このたび、『正典(カノン)で殴る読書術 「日本共産党独習指定文献」再読のすすめ』(かもがわ出版)という本を出します。
10月上旬に刊行予定です。
日本共産党はかつて党員のために「独習指定文献」リストを提示してきました。また、民主青年同盟にも同様の指定文献リストがありました。
現在、日本共産党の独習指定文献制度は廃止されていますが、本書はこの膨大なリストの中から、いくつかのものをセレクトして再読をしてみたものです。
以下は、出版社から。
読書は、再起の武器になる。
日本共産党が党員のために指定してきた独習文献群を、いまの社会課題に立ち向かう〝知のツール〞として読み直す。ネット論争からジェンダー、地方政治、文学、自然科学——ジャンルを横断しながら、「読む力=考える力=殴る力」を鍛える一冊。
考えることをあきらめないすべての人へ。 ふたたび立ち上がり、踏み出すための読書ガイド。
そして本書の「はじめに」の一部を抜粋します。
本書をどんな人に読んでほしいのかを、4点にわたって書いていますので。
第一に、純粋な知的好奇心からです。…読者は、本書であげられた本を一冊も知らなくても、書評として楽しめるように心がけました。左翼でない、一般の人からみれば、一種の「奇書」が多いので「そんな本もあるのか」と驚いていただければ望外の喜びです。
また、マルクス主義や近代文学の古典の書評も入っており、それらの道案内としても役に立つと思います。もっとも、例えば『資本論』を「搾取のしくみを解明した」と説明するようなオーソドックスな解説ではないので、その点のユニークさも味わってもらえればと思っています。
第二に、かつてあった組織文化や教養を知ってもらうことができます。ある種の文化史の保存ということもできると思います。
共産党に限らず、自分が関わったことがない集団や産業の独特の文化というものは、ふつうは「奇妙」なものです。何らかの歴史や理由があってその独特さが生まれているのですが、独習指定文献をめぐる共産党的な教養のユニークさを、一般人の視点で楽しんでもらえればと思っています。
第三に、すでに使われなくなったテキストの受容を改鋳することで、共産党や左翼運動の再生に役立つ教養として再生させようとしています。実は私の直接の目的はこれです。
かつて、独習指定文献は政治的な確信を党員の中に生み出させるものとして使われました。そういう意味では、これらの文献の解釈は組織の中央から与えられ、そこからの逸脱はなかなか許されないものでした。まさに「正典(カノン)」だったのです。
しかし、「正典」としての位置付けを外された今、それらの文献に自由に接してみると、その意義も限界もクリアにわかるようになり、それどころか、昔では考えられないような新鮮な読み直しができるようになりました。文献が新たな生命力を持ち、社会や組織の現状を鋭く批判する武器としてよみがえってきたのです。まさに、それは精神的に殴られるような体験でした。本書のタイトルは私のこの知的体験からきています。
また、現在の共産党員や過去に共産党に関わったことのある人たちにとっては「昔なつかしい文化」を楽しんでもらえるタイムスリップとしても体験してもらえることでしょう。
第四は、狭く共産党の再生だけでなく、近代というものが抱えている社会や組織の合理性や歪みと格闘する知的な武器にもなるということです。
「第三」のところで共産党の再生を考える武器となるという話をしましたが、共産党という組織装置がまさに資本主義という近代の課題と格闘する中で生み出されたものであることを考えれば、そこでの格闘は共産党に限られたものではなく、ひろく近代というものに共通する格闘であることは想像してもらえると思います。
独習指定文献はどれも近代の課題と格闘し、一部勝利し、一部敗北してきました。私たちは近代に生き、いまだに近代の示した課題に苦しんでいる存在として、この格闘を味わうことができると思います。以上の通り、現役の共産党員や共産党から離れて行った人たちはもとより、まったくそんなことには関心のない人にも楽しんでもらえる書評集として本書を書いたつもりです。

セレクトしたのは以下の18冊です。
- エンゲルス『空想から科学へ』
- エンゲルス『フォイエルバッハ論』
- マルクス・エンゲルス『共産党宣言』
- マルクス『ゴータ綱領批判』
- マルクス『資本論』
- レーニン『唯物論と経験批判論』
- レーニン『国家と革命』
- レーニン『なにをなすべきか?』
- 『自由と民主主義の宣言』
- 『日本共産党と同和問題』
- 『自治体活動と地方議会』
- 宮本顕治『日本革命の展望』
- 宮本顕治『党建設の基本方向』
- 西沢舜一『愛とモラル』
- 有島武郎『カインの末裔』
- 宮本百合子『貧しき人々の群』
- オストロフスキー『鋼鉄はいかに鍛えられたか』
- ファラデー『ロウソクの科学』
ぜひお手に取ってみてください。
