古川琢也+週刊金曜日取材班『セブン−イレブンの正体』


 年賀状の季節である。
 サヨク仲間の知り合いから「郵便局の年賀状ノルマがキツい。買ってくれないか」という依頼が来た。「資本とたたかわないのか」と怒るむきもあろうが、まあいろんな人がいるのである。
 ぼく自身必要なので100枚、その人から頼んだ。


 ブラックバイト問題で「自爆営業」という言葉が話題になった。
 ノルマを課せられた売り子が、売れない分を自分で買ってしまうことだ。コンビニのキャンペーン商品などでやらされるハメになることが多いという。


セブン‐イレブンの正体 すでに7年前に描かれた本書『セブン−イレブンの正体』を読んでいると自爆営業が出てくる。
 しかし、それはコンビニ働くバイトの話としてではない。
 店舗を指導するセブン−イレブンの社員たちの話として登場するのである。「過酷なノルマと『自腹買い』」という節には、もともとイトーヨーカ堂の社員だった人(現在は店舗オーナー)が、もともとセブン−イレブンの社員だった人たちに抱く違和感の証言として次のように描かれている。

何しろ、セブン−イレブンの社員たち、つまりOFCときたら、暑い日中でも店舗指導のために外回りをしたりしていて、朝から晩まで働いて休みをほとんど取らないんです。私は彼らに『僕がヨーカ堂にいた頃は、きちんと休みを消化していたよ。君たちもちゃんと休みを取りなさいよ』と助言したのですが、『セブン−イレブンはこういう会社なんです』くらいにしか言わない。おまけに、ノルマがきついのか大量に自前のお金でいろいろな商品を購入していくんです。本当に驚きました。(p.52)


 さらに、取引先企業でも「自腹買い」が横行しているという。

「自腹買い」の仕組みは簡単で、OEM*1の社員が、商品購入の際のレシートを食品メーカー*2に渡すと、その分の代金を後で返却してもらえるのだ。…この食品メーカーは全国展開しているため、各地の協力会社に依頼をすると、「自腹買い」は相当な数にのぼるはずだ。こうして売上を保つことで、大量受注を維持しなければならないのだ。(p.79)

 これは2008年の本であり、現在どうなっているのかはわからない。しかし、これを読むと、「自腹買い」=「自爆営業」がセブンをはじめ、コンビニの中では企業文化になっていることがわかる。


 ただ、冒頭に年賀状の例を出したように、「自爆営業」はいろんな業界で行われてきた問題でもあった。
 ところが、これが再び問題になりだしたのは、アルバイト、特に学生アルバイトのような立場の人間にまで事実上強制させられるようになってきたからである。
 アルバイトはパートと事実上区別はなかったが、「アルバイト」と呼ばれてきたのは「フリーター」というとらえ方と重なっていて、「生活費を稼ぐためにしがみつくのではなく、いやなら辞めてしまう」という印象にもとづいている。学生アルバイトならなおさらだというわけだ。
 ところが、昨今の学生アルバイトは様変わりしており、学費や生活費を捻出するために賃労働にしがみつくようになっている。奨学金を借りる学生は、1990年代後半までは2割程度だったのが、現在は53%と急増しており、しかも平均で300万円、多い場合には1000万円も背負うという。*3


 あわせて、店舗側も正社員を切りすぎて、もはやその店の主力はアルバイト、しかも学生アルバイトがになわざるをえなくなっているのである。
 ぼくが弁護士に話を聞いたケースでは、ドーナツ店を学生アルバイト1人で切り盛りしていて、しかもドーナツ以外のメニューを出すことになってネットでレシピを探しながら対応していたというのがあった。


 ぼくは最近ユニオンの人たちに話を聞く機会があったのだが、ブラックバイト問題の理解を広げるうえで困ることの一つに、議員や大人などが「自分たちのころのアルバイト感覚」でこの問題に接しているので奨学金やバイト=主力などの感覚がわからない点だという。


 もう一つ、この本を読んで思ったことは、セブン−イレブン本体が仮に身ぎれいだったとしても、それらの矛盾が、フランチャイズ、取引先企業などに「外部委託」されているということだ。


 ブラック企業大賞を選考している人にあって話をうかがう機会があったが、2012年に東京電力をノミネートしたとき、

本体は「身ぎれい」にされているのに、一番矛盾に満ちた部分は下請そのまた下請、取引先企業などに「アウトソーシング」されているからだったんですけねど…。


とその理由について語ってくれた。原発事故を起こしたという点だけで選んだんじゃないんだけど、ということのようだ。あまりそのあたりが伝わらなかったために、このノミネートは批判も受けた。*4


 ぼくは自治体のブラック企業規制・対策の取り組みを考えるさいに逆ブラック、ホワイト企業顕彰という取り組みはどう考えられるべきかということを検討していた。今野晴貴などは本のなかで批判している。しかし、ブラック企業対策に取り組んでいる弁護士などからは、限界はあるけども一定の意義がある、というような評価も聞いた。ユニオンの人も、この取り組みについてはやはり二面性があるという評価だった。


 このノミネートの話をしてくれた人によれば、そもそも今の厚生労働省のやっている「若者応援宣言企業」のような取り組みは「ザル」であって、ブラックなものが入り込むうえに、仮に本当にその企業そのものが「ホワイト」であったとしても、その矛盾を下請や取引先やフランチャイズに押しつけていたら何にもならない、ということだった。


 本書『セブン−イレブンの正体』には、成功哲学を語っている成功企業が「取引先」「フランチャイズ」「運送」などの様々なバッファーをもうけて、本来企業が抱え込むべき矛盾を「外注」しているという点が浮き彫りにされている。
 そして、それはセブン−イレブンという一企業の問題だけではなく、広く日本の大企業に共通した問題なのだろうと思う。

*1:セブンのコンビニなどで売っている商品のうち、自分のブランドではなく他社のブランドで販売される商品を製造する企業──引用者注。

*2:もともとのブランドをもっている企業──引用者注。

*3:http://www.jcp.or.jp/web_policy/2015/11/post-704.html

*4:たとえば http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-c8f4.html