水島みき・あやか『独身アラサーOLあやかのぼっち宿泊記』

 昨日の記事を書いた後、粋なホテル・宿じゃなくて、ビジホに泊まるようなマンガはないだろうかと思って探したら、ちゃんとある。

 ただしビジホといっても、本当に超安い、いつもぼくが探して泊まるようなやつじゃなくて、もうほんの少しだけグレードが上の、温泉付きのようなビジネスホテルである。ドーミーインの系列がいくつか紹介されているが…。

 自宅や職場近くを避けることで「プチトリップ」感を確保しつつ、ストレス解消として宿泊する。

 主人公・あやかの楽しみ方は、週末に(別の箇所では「月1」とある)仕事のストレスを解消するために、ふかふかのベッド、充実したアメニティ、完璧な空調を条件としつつ、一人でのホテルにおける食事を楽しむのである。

 食事は、コンビニ、行きつけの居酒屋でのスペシャルな弁当の調達などで揃える。「ビジネスホテルの気ままなおこもりメシ」「レストランでもオシャレなバーでもない」「誰にも気をつかわずにいられる自分だけの場所」というコンセプトで、これはぼくが理想とする快適空間に近い。Wifiでドラマを見たり、マンガを読んだりする。

 この本によれば、ビジネスホテルで「マンガの品揃えが豊富なところ」もあるのだという。いやあ全く知りませんでした。

 飲んでいる酒は普通のビールやハイボールが多いようだけど、通販で買った地ビールなんかをわざわざ持ってきたりしている。

 ただ、主人公がウイスキーの5リットルペットボトルを買うのは全く意味不明…。コスパがいいからって、ビジホこもりで買うのか?

 

 食事量も「ああ、30代だな〜」って感じ。健啖。とてもこんなに堪能できない。

 

 「広い風呂」っていうのが実はポイント高い。

 最近、ぼくがとあるところで「いじめ」に遭ってしょげているのを知った旧友が、ぼくを小旅行に招待してくれるということがあったのだが、そのとき、「温泉付きのビジネスホテル」というのに招待してくれて、そこで初めて「ユニットバスではないビジネスホテル」というものを体験した。

 ここの主人公もビジネスホテルでの朝風呂を楽しみにしているようだが、コマからはその快適さが伝わってくる。

 

 本書は、YouTuberの「33歳酒飲み独身女あやかのぼっち宿泊記」が元ネタになっているようだ。アマゾンのカスタマーレビューには、「動画と違う」という苦情が載っているけど、いくつか見たところ、だいたい同じようなテイストを感じた。よほど動画の熱心なファン以外は、あんまりそういう評価を機にする必要はあるまい。

www.youtube.com

 

 本書の終わりに次のようなモノローグがある。

人はみんなそれぞれに

癒しの魔法を持っている

自分で自分のご機嫌をとれるのが

大人の特権だから

ときどきは立ち止まって

大切な自分にご褒美を…

そうやって元気をチャージしていこう

 労働力の回復。

 マルクスは賃金(=労働力価値)を論じる際にどのようなコストを計算に入れるかあれこれ考察した。「労働力が回復するための費用」はそのメインをなすものである。マルクスが『資本論』で労働者の叫びを代弁して書いた部分を紹介しよう。

 

僕の労働力の日々の販売価格を媒介にして、僕は日々のこの労働力を再生産し、したがってまた新たに売ることができなければならない。年齢などによる自然的消耗を別にすれば、僕は、あすもきょうと同じ正常な状態にある力と健康をとはつらつさで労働できなければならない。(マルクス資本論』第1部第8章、新日本版第2分冊p.403)

 

 日々の労働によって削ぎ取られていくヒットポイントの回復を、高度に発達した資本主義国の賃労働者はどのように行うのか? という現実がここには描かれている。

 

 本書に登場するビジホは1泊7800〜3万6000円である。そこに月イチで宿泊できる賃金と時間(+交通費)が最低生計費として換算されてほしい。