学校における「国葬」半旗の掲揚と「表現の自由」

 前にも書いたとおり、ぼくは自分の娘が通う中学校と、市教育委員会に対して安倍元首相の「国葬」にあたって半旗の掲揚など弔意の事実上の強制をしないように請願を出した。

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 そうして「国葬」の日は、半旗の掲揚をはじめ、弔意の強制にあたることは行われなかった。これは福岡市教育委員会にも、「国葬」後に市議会議員(教育こども委員会である山口湧人・共産)を通じて確認してもらったのだが、福岡市教育委員会は通知などの形で市内の各学校への「要請」「周知」は行わなかった。娘にも確認したが、そういうことはなかった。(福岡市の髙島市長は市役所・区役所などには半旗掲揚を強要する通知を出したが、安倍殺害直後のとき福岡市教委は市長部局の通知を「周知」させる形で各学校に事実上の「要請」を行ったのである。)

 請願を出したことは小さなことだったが、やってよかったと思っている。

 全国的にも半旗などの要請をした教育委員会は非常に少なかったようで、国葬反対」という運動が世論をつくりあげたことが大きな影響を与えたのは、間違いない。

www.tokyo-np.co.jp

 声をあげることは大事だ(上西充子流に言えば「交渉は大事です」)。

 

「学校の政治的中立」は何のためか

 「国葬」をめぐる新聞の論説で興味深かったのは、「しんぶん赤旗」の9月16日付の「主張」だった。

www.jcp.or.jp

 この中で、安倍元首相の「国葬」について学校で弔意を求めること、表現することにどんな問題があるのかを教育基本法にてらして解き明かしている箇所がある。

そんな時に学校が国葬に従うことは、子どもに安倍氏への賛美を刷り込むことにつながります。政治教育の原則を踏みにじり、“学校の政治的中立性”を自ら破りかねない行為です。そんな時に学校が国葬に従うことは、子どもに安倍氏への賛美を刷り込むことにつながります。政治教育の原則を踏みにじり、“学校の政治的中立性”を自ら破りかねない行為です。

 ここまでは、ぼくも請願で書いたロジックであり、多くの人が使っている学校現場での弔意強要に反対する理屈立てである。

 注目すべきはその次の部分だ。

 教育基本法14条は政治教育の原則を「良識ある公民として必要な政治的教養は教育上尊重されなければならない」と定めています。旧教基法と変わらないこの規定は、戦前の学校が子どもに政府への協力的な態度を教え込んだことが戦争の推進力となったことを反省し、政治的批判力を養う政治教育を確立しようとしたものです。

 「学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」という、いわゆる“学校の政治的中立性”の規定も、闊達(かったつ)な政治教育の保障が目的です。

 学校が重視すべきは、国葬を行うことの是非を自由に話し合う環境を子どもに保障することです。

 これは「表現の自由」の立場からはとても重要な論点である。

 学校が「政治的中立」を守るのは、「アブない政治の話題・ヤバいウヨサヨの論争に巻き込まれない」ため、政治のハナシをタブーにするため、ではない

 逆なのである。

 学校で子どもたちが「国葬」という政治の話題をめちゃくちゃ自由にやってほしいから、子どもにとって「権威」である学校が「弔意を示せ」と命じる側にいてはいけない、だから中立を保て、という理屈だ。

 よりによってその教育基本法は安倍政権のときに改悪されたものであるが、政治教育の部分は骨格が変わらずに生き残った。

 政治教育は、むしろ教育基本法においてはものすごく奨励されていることがわかる。政治の話をする奴は「アブない奴」と思うような状況をつくりだしてしまうことは権力にとってむしろ都合のいいことなのだ。

 「中立」を根拠に政治的な押しつけに反対の声を上げるとき、一歩間違えばタブー視を醸成してしまいかねないが、それは自由闊達に議論するためであるという目的を忘れるべきではない。(自戒を込めて…。)

 

福岡県教育委員会は「半旗を要請」したんじゃないの?

 上記の9月23日付東京新聞の記事は、元ネタは共同通信のようであるが、福岡県教育委員会は「検討中」になっている。しかし、その後、福岡県教委は「半旗を要請」したようだ。

www.nishinippon.co.jp

 安倍晋三元首相の国葬を巡り、福岡県教育委員会が各県立学校に対し、事実上、弔意を表す半旗の掲揚を求めていたことが分かった。(西日本新聞9月28日付)

 「国葬」後に発行された「しんぶん赤旗」日曜版の10月2日号は、

弔意を強制するなの世論が広がるもと、「国葬」当日に半旗掲揚などで弔意の表明を学校に求めた都道府県教育委員会は、山口県教委のみでした。

としているが、これはそうではないのでは? おそらく全国の傾向は共同通信の事前調査記事をベースに書いたのだろう。ただ「赤旗」記事の続きは、「国葬」後の山口県内の自治体の対応を追っているので、山口県内だけはその後実際に取材したんじゃないか。



 うーん、ひょっとしたら、カウントの仕方が違うのかもしれない。なので断定は避ける。

 いずれにしても、「国葬」が終わってどうだったのかは後世に残すためにも全国の教育委員会に調査をかけて公表してほしいところである。