでないことは確かだが)、狭い左翼業界はそれで良くても一般国民からはそれが一体どういう日本を目指している政権であるのかはわかりにくい。
ただ、これだって単純にはいくまい。なぜなら、安倍政権は曲がりなりにも「最低賃金のアップ」「幼児教育の無償化」「大学の無償化」「相対的貧困率の改善」などを進めているからだ。もちろんそれへの批判はある。が、まだ政権を担当していない側が、その批判を込みで、説得的な対案として示せるかどうかが次の問題なのだ。
「一致点にもとづくことが大切であって、無理に政権イメージまで共有させる必要はない」という意見もあろう。もちろん「一致点にもとづく共闘」という原則を壊す必要はないし壊してはいけない。しかし、政権が何を目指すのかというイメージが簡単かつ効果的に伝えられない場合は、自公を超える評価を得ることは難しいのもまた事実ではないだろうか。できればそこまで進んで欲しい。
(2)財源の大きな方向性
次に財源の大きな方向性についての確認が必要だ。
国民はこのことを気にしている。そしてそれは健全な心配だ。野党はそれぞれなりに対案を出しているが、問題は、それを一致した方向性の合意にできるかどうかだ。
例えば、国民民主党の政策というのは、経済政策を見るとぼくなどはかなり納得できるし、ぼくが選挙に出た時に打ち出した政策とすごく近いなと思って見ていたが(家賃補助とか家計第一とか)、財源論で急に不安になった。「こども国債」の発行だからだ。
今合意されている「共通政策」には「所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図る」しかない。このあたりは大企業・富裕層への課税方向を明確にするなどのもっとしっかりした確認がいる。
例えば立憲民主党(枝野幸男)は次のような踏み込みをしている。
「過去最高の利益をあげている企業が法人税を十分に払っていない。法人の所得税、金融所得、こうしたところへしっかりと課税をして、まず払える人から払っていただく」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-07-11/2019071101_04_1.html
しかし国民民主党は必ずしもそうではあるまい。そこはどうするのか。
(3)安全保障はメインではないが不安を解消すべき
先述の通り、野党共闘はもともと「安保法制廃止・立憲主義の回復」から出発しているので、ついそれをメインに打ち出したくなるが、しかし、「国民が強く望んでいること」との関係ではメインとは思われない。もちろん、政権構想の中にはきちんと入れる必要はある。あくまで「食いつき」問題である。
ただし、安全保障分野は、野党に対する国民の「不安」の中心点であり、メインに打ち出す話とは別に、その不安を払拭できるようにしっかりと原則を確認しておく必要はある。
例えば、共産党は安保条約廃棄や自衛隊解消・違憲論は取らないことをすでに明確にしているが、そのことを再確認すべきだろう。
しかし、それだけでは十分ではない。
国民が本当に心配しているのは、松竹伸幸らが指摘しているが、自衛隊や安保をきちんと運用できるかどうかなのだ。例えば核兵器禁止条約一つとってみても、核抑止力論への賛否が絡んでくるので、野党内で合意ができなければ、新たにできる野党連合政権はこの条約を批准をしないことになる。そこを国民に説明できねばならない。
「安保条約廃棄をしない」とは安保条約を「凍結」することだが、「凍結」とは動かさないことではなく、現政権(安倍政権)と同じ運用をするということだ。新政権内で合意できる改善(例えば思いやり予算の削減など)はすればいいが、それすら合意にならない場合は、安倍政権と同じ方針で運用することを正直に国民の前に言っておく必要がある。
ただ、共産党は前々からそのことは言っている。
安保条約の問題を留保するということは、暫定政権としては、安保条約にかかわる問題は「凍結」する、ということです。つまり安保問題については、(イ)現在成立している条約と法律の範囲内で対応する、(ロ)現状からの改悪はやらない、(ハ)政権として廃棄をめざす措置をとらない、こういう態度をとるということです。
https://www.jcp.or.jp/jcp/yakuin/3yaku/FUWA/fuwa-iv-0825.html
「現在成立している条約と法律の範囲内で対応する」とは安保条約を使うということである。
(4)戦略が合意できないなら変えないことも
安全保障に限らず、合意できないものは変えてはいけないのは当然である。
しかし、仮に野党内の合意ができても、問題によっては戦略(大きな方向)が合意できない場合には、いたずらに動かすべきではないものもある。
例えば年金問題はその一つだろう。
共産党はマクロ経済スライドの廃止を掲げ、財源論として高額所得者優遇の保険料是正などを掲げた。これに対して立憲民主(枝野)は次のように述べている。
「年金制度は、どういう制度に変えていくにしても、幅広い与野党の協議が必要。志位さんのおっしゃっている提案は、まだわれわれは精査できていませんが、一つのアイデアだと思っている」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-07-06/2019070605_02_1.html
あくまで検討課題に過ぎない。国民民主も同じだろう。
つまり、未だこれは合意ではないのである。
「共通政策」の中にも年金はない。
だとすれば、年金は動かさない方がよい。年金のようなものは、野党として共通して確認できるビジョンがあるなら切り替えてもいいと思うが、中途半端な部分合意で動かすのは確かにあまりよくないからである。
動かさないということは、マクロ経済スライドすなわち共産党のいう「減る年金」を野党連合政権になっても続けるということだ。
金融緩和も同じである。野党内でこれをどうするかについて合意ができなければ、黒田金融緩和の方向は続けるしかあるまい。
もちろん、共闘は一致点に基づいて行うものだから、一致できないものを無理に一致させることはできない。
しかし、上記の4点については原則をどうしておくかよく確認しなければ、国民の不安には応えられまい。超具体的に言えば、テレビ討論で安倍にツッコミを入れられるのは間違いない。
* * *
総選挙は政権を選択する選挙になる側面を必ずもつ。
それは決して遠くない。
そうだとすれば、政権合意をつくって国民に示し、それに基づいて小選挙区の統一候補を決め、活動を浸透させていくことを考えると、残された時間はあまりない。
共産党も入れて協議を開始すると決めたのなら、いち早く協議に入るべきだ。もちろん「れいわ新選組」も基本方向に合意できるなら、一緒にやっていった方がいい。
1回では変わらないかもしれない。だが、まずは政権協議を始めることだ。
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以下は余談。
今回の参院選挙でぼくが自分の直接関係する選挙区以外で注目していたのは、高知・徳島選挙区の松本けんじであった。
松本はもともと共産党候補であったが、野党統一候補となって、合意によって無所属となった候補である。それが今回40%得票したのに正直驚いた。
「共産党出身」でも、統一候補としてここまでやれるんだという意味で、なのだが、それだけではない。
演説は(音楽の)ライブに似たところがあり、いい演説には、人が立ち止まったり振り向いたりする。中身だけでなく、声質とか口調とか見た目とか、そういう総合的なもので決まる。
ぼくはネットで見ただけだったが、演説がぼく好みなのだ。こういう感じで訴えたいものである。
「本当に財源ってないんでしょうか?」
— 松本けんじ (@matsu_en) July 7, 2019
7月7日、高知大丸前での野党共同街頭演説会。炎天下、多くの方にお集まりいただきました。ありがとうございます。(スタッフN)#松本けんじ#参院選2019 #野党統一候補 pic.twitter.com/Fa5WiwhNl1
中身についても、安倍政権の「働き方改革」について、それ自体は反動的な性格を持っているのに、同時にそれが世の中の進歩の表現だと把握する見方(12分14秒あたり)に深く同意する。