「ビッグコミックスペリオール」に連載されていたアキヤマヒデキ「ボクらはみんな生きてゆく!」が今号(2023年6月23日号)で最終話になってしまった。悲しい。
同作は都会から田舎に戻ってきた作者がまず狩猟をはじめ自然を相手にする様々な「ビジネス」で生活を立てていこうとする実話である。
最終話の中心になったのは、作者の生活がマンガになるにあたっての雑誌編集者の役割である。「菊永」という編集者がもともとの担当であったが、連載開始前に「桜木」という編集者に代わる。常識人として描かれる菊永に対して、「桜木」の変人ぶりがすごい。その変さがずっと描かれているのである。大いに笑った。
桜木と思しき編集者は、ずいぶん前に別のマンガ家の有名ノンフィクション作品でも、かなりの分量を割いて登場しているのだが、描き方がまるで違う。この間に何かあったのか…。
ただ、共通することはある。
アキヤマが描く桜木は、徹底して疑り深い。何に対しても「本当にそうなんですか?」的な疑問を作者に投げかけ、時に失礼なのである。
イノシシ用の罠を見て、本当にこんなものにうまく足が入ってうまくかかるのか? と疑い、実際に自分がかかりかけてもなおも「200頭(捕獲)はさすがに盛りすぎなんじゃないですか?」と疑う。
そして、作者に頻繁に会いに来る。
知的好奇心が強く、挑戦的な疑問や投げかけをすることで、作者から引き出そうとする点では、先ほど述べた別のマンガ家の有名ノンフィクション作品でもよく似ているのだ。ただし、マンガ家の反応が全然違うんだけど…。
変人編集者・桜木の話をアキヤマが最終話に持ってきたのは、ラストで
冬にはイノシシをさばき、
春には妻とハチミツをビンに詰める。
この世界は沢山の食材にあふれていて——
それが漫画にもなっていく。
とあるように、このコミカライズ自体が、田舎に戻って自然をビジネスにしているアキヤマの行為の一環であることを示している。イノシシをどう捕獲して肉として売るかというのと同じように、体験がどのようにしてマンガになっていくかも、やはり自然からの収穫物がいかにして一般的等価物、すなわちお金になっていくかを表現しているのである。
ぼくはこの作品が本当に楽しみだった。
生き物を捕獲するための知恵比べという側面がまずハズレが少ない題材だと思うが、その体験と工夫が豊かである。
そしてそれをお金に換えていく、つまりビジネスにしていくという側面もまた題材の宝庫であり、それがとても巧みに描かれている。
捕獲したイノシシ(K子ちゃん)を飼う話は典型的だったが、正直この絵柄で動物が描けるのだろうかと最初は不安に思いつつ読んでいたが、なかなかどうしてK子ちゃんの存在感はぼくの中で圧倒的であった。飼育者・捕獲者の感情を載せようとしない、しかもデッサン的にはあまり上手いとは言えない、即物的な、突き放した絵柄が本当に人間とは違う動物感を醸し出していて、逆に心に迫る。
「第一章は完結」ということなので、題材が書き貯められた「第二章」があることを待ち望んでいる。