台湾の新総統・頼清徳の就任演説。
長くはないので全文を読んでしまった。
日本の新聞はどう評価しているのかなと思っていたが、
(1)「現状維持」
(2)中国との対立を意識してかなり踏み込んだ表現をした
という二手の解釈に分かれたように思う。
中国側の反応は強い非難のニュアンスを感じる。
(1)だと中国がなぜそんな反応になるのかがわからなくなるが、「台湾側はことをあらだてるつもりはないのに、中国が一方的にイキッている」というニュアンスが出るのだろうか。
(2)の報道だと、中国側の反応はわかりやすくなる。
例えば朝日は次のように報じた。
アイデンティティーや経済の面で中国と近づくということはなく、「明確に川を渡った」という印象を受けました(松田康博・東大教授)
相当な踏み込みようだ。
松田は共同通信(西日本新聞21日付)にも次のように語っている。
頼清徳新総統の演説は中国と意義のあるコミュニケーションを取った痕跡がない。中国が強い圧力をかける中、妥協しても何も得られないという教訓を基に、抵抗姿勢を明確に打ち出した。台湾と中国は別の国だと位置付けており、中国にとっては取り付く島がない。
つまり、中国側が体裁を保って行動に出られるようなフックが何もなく、頼もそのようなきっかけを作るつもりもないということである。もちろん先ほど述べたように「現状維持」「中国に武力による脅しをやめるよう求めたい」という訴えは行なっているのではあるが。
時事通信もなかなか厳しめの評を出している。
頼氏は、蔡英文前総統と同様に「現状を維持する」と述べる一方で、中国が掲げる「一つの中国」原則の完全否定とも受け取れる表現を多用。中国が強く反発しているだけでなく、台湾内でも「事実上の独立宣言だ」という見方が出ている。
表面上の言質を取られないように言い回しは工夫したが、内実で「独立」のニュアンスを強めた、という感じだろうか。東浩紀的な「訂正する力」とでも言おうか。
ぼくとしても(2)的なニュアンスを感じた。まずいなあ。
だからと言って、中国側が武力対応を強化することには何の合理性・正当性もないのであるが。
明らかに対話が遠のいてしまい、日本は台湾有事に巻き込まれる時計の針をまた一つ進められたように感じた。特効薬があるわけでもないので、ぼくとしても「こうすればいい」というような明確な解決策の方向性は何も見出していない。ただ、ぼんやりと不安になるだけだ。
しかし、日本の新聞各紙が社説で問題の平和解決と中台の対話を要求したように、愚直にそれを追求するしかないだろう。日本政府にもそれを要求する。
そして、日本としては米軍の戦争に加担する形で緊張を高める「備え」を強化していく循環に入らないことである。*1