引っ越しで地元中小業者を使ってみて

 引っ越しが終わった。
 いやー、終わったなー。疲れた。
 引っ越しをしてみて、思ったことを書いておく。
 人生で10回近く引っ越しをしてきたが、自分自身が業者に依頼したのは初めてである(前回も頼んだがつれあいがやってくれた)。今から書くことの多くは「定石」、もしくはとんでもないシロートの勘違いだという可能性は高いけど、知らない人には興味深いかもしれんので。

相見積もりを7社から

 まず相見積もりをとった。7社。
 「7社もとったんですか」と何人かの業者から言われた。それくらい多い。普通は2〜3社だという。こっちは体験のつもりなので、あまりムダなことをしたという気持ちはないのだが、ネットなどでみてもこんなに頼む人は多くない。
 でも、たとえば2社だけだとそれだけではわからない。中小とか頼むととくにそうだ。5社くらいやってみて、「あーこういうのがデフォルトなんだ」とか「これは引越業者にとっては異常なことなんだな」とぼんやり見えてくる。3〜5社とってもいいんじゃないかと思う。
 ただし、1社あたり30分、長い会社は1時間近く見積もりにかかるので、その時間は費やされると覚悟したほうがいい。
 7社も相手にすると、丸1日つぶれた。


 引越業者の相見積もりサイトで一度に依頼した。
 ネットにあるとおり、直後からじゃんじゃん電話やメールがきた。それがストレスの人はやめたほうがいいが、勧誘ではないので、あまり負担に感じる必要はない。機械的に見積もりの時間を決めればいい。

価格以外に何を重視したのか

 大手3社、地元中小4社である。
 何を基準にしたかというと、(1)価格、(2)人員、(3)客対応だった。もちろん、飛び抜けて他社に比べて悪いポイントがあるとそれはマイナスで勘定した。
 そして、実は前回(9年前)の引っ越しのさいには大手を使い、非常に安くて、引っ越しの対応も満足したので、もし価格がよければそこにしようかと思っていた。ただ、地元の中小業者にも一度頼んでみたい気はしていた。
 価格は、最終的に落札した地元中小のA社を100とすると、次のとおりである。

地元中小B社 114
大手C社   146
大手D社    82
地元中小E社  92
大手F社    99
地元中小G社  67

 前回使ったのは上記の大手C社であるが、今回は最高値になってしまった。そこで選外とした。
 最安値になった地元中小のG社であるが、何よりも安すぎるのが不安になった。また、引越運送約款も示さなかったし、見積もりは手書きのメモだけだったうえに、人員が2人しかこないという。不安要素が大きすぎてやめた。
 そうなると、残りの5社は82〜114の中におさまる。どれでもいいなとは思ったのだが、つける人員が気になった。

作業人員をみる

 大手D社は「だいたい2人だと思うが、お約束できない」と述べた。人員を当日調整するのだろう。大手F社は2人。
 地元中小は2人が多かった。
 その中で、地元中小A社は破格の4〜5人を提案してきた(大手C社は4人だったが、前述のとおりぼくらにとって価格が高すぎた)。これはぼくにとって大きな決め手になった。


 もちろん、作業員の質という問題はある。
 大手F社の営業はパンフレットを広げ、派遣などは一切使わず、自社の社員でおこない、作業研修を必ず受けさせていることをウリにした。
 余談であるが、大手F社の営業は、見積もりの話を始めるやいなや、「このたびは私どもの業界がご迷惑をおかけしました!」といって、「アリさんマークの引越社」がブラック認定されて大問題になっている記事をぼくに示したり、他社で引っ越しのさいに貴重品を盗んだことを「お詫び」した。もちろん「業界を代表してのお詫び」という体裁での他社批判である。*1


 ぼくが頼んだ地元中小A社は、作業中に話を少しだけ聞いたが、どうも正社員は2〜3名、パート1〜2名という感じだった。
 「4人も使って価格が抑えられているなら、人件費を抑えられ、労働者がひどくサクシュされているのでは」という疑問はたしかにぬぐえない。ただ、引っ越しの価格というのは、基本的に「車両費」「人件費(人員費用と作業料金)」で積算されるのだが*2、しばしば「引っ越しの値段はあってないようなもの」などと揶揄されるように、需要・供給によって決まる面がものすごく大きいような気がした。
 大手F社の営業が典型であったが、最初に150くらいではじきだして、どんどん下げ、さらに結論を出す1週間の間に、99までいったのである。たぶん価格交渉をやれば80くらいまでいったのではないだろうか。*3
 ことほどさように、振り幅が大きい。
 地元の中小B社の場合、月末では114なのだが、月初めなら96になると言っていた。大手C社も月末なら142で、月初めなら112まで下がるそうである。まあ、契約や家賃などとの関係では、月初めに引っ越す人は少ないのだろうから、さもありなん。
 話をきいた業者の一人は「まあ、人件費と車両代っていうのはどこも似たようなベースで、結局仕事が多い時期かどうか、その会社がその時期どれくらいヒマか、その時期にゆとりがあるのかないかで値段は相当上下するんですよね」「年度末近くはむちゃむちゃ高くなりますよ」と言っていた。


 どうでもいいことだが、いかにも営業、ぼくがイメージするザ・営業のマッチョさが、正直ぼくは苦手である。大手F社の営業はそのマッチョさの典型であった。フォロー営業も一番すごかったし。
 対して、地元中小のA社の営業は、しょぼい、ぱっとしないオヤジだった。
 後でホームページをみたら、その会社の社長だったわけだが…。
 その情けない感じがよかった。
 無理な感じ、よこしまな臭いがしないのである。
 そんなもんで決めるのかと言われそうだが、決めるのである。
 引っ越し先の現地状況もいろいろ詳しかった。建物の名前と住所をあげたら、道路の狭さや駐車スペースの困難さなどをぶつぶつ言っていた。それはまさにそのとおりだったのである。まあ、ああいうものはどこの会社でも知っているのかもしれないが、それが可視化できたので、ぼくの中でその営業オヤジに対する信頼度が何となく上がった。

トラブルにA社はどう対応したか

 そのようなわけで、地元中小のA社に決めた。
 ところが、引っ越しまでの間に一つのトラブルが発生した。
 営業のオヤジは、「新品と中古段ボールを両方送りますので、本は中古のほうに詰めてもらえますか」と言っていた。こっちは何の問題もないので、「いいですよ」と言ったんだが、届いた中古段ボールはけっこう大きい。これに本を入れると相当重いのではないか、「大丈夫かいな」と少し不安がよぎったのだが、そこはプロなのだから運ぶんだろう、なにせ向こうの指示だしね、と思い、せっせと本を詰めた。
 しかし、作業が進むうちに、つれあいが不安を口にした。
「これ、明らかに大きいのが多すぎない? 私、本じゃなくてもこんな大きいのばっかりじゃ、家の中でも動かせないから不便なんだけど…。本とかも、こんなのに入れたら持てないよ?」
 そして、ぼくの部屋にあった、本をぎっしり詰めた大箱を見て、そして動かそうとして驚いてまた言った。
完全に岩じゃん。全然動かん」
 さすがにぼくも不安になって、A社に電話した。
 すると電話の向こうで
「あーそれはちょっとまずいですね。小さいのに分けてもらえますか」
と言うではないか。
 動揺して返した。
「いやいやいやいや、おたくが古い段ボールに本を入れろっていったんですよ。もう全部入れました。今さら入れ直せって言うんですか。困ります。そちらのミスでしょう」
とややキツい口調で言ったのである。


 すると、むこうはちょっと考えたふうで、
「じゃあ、とにかく状況をうかがいにそちらへ行きます」
とその日の晩に小さめの空箱を50箱たずさえて、すぐ家にきた。
 そして、家にあがり、送られた段ボールの種類をまずみて、
「あー、デカいのばっかりですね。これは明らかに送り方がおかしいです」
と述べる。そして、本を入れた箱をみて
「たしかにこれは重い。重いけど、こっちが悪いんで、運びます。すいません」
とだけさわやかに言って、帰っていた。


 この対応は、好感がもてた。「そんなの当たり前だよ!」と思うむきもあるかもしれないが、クライアントであるぼくは「ほう」と思った次第である。引っ越しのための不動産会社(大手)のほうがひどかったせいもある。
 すぐやってきたこと。そして、状況をみて、自分の非を認め「何とかする」というむねのことを約束したこと。
 これで、ぼくの方は気が済んでしまったみたいになった。
「うむ、なかなか誠実な対応ではないか。じゃあ、こっちも時間があったら、小分けしてやろうか」
と思った。そして、ギリギリになったが、こちらで本の入った大箱から本をとりだし、小さな箱に分けて入れ直した。これでも相当重かったが…。


 ひとことでいって、対応は雑なところがあるが、フォローは誠実にやってくれた、という印象を受けた。そういう雑さと融通無碍がいかにも(良くも悪くも)「地元中小」という感じがした。

引っ越し当日

 引っ越し当日、「ホントに4〜5人で来るんかいな」と思っていたら、さっきも書いたけど、たしかに4人でやってきた。2トン車2台。「1台でぎりぎりかなあ…。2台になるかもしれません」と営業のおっさんは言っていた。2トン車ロング1台、4トン車を提案していた業者もいたので、さまざまである。
 家族3人・3DKの部屋の搬出を1時間半ほどで終了していた。早いな、と思った。業界的にはそんなものなのだろうか。作業員に作業中に「引っ越し、慣れてるんですか」と聞かれた。「子育てしてからは初めてです。なんでですか」と尋ねたら「いやー、ちゃんと整理されて荷造りできているんで」と答えた。社交辞令かもしれないが、そういう事情もあったかもしれない。
 出すのが難しそうなハンガーラックや子ども机は、手際よく解体し、引っ越し先で手際よく組み立てていた。
 気になったのは、搬出荷物については必要な養生をおこなっていたが、建物については養生を一切しなかったこと。もとの住所の団地は大規模な外装工事をしていたので、工事用の養生がすでにエレベーターにはしてあったのと、転居先でもエレベーターにはマグネット型の養生がしてあったのではあるが…。また、荷物の性質や量でそういうのをしないのかもしれない。結果的にキズや事故はなかった。


 終わってみて、この地元中小A社に依頼して正解であった。というか、不満はなかった。また、他をためしたわけではないので、ひょっとしたらもっと大きな満足が得られた可能性は否定できないが。もちろん、A社以外の地元中小だったらどうであったかはわからない。

「約款」を読み込んだ結果の思わぬ副産物

 ちなみに、契約時のことで余談をいくつか。
 今回初めて知ったのだが、エアコンの着脱はどの会社も別オプション。そして管交換などで別料金がかかる可能性があるので、必ず「セット価格」ですすめられる。1万円台後半から2万円前後になり、いろいろ交換の必要が生じてもそれ以上はとられないというものだった。これはよく研究しなかったのだが、10年近く使っているエアコンだったので、部品交換などの必要は生じるだろうとふんでセットを選んだ。
 大手D社だけは「セットはすすめません」と言った。「そんなにカバーできないんですよ」と。

 もう一つ。「引越運送約款」というものの存在。
 これは客と運送会社との間で、保証の仕方やキャンセルの仕方、何を運ぶ・運ばない、特別に運ぶものは承諾や保険がいる、ということを定めた契約のようなものである。ぼくが契約した会社は独自の約款をもっていたが、ないところは国交省がつくった「標準引越運送約款」(標準約款)というのを使い、それを客に必ず示すことになっている。
http://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/butsuryu/riku/24_4.htm
 だいたい各社ともに見積書の裏に小さな字で印刷しているので、普通は読まないし、アリバイ的に渡しているだけである。
 が、読んでみると保険会社のそれとちがい、そんなに難しくない。
 だから、読んでみるとよい。
 たとえば、パソコンの運搬である。
 標準約款では8条で

当店は、荷物を受け取る時に、第四条第二項各号に掲げる荷物、貴重品…、壊れやすいもの(パソコン等の電子機器を含む…)、変質若しくは腐敗しやすいもの等運送上特段の注意を要するものの有無並びにその種類及び性質を申告することを荷送人に求めます。

とある。つまり申告すれば運べるというわけである。
 ぼくが頼んだA社の約款はどうか。
 第1条4にこうある。

運搬取り扱い上特別な扱いが必要な品物(コンピューター及びその関連機器・タイプライター・複写機…等)はお客様の負担にて通常の運搬作業に十分耐えうる梱包(当社でも引き受けます)をされ、別途運送保険(当社でも扱います)に加入され、当社の故意又は過失以外の事故が発生しても一切の異議を申し立てない場合にかぎり引越荷物として扱います。*4

 えーっ、「別途運送保険に加入」しないといけないのかよ、と思い、営業のおっさんに尋ねると、「ああ、そんなん、アレですから。一応役所がうるさいんで、出してるだけですから。あと、何か言う人用対策です。いちいちコレは運べないとかアレはダメとかやってられませんから。運びますよ」と非常に雑な、いかにも地場のおっさん的な答えをした。
 実際、運んでもらった。
 運ぶ時はデスクトップのパソコンの入った箱をみて、「これ、横にしてもいいですか?」とだけ聞かれ、「いえ、それ、デスクトップのパソコンなのでタテにして、壊れやすいものとして扱ってもらうようお願いします」と告げると「はい」とだけ答えて「おーい、これ、横ダメだって」「パソコンだって」と作業員仲間に言っていた。


 この約款を読み込む作業、エアコンについての説明は、実は、団地自治会の連合体でURや国交省と交渉したときに非常に役に立った。URが団地集約化をしているところで、受託した引越業者が再委託(下請に出すこと)をやって住民との間でトラブルになっていたからである。UR側は最初適当な説明をしていたのだが、約款を比較して指摘をすると、非常に困った顔になり、再調査・確認を約束した。その結果、かなり誠実な対応になった。
 何が幸いするかわからない。

*1:「アリさんマークの引越社」については、くだんのブラック企業大賞ノミネートがあったので、不動産会社の提携先ではあったが、最初から選択肢には入れなかった。もちろん、不買運動というのは一種のデモンストレーション、パフォーマンスにすぎない。行動=論理一貫性はない。たとえば「なぜ財界の総本山のトヨタの車で運ばれた商品をあなたは買うのか」という問いには答えられない。どんな小企業でもマルクスのいう「搾取」をやっており、それを道徳的に非難し、行動と論理を完全に一致させようとしたら資本主義下では生きていけない。

*2:大手D社は「うちは違う」といって、こうした積算を否定した。

*3:ちなみにぼくは価格交渉、つまり「値切る」ことは一切やらなかった。地元中小G社の営業はそのような客側の行為がいかに「卑劣」なものかをぼくに熱弁していた。

*4:地元中小B社もほぼ同じ条項を持っていた。地元E社は約款自体は標準約款と同じだったが別につくってある「注意事項」に「パソコン本体・ノートパソコンは、できる限りお客様でお運びください」とあった。