町内会の会長が引き継がれた

 実践倫理宏正会の会報『倫風』には「世相診断 社会を見る眼」というコーナーがあり、2016年4月号で、ぼくは「町内会のジレンマ──“入って安心”“役員・付き合いが面倒”の狭間で」と題する談話を載せた。


 実践倫理宏正会は「朝起会」で有名な団体である。
 『倫風』の編集部から話があって、コミュニストを公言しているぼくなんかに声をかけるんだーと思ってびっくりしたが、バックナンバーをもらうと作家の清水義範とか童門冬二とか教育学者の汐見稔幸とかが書いていて「はー、いろんな人が出てんだなー」と思い、受けさせていただいた。


 前半はぼくが町内会でどんな体験をしたかということをかいつまんで話している。
 後半は、町内会をどう改革するか、もっといえば、何を基準にして町内会をリストラするか、スリムにしていくのかを論じた。


4人の会長(共同代表)

 昨年末、ぼくは引越しをした。
 引越しをした、ということは、もといた団地を出ていったわけで、つまりぼくが本で書いていた町内会(団地自治会)を離れ、同時に自治会の代表をやめたということでもある。


 『“町内会”は義務ですか?』でも書いたとおり、ぼくは会費なし・手当なし・義務なしという「ミニマム町内会」をつくったわけだけど、その成否は結局後継者が出てくるかどうかで図られると思っている。


 いいことやった、スゴいこともやった、でも後に続いてくれる人がいなかった……というのでは自己満足といわれても仕方がない。まあ、その人の任期中にやっていたことの意義は否定しないけど。


 さて、それでぼくがいた団地自治会では、自治会の代表(会長)に「やってもいいよ」と手をあげてくれる人(あるいは引き受けてくれる人)がいたか……。


 いたのである。


 4人。
 4人が引き受けてくれた。
 一人は本の中でも出てくるけど、副会長をやってくれていた男性(大岡さん=仮名)。前の会長が亡くなったとき、「とてもあんなことはできないから自治会はもう閉めよう」と思っていた人だった。その人が、「まあ、これくらいスリムになったらやってもいいよ」と思ってくれたのである。
 もう一人は、大岡さんと同じくらいの年齢(リタイア組)の男性(安藤さん=仮名)。大岡さんと相談しながらやってほしいなと思っていた。
 さらに子育て世代の2人の女性がくわわってくれた(小波さん、香田さん=仮名)。
 この2人は自治会の活動を積極的にリードしてくれた人たちで、大岡さん・安藤さんはもちろん、ぼくもあまりなかった子育て層のネットワークと情報をバッチリ持っている人たちで、実に心強かった。
 団地の1階で子どもたちがたむろしてタバコとか吸っていると、話をしてくれて、しかもそれが誰の家の子どもで、どういう経緯でやさぐれているのかまで知っていた。
 この4人が共同代表、つまり会長が4人いるような体制で引き継いでくれることになった。筆頭は大岡さんで。


 とりあえず、「ミニマム自治会」は引き継がれたのである。ぼくの中で勝手に設けていた基準はクリアされ、「ミニマム自治会」の社会実験は一応成功を収めたのだといえる。


職場の忘年会の幹事くらいの負担感

 ぼくが目指したのは「職場の忘年会の幹事くらいの負担感で引き受けられるものを」ということだった。
 たとえばこれが「同窓会の幹事」となると100人くらいを相手に名簿の整理とか連絡とか会場手配とかけっこう大変なイメージになるけども、職場の忘年会の幹事は、数人、多くても十数人を相手にして、日程調整をしたり、連絡をしたり、仕切りをするということになる。それくらいなら、時々はやってもいいかな、とあなたも思うんじゃないのか。


 職場の忘年会は、たとえば一応みんなの希望は聞くだろうけども、最後は幹事の権限で決めてしまう。会計だって、おカネは集めるけど、会計報告なんてまずしない。「ここにどうしても行きたい」とか「会計報告は紙に書いて、監査もつけろ」なんていうヤツがいたら、そいつがやればいいという話になる。
 よく知っていて、信頼しているので、細かいことは言わないわけだ。


 町内会民主主義では、厳格な規約や手続きが求められることがある。それはそれで一理あると思うのだが、もともと「顔の見える範囲」でやっていたものだから、信頼で成り立つことができる。「まあ、●●さんを信じますから、お願いします」でいいじゃないか。
 総会の成立、事業計画の策定、会計の管理は手間なのである。そういうこと自体をキッチリやらなくていいと思うのだ。そこにこだわるとそれだけ作業量がふえ、負担がふえ、引き受け手がいなくなる。
 どうしても怪しいなと思う場合はルールをつくったり、やりたい人が一手間かければいい。最終的に納得できなければ退会してしまえばいいのだし。

福岡市の行政依頼仕事は年間500〜1000件!

 福岡市は、高島市政のもとで町内会など地域自治団体に「活力あるまちづくり支援事業補助金」をおろしていたのを改組して「自治協議会共創補助金」とする。ほぼ名前がかわって、額が多少ふえるだけである(地域の各町内にある1自治団体あたり1000円程度……)。
 要支援で受けるサービスの多くを介護保険からはずしたときに高島市長はその一部を町内会にやらせようとして総スカンを食い、新たに「地域のまち・絆づくり検討委員会」というのをつくり、町内会幹部などを捲き込んで「提言」をつくらせた。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/44266/1/teigen.pdf

 この提言を読むと、町内会幹部は負担感で満ちあふれているし、その第1回の議事録なんかを読んでもやはりいかに地域での町内会活動が負担なのかという怨嗟の声が縷々綴られている。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/44266/1/gijiyousi01.pdf

 提言では補助金のあり方を見直させたり、負担感の解消、担い手づくりについてもいろいろ書いてあるのだが、結局出てきた補助金見直しは、額を増やすだけのものだった。
 それどころか「共創」などといって、ビジョンづくりの段階から町内会を捲き込むことで、下請させる仕事をいっそう早い段階から「お前らもいっしょに作ったよな?」と有無を言わせぬようにしたいという意図がすけてみえる。


 さらに、第1回の議事要旨を読んでいると、こうした補助金による事業とは別に、行政からの依頼仕事が山のようにあって、それがいかに大変なのかというくだりが出てくる。

【委員】 自治協議会制度になって、行政からの地域への依頼は減らすべきであるが、あまり減っていない。その辺をもっと組織立って、行政も真剣に考えてもらいたい。また、選挙や国勢調査など、細かいものもたくさんあるが、そういうものに対する報酬も減る一方である。これでは、団塊の世代の人たちもなかなか入ってこない。


【事務局(=市)】 行政から地域への依頼については、当初1,000件ほどあったものについて、平成22年度の実績では750件程度に、さらに、その後も情報提供や提案という形に切り替えるなどの見直しを行い、半分ぐらいに減っている。
 ただ、そもそもの全体的な件数が増えているのも事実で、福岡市以外の行政機関からの依頼等もあり、実際的な地域の負担はそれほど軽減されていないというのが実感なのかもしれない。この部分については、それぞれ事業を実施している所管課と協議するなど、引き続き見直しを検討していく必要があると考えている。
 また、報酬については、地域の参画の部分の中で、住民の皆さんが納得いく形であれば、支援ということを含めて検討していくことになると思う。


【委員長】市からの依頼事項の見直しについては、課題解決したわけではないので、引き続き検討をお願いしたい。

http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/44266/1/gijiyousi01.pdf

 年度で1000件って何だよ。
 「半分ぐらい」って500件か。
 500て。
 とてもじゃないけど、こんなに仕事をやらせていたら、そらあ、恐ろしくて近づかないやつが出てくるわな……。