議会での「質問」は英語でなんというか

 地方議会での「質問」を英語でなんというのだろうか。

 

質疑と質問

 先に日本語の理解を書いておくが、議会用語としての「質疑」と「質問」は少し違う。

 市町村議会の中にこのことについての解説ページを設けているところがあるが、たとえば千葉県君津市議会のホームページには次のように違いが解説されている。

質問
質問と質疑は、違うのですか。

回答
議会には、議案等を審議するだけでなく、執行機関である市を監視するという役割もあります。このため、市が行う事務に関して質問し、見解等を求めることが認められています。これを一般質問といい、本会議で行われます。

これに対し、提出された議案の疑義を提出者(市長や議員など)にただす場合など、議題となっている事件の疑義をただすことが質疑で、本会議及び委員会で行われます。

  もう一つ、埼玉県三郷市のホームページを載せておこう。

質疑と一般質問の違いはなんですか。
「質疑」とは議案等に対して、議員が疑問点を問いただすことです。「一般質問」は、議員が市政全般に関して、行政側に現状や見通しを聞くことです。

 どちらも「質問」というより「一般質問」と書いているように、正確には「議案質疑」と「一般質問」(緊急質問も含む)の違いだ。

 つまり首長の出した議案に対するものが「質疑」で、広く自治体行政一般についてのものが「質問」だと理解していい。

 しかし、この差について書いた英語の辞典は、管見にして見当たらなかった。とりあえず英訳においては同じものだと考えて話を進めていいだろう。

 

question? inquiry? interpellation?

 英語のネット辞書(研究社『新和英中辞典』)を見ると「質疑」は次の用語が書いてある。

  • a question; an inquiry
  • 〈国会での〉 an interpellation

 questionか、inquiryか、interpellationかである。

 ぼくはずっと疑いなくquestionを使っていた。日本の国会で党首討論が導入された時「Question Time」と言っていたので「ははあ、『質問』をそのままQuestionって言うんだな」と印象付けられたからである。

 

 ところが、各地の政令指定都市の議会事務局がつくっている英語版のホームページを見ると、実はいろいろな表現がしてある。

 札幌では「質疑・答弁」のところに「Question and answers」とある。

 静岡でも「question」だ。

 ところが神戸福岡では、「inquiry」となっている。

 

 「つながり(コロケーション)を日本語で探り、それを英語でどういうかを示す発信型の辞書をねらうのがこのサイトの目標」だとする「gooコロケーション辞典」では、「ぎかいでしつもんする【議会で質問する】」という見出しに「ask questions in the assembly」とある。すなわち「question」なのである。

 Weblio辞書で「inquiry」は「質問、問い合わせ、照会、調査、取り調べ、審理、研究、探究」というのが主な意味とされている。

 「interpellation」に至ってはその動詞「interpellate」を見ると「(議会で議事日程を狂わす目的で)〈大臣に〉質問する、質問して日程を妨害する」(研究社前掲)とあるし、Kindleについている英英辞典"The New Oxford American Dictionary"でも

interrupt the order of the day by demanding an explanation from (the minister concerned).〔関係閣僚からの説明を求めることにより議事日程を妨害する〕

とある。特別な慣例から生まれた言葉のようだが、まあ、少なくとも国会の話なのだろう。

 こう見てくると、やはり地方議員が「次の議会で質問します」というふうに使っているのは「Question」であり、「inquiry」は議会としての機能を表す言葉で「調査」に近いニュアンス、議会の調査権能を表している言葉ではないだろうか。

 よってぼくなりの答えは、議会の質問・質疑=Question。これである。

 

英語での表現はこんなに違う

 地方議会はぼくにとって身近な場所である。

 だからそこでのおなじみの議会用語がどう英語で表現されているかは興味がある。

 福岡市議会と札幌市議会では、議会用語の英訳は当然同じものもあるが、それでもけっこう違うから面白い。左が福岡市、右が札幌市である。

  • 請願 petitions /petitions
  • 陳情 lobbying /appeals
  • 傍聴 observing /observation
  • 意見書 opinion in writing /written opinions
  • 市議会議員 City Councilors /Assembly members
  • 議長 the Chairperson/the speaker

 議長をthe speakerと訳すのは驚いた。

 確かに「Eゲイト英和辞典」でspeaker見ると、

(the Speaker)(英米の下院の)議長(発言を求める議員はMr. Speakerと呼びかける) 

とある。だけど、日本の市議会の議長もこう表現するんかね…? 翻訳者はどういう根拠でこのように訳したのか、興味がある。

 

 「日本共産党福岡市議団」は、共産党系のJapan Press Weeklyでは

The Japanese Communist Party Fukuoka City Assembly members’ group

であるが、福岡市議会の翻訳を基準にしたら、

The Japanese Communist Party Fukuoka City Councilors

が適切なのかもしれない。

 

 こういう議会の公式サイトの翻訳は誰が責任を持ってやっているのだろうか。

 語学ができる市職員(国際部局関係の)とかがやっているのか、外注しているのか。それともかなり厳密な決裁などをしているのだろうか。だって、トンデモ英訳とかされていたら政治問題になっちゃうもんな(現に福岡市議会の常任委員会名は変えられて数年経つけど未だに同市議会の英語版ページでの紹介は古い常任委員会名のままである=2021年6月25日時点)。

 

 英語での表現はこんなに違うんだ、と思った。まあ、翻訳というものは、そもそもこんなふうにいろいろ表現できるものなのだろう。

 だが、議会用語のようなものはもうかなりかっちりと決まっているのかと思っていた。政治学などの論文で英語で書かれたものでは表記の揺れがあったら困るんじゃなかろうか。