町内会と行政の関係はどうあるべきか

 先日福岡県・福津市で、住民のみなさんが主催する町内会についての勉強会に呼ばれ、チューターとして問題提起を行いました。その問題提起は次のようなものでした。2.と3.がメインです。

 

1. 町内会はどうあるべきか

  • 加入率の低下と担い手不足。原因はどちらも「仕事が多すぎる」。
  • (原則1)町内会は任意加入の団体(加入を強制できない)。2005年の最高裁判決。つまり「町内会はボランティア団体」。
  • 福津市でも加入率は減少:全体は8割台だが10年で4ポイント低下。福間駅周辺は5-7割。
  • 任意加入である以上、担い手は限られおり、町内会は無限に仕事は増やせない。
  • 仕事をリストラして身軽な町内会に——「ミニマム町内会」のすすめ。
  • 町内会が「やらなくてはならない仕事」はない(住民への無答責)。自治体によって「町内会がやっている仕事」は全く違うのは、その地域の自治体が責任を持っている仕事の範囲が違うからで、要は自治体が責任を持っている仕事量によって町内会の仕事が変動している。
  • 町内会が必ずすべきたった一つの仕事=コミュニティ意識の醸成。
  • 町内会は本来任意加入団体なのだから、サークルと同じであり、町内会は私的な団体。だから結社の自由がある。換言すれば、その町内会がどんなルールを設けても、それは自治の範囲内。逆に言えば、「こんなひどい町内会を何とかして!」という人がいるけど、その場合は中から変えるか、脱退するしかない。VOICEとEXITE。行政は介入できないし、すべきではない(ただし、後で述べるケースを除く)。

 

2.行政と町内会はどうあるべきか

  • (原則2)行政は住民への責任(憲法に基づくローカルミニマム)、町内会はプラスアルファ(ボランティア)。
  • 行政区長制度とその危機――「頭が行政の末端(公務員)、体はボランティア」。これが「会計年度任用職員」制度になって、うまくいかなくなっている。
  • 行政の町内会へのスタンス→「行政の仕事」を依頼するのか、「町内会の仕事」を補助するのか。
  • 「行政の仕事」の依頼であれば、手を挙げた団体に委託料(報酬)を渡すべき。明確な契約に基づく委託をやるべきだ。
  • 委託を受けた以上はNPOでも企業でも私人でもサークルでも同じ。契約を履行する義務を負い、その範囲で「行政の仕事」を「下請け」する。
  • 「行政の仕事」である以上、住民差別は許されない(福岡市で資源ごみを出す「リサイクルボックス」は市が設立のお金を出し町内会が管理しているが、町内会会員しか利用できないのではなく、「福岡市民の方ならどなたでも利用できます」と明記してある)。f:id:kamiyakenkyujo:20200620182810j:plain
  • 委託された団体は、契約の範囲で透明性が求められる。
  • 行政による町内会への指導は「委託」の範囲内で正当化される。だって、行政が頼んだ仕事なんだもん。
  • 自発的に手を挙げる分には、行政から町内会に仕事はいくらでも委託できる。

 

3. 空白問題

  • 町内会が行政の仕事を引き受けるのはあくまで自発的なものであり、あるいは、町内会は任意加入なので町内会がない地域も生まれる可能性がある以上、委託できない地域(空白)が生じる——この問題に対応しない制度設計をしている自治体が多い 。その場合、「行政の仕事」である以上、空白は行政の責任で埋めるしかない。
  • 例えば福岡市における市広報の配布のケース。配布の請負を希望する町内会(自治協)が手をあげて報酬付きで引き受けるが、希望しない町内会のエリアには市の責任で民間業者が配布する。
  • 民生委員など推薦問題でも、欠員が生じたエリアは、本来行政の責任で埋めるべき。
  • どこまでが「行政の仕事」=ローカルミニマムか、行政が住民に説明する責任がある。「ここまでは行政が責任を持ちます。それ以上に、町内会でプラスアルファをできるところはやってください」という具合に。
  • 少なくとも「福岡市型」に変える必要がある。曖昧に町内会に依頼するのではなく、頼むときはきちんと頼む。また、「町内会の仕事」に補助をするという形。*1
  • プラスアルファとして「町内会があったほうが得だな」と思ってもらう。
  • わかりやすい例として「福岡市の生活交通支援事業」を考えてみる。バス路線などがほとんどなくなってしまう生活交通が空白のエリアに対して、市はコミュニティバスを走らせるなどの支援をしていないが、住民組織(実体は町内会)が立ち上がって(住民組織と交通事業者が協議する)、乗合バス・タクシーを走らせるなら応援する。福岡市はコミュニティバスを走らせるのは「ローカルミニマム」と考えておらず問題であるが、線引きとしてはわかりやすい。町内会があることによって「プラスアルファ」になっている。*2

 

4.これからどうなるか・どうすべきか

  • 「原則1」と「原則2」をあわせて考えた場合、地域課題を町内会に担わせることは無理(限界)がある。
  • 企業・科学技術・行政サービスによる高度な解決(例:見守り)。それと同レベルのことが町内会にできるのか? 任意加入な上に、地域的にエリアが限定され人材が限られる。
  • 町内会ボランティアが盛んになる時代 。
  • 同時に権利・義務を明確にして自発性が求められていく時代——あいまいな強制をする団体は滅亡していく。

 

 

*1:ぼく自身は「福岡市型」は大きな問題を抱えていると思っているけど、行政の仕事を曖昧に町内会にやらせている方式はそれよりももっと大きな問題を抱えているので、まずは福岡市のように町内会と行政の関係を明瞭にする形で一歩前に進めたほうがいいと思っている。

*2:だいたい「これ以下の利用にならないように」という条件になって、住民が維持に必死になっているなど、それはそれで住民組織は大変なのだが。