玉置勉強『恋人プレイ』

恋人プレイ 1 (幻冬舎コミックス漫画文庫 た 1-1) 玉置勉強の『恋人プレイ』では「秘密の自分をさらけだしている瞬間」とか「知らない自分が顔を出す」という装置としてSMが使われているのであって、『ナナとカオル』のようにSMそのものをつきつめた漫画ではない。


 『恋人プレイ』は文系オタクのような風貌でギターの趣味をもっている主人公・佐伯がたまにしか大学の講義に出てこない女子大生・奥野に、演奏を頼まれたSMクラブ(バイト先の店のSMショー)で偶然出会ってしまうところから話がはじまる。
 『恋人プレイ』のテーマはほとんど「#19」における奥野の告白のシーンで言い尽くされている。
 彼氏を早くつくらなきゃ、とか、女の子が女の子とつきあうとカッコいいとか、そういうもろもろの世間にある観念になぜか窮屈なものを感じていた奥野は、高校の同級生だった同性の本田と恋仲になり、こうした世俗の強迫から解放される。しかし、本田にさえ満たされないものを感じた奥野が「さらけだせる自分」を偶然見出してしまったのは、SMだった。


 それを契機に本田と奥野は離れていってしまうのだが、SMに出会うことで、本田との所有や支配のような関係から逃れ、本当に自分をさらけだせるもの(一般的にSMこそ所有と支配の関係のようなものだと思われているのだがここでは鮮やかなまでに反転している)を見つけた奥野は、それを偶然見られた奥野に親近感、解放の感覚さえいだき、セックスをし、交際をはじめていく。


彼女のひとりぐらし (2) (バーズコミックス デラックス) 高度に緊張するコミュニケーションが必要とされる社会で、「本当の自分をさらけだして自然な気持ちで結びつき、そこを居場所にする」という実に簡単そうに見えることがなぜかくも難しいのか、90年代後半から続けられる問いの回答の核心に「SM(本当の自分をさらけだした瞬間)」という道具が使われている。


 まあそれは『恋人プレイ』の主題なんだけど、それが玉置勉強という描き手を得て、くり返し読みたくなる作品に仕上がっているのは、粘液たっぷりのベタついた感情をなぜかクールに描ける玉置の独特の女性の描き方だろう。奥野遼子は、いろいろ抱えた面倒くさそうな女なのに、その過去は漂白されずにかかえながら、なぜかさっぱりした人に描かれている。不思議だ。
 こういう女性の描き方が、『彼女のひとりぐらし』のような女を描ける秘密に違いない。