髙井章博『“イヤな”議員になる/育てる!』

 2022年に刊行された髙井章博『“イヤな”議員になる/育てる!』(公職研)を読む。

 

 

 選挙勝利から議員になり、議員としてどう仕事をするかまでを、市議会議員経験者、そして選挙コンサルとして書いている。菅直人系の地方議員経験者。

 いろいろ興味深い箇所はあったが、やはり一番食い入るように読んだのは「票を獲得する方法」のところだ。

 それほど突飛もないことは書いていない。むしろオーソドックスのことなのかもしれない。しかし、いまぼくはそのことを、わりと解像度高めの話でしてみたいと思っているのだ。

 「解像度高め」。

 似ているんだけど、その方法は違う。

 そういうことを言ってもらいたい。何かの理屈をつけて。

 それが合っているか間違っているかはどうでもいいんだ。

 むしろ違う流派の人からそう突きつけられて、「それは正しいね」とか「いや、それはおかしんじゃない?」とか議論してみたい。同じ「流派」の人は、すぐ同調したり、頭から否定したりしてしまうからダメだ。

 髙井の言うところを聴きながら、対話してみよう。

 

選挙に出ると言うと、「とにかく挨拶廻りをしなさい。」とアドバイスする人が多いのですが、実際にはそんな簡単なものではありません。(髙井p.46)

 「握手を●人としなさい」というアドバイスと同じで、有権者と本人が接触する機会を増やすことは票を増やす上で効果的ではないのだろうか。

あなたは、たった一度、突然訪ねてきて、インターホン越しに「よろしくお願いします。」と言って帰った人のために、投票所へ行きますか?(同)

 うん、まあ…行かないかな。でも全く知らない人よりはよくないか?

 まるでその答えを見透かしたように、髙井は批判する。国政選挙では例えば野党第一党から選ぼうというような思考方法で探すかもしれないが、

市議会議員選挙のように、何十人もの候補者がいて、しかも同じ政党から何人も立候補するような場合は、全く違う物差しで判断せざるを得ません。(髙井p.46-47)

 髙井は、候補者選択の決め手はふた通りあるとして、第一に、政党・期数・性別などの属性、第二に、自分との人間関係の距離、という二つを示す。国政や都道府県知事は第一だが、一般の市町村議会議員選挙は第二だという。

 おいおい、じゃあ、県議と政令市議はどっちなんだ!?

 髙井の書き方からはわからない。

 しかし、例えそうだったとしても、自分との距離が決め手であるなら「挨拶廻り」は有効なのでは? と思ってしまう。

 そうではない、と髙井は主張する。

 そこが髙井の考える解像度なのだ。要するに、本人が一回挨拶をしただけでは、人間関係の距離が縮まらない、まだ遠い、ということなのだろう。

 髙井のいう票を集める極意は、次のとおりである。

全く知名度がなく、元々の人間関係が存在しない候補者であっても、ある一人の有権者に対して手を変え品を変え一〇回接触すると、よほどの理由がない限り、その有権者は自分に投票してくれるようになる。(p.50)

 これだ。「手を変え品を変え10回接触」。

 共産党統一地方選挙に向けて、第6回中央委員会総会で、次のような方針を打ち出した。

「折り入って作戦」とは、"後援会員、支持者、読者に「折り入って」と協力を率直にお願いし、ともにたたかう選挙"にしていくということです。

 京都府の伏見地区の鈴木貴之委員長からは、次のような報告が寄せられました。

 「『折り入って作戦』を今回の選挙戦で3~4回と繰り返し行い、直接訪問を支部が行うことを重視しました。対話を通じて党勢拡大に結び付き日刊紙、日曜版で連続前進につながりました。5月~7月『折り入って作戦』と『集い』を繰り返す中で6支部7人の入党者、そのうち50代以下5人を迎えることができました。繰り返し『折り入って作戦』を行うことで、『積極的支持者』をつくることができたことは大きい。選挙最終盤、選挙後も『はがきをもらい、勇気が出た。私も10人に訴えた』『家族にも広げた』『投票所に連れていった』などの多くの反応が出されました」

 ここには「折り入って作戦」を、「"気軽に""率直に""何度でも"を合言葉」(5中総決定)にとりくむことがいかに大きな力を発揮するかが、生きた形で示されています。直接訪問して対話すること、「集い」を繰り返し開いて結びつきを広げることの重要性が語られています。

 正直ウザいのでは? と思うかもしれない。

 ウザいと思う。

 それに対して、髙井はここでも解像度高く、次のように指摘する。

この法則のポイントは、「手を変え品を変え」という部分です。当たり前のことですが、単純に、「お願いします。」という電話を一〇回繰り返しても、煩わしがられるだけで、却って逆効果です。「しつこい」、「煩わしい」、「鬱陶しい」と思われないように、様々な方法で、何かと理由を作って働きかけをすることが肝要です。また、投票依頼以外の「お願いごと」を色々とすることで、有権者に「この候補者は、私のことを頼りにしてくれている。」という意識を持たせることができます。多くの有権者にとって、他人から頼られることは、悪い気がしないものです。(髙井p.50)

 髙井は「これはあくまで一例」(p.51)として、次のような「10回の働きかけ」を例示する。

  1. 後援会の入会資料(リーフレット)を郵送する。
  2. 候補者が訪問して後援会入会依頼や知人の紹介依頼をする。
  3. スタッフが架電して入会依頼・紹介依頼のダメ押しをする。
  4. 政策ビラを名宛てで郵送する。
  5. 街頭演説・駅頭演説を見せる。
  6. 後援会事務所開きの案内をする。
  7. 選挙運動用通常はがきを用いた知人紹介を依頼する。
  8. ボランティア等による協力を依頼する。
  9. 選挙事務所開設の案内をする。
  10. 選挙期間中に電話で投票依頼をする。(髙井p.51)

 そしてそのさいの注意ポイント。

ただ、一つ注意点が合って、それは、街頭や駅頭で姿を見せる場合を除き、すべて、その有権者に対して「名宛て」で行なうことが必要だということです。(同)

 共産党の場合はどうか。共産党は「後援会」をゆるく考えている。「後援会ニュースを読んでくれる人」(後援会ニュース読者)を、いわば「準後援会員」として扱っており、そこにファン度を高める働きかけをしていくのだ。よく飲食店とか美容室などで一見さんに対して、メールやラインのニュースの会員の登録をお願いするという、ハードルの低い入り口を用意するのに似ている。

 ここで、小さなことであるが「名宛て」をしている組織とそうでない組織がある。

 「名宛て」そのものはたぶん小さなことだろう。

 大事なことは、組織の側が、ニュース読者になった人を「個人」として認識し、それを尊重するような働きかけをする精神を持っているかどうかなのだ。「犬の赤ちゃんをもらったそうですね」とか「お孫さんは北海道で警察官をされているとか」のような認識。

 そして、よく読めば、髙井のいう「10回」の中には、明らかに「郵送」(名宛てポスティング)と書いてあるものが2項目あるし、電話と明記されているものも2項目ある。直接訪問を必須としているのは1項目だけである(2番目の項目)。

 京都の伏見地区の経験は直接訪問を3〜4回しているのだから、髙井のいう取り組みよりもひょっとしたらハードルが高いと言えるのかもしれないのだ。

 

 

 そして、その働きかけを早くしなければならない。

私が市議会議員選挙に初めて立候補することになった時は、いわゆる「落下傘候補」だったこともあり、選挙区内に個人的な人間関係がほとんどありませんでした。そこで、私に出馬要請した菅直人衆院議員の支持者宅を中心に挨拶廻りしました。その時、非常に多かった反応が、「ああ、菅直人さんのところから出るんですか。それならぜひ応援してあげたいところなんだけど、残念ながら、つい先日、地域の〇〇市議が挨拶に来られて、投票するって約束しちゃったのよ。あなたが先だったらよかったんだけど。ごめんなさいね。」というものでした。そういった場合の「地域の〇〇市議」たちは、政治的なスタンスが当時私が所属した政党「社会民主連合」や、菅直人議員とは全く違っていることがほとんどでした。(髙井p.47-48)

 ところが他方で、髙井はこんなことも言っている。

 2年も3年も前に行っても有権者は忘れてしまうし、その訪問自身を選挙と結びつけて考えられない。そして2年前に行っても忘れられて、1ヶ月前に来た別の候補の方が強く印象付けられる。だから「早ければ早いほどいい」というのは考えものだ、と。

有権者が特定の選挙の実施を意識するのは、どんなに早くても約一〇ヶ月前、「選挙があるぞ」という空気が地域社会に広がってくるのは、せいぜい二〜三ヶ月前のような気がします。(髙井p.27)

 統一地方選挙は来年の4月。半年あるからまだ十分間に合うというか、今から始めてちょうどいい。

 ただ、それは票をお願いする話。

 選挙を意識した活動そのものは1つの期である4年間ずっと行う必要がある。

 例えば2期目のジンクス。1期目は当選するが2期目は落ちる人が多い、というジンクスがあるのだが、髙井は新人を通そうという「新人期待層」がいて、新人にボーナスが与えられるのだと考え、2期目が難しい理由を次のように述べる。

この新人期待層は、常に議会の新陳代謝を期待しているので、ほとんどの場合、現職や元職の候補者には投票しないからです。ですから、初めての選挙で、運を天に任せるような戦い方をして幸い当選した場合、特に何もしなければ、確実に二期目の選挙でガクッと票を減らし、落選の憂き目を見る危険性があるのです。(髙井p.55)

 髙井はそこで2期目を目指す議員(あるいは一度通った現職議員全てに通じることだが)に何をやれというのか。

そこで絶対にやらなければならないことは、良質な名簿づくりです。なぜ名簿づくりが重要なのかというと、その名簿が、当選後(あるいは落選後)、次の選挙までの間にお付き合いする基本となるからです。(同)

そのため、選挙の際に反応がよかった人(=支持者)を名簿化し、その人たちに、定期的に活動レポートを郵送したり、活動報告会を開いたりして、関係性を維持するのです。そうして、日常的に頑張っている姿を見せれば、投票してくれた支持者は安心し、次回の選挙でも応援しようという気持ちになるのです。(髙井p.56)

 え? できてない?

 しょうがない。

 今からでもやるしかないだろ。

 共産党の人たちは、よくもわるくも「住民全体のことを考える」ので、例えば議会報告のチラシなどは住民全体に配布する。それはそれで重要な仕事だとは思うのだが、「名簿をきっかり整備してそれを日常的に増やし、常にファンサして耕す」という観点が薄い。

 昔は党員が若かったので、PTAだのサークルだの市民運動だのにつながりがあった。それが意識的にか自然成長的にか、支持者のリストになっていた。しかし、高齢化するとそういうつながりが次第に弱くなっていってしまう。

 だからこそ意識化して名簿にしなければならなくなるのだろう。

 

 だが、名簿は自然には増えていかない。

 この名簿を増やす方策については髙井は何も書いていない。

 どうしたらいいのか。

 それは、政党や議員が住民のために何かしらの働きかけを行った時に、住民とのつながりができるわけで、外に対しての働きかけ、つまり住民の要求を取り上げた時以外にはなかなか増えようがない(無差別の電話などでたまたま潜在的な支持者を見つけることはあるだろうが)。

 共産党においては、第6回中央委員会総会が次のように提起している。

●すべての支部が、12月末までを一つの節にして、国政問題とともに、身近な住民要求・地域要求にもとづく運動にとりくみ、地方議員団・候補者と協力して、その実現のために力をつくします。

 まあそれしかないだろうなと思う。

 しかし、政治運動にハマっている身からすれば、実は要求を実現させるための社会運動をやっていろんな人と出会うことこそ、政治をやる醍醐味であって、このプロセスは活動を面白くさせることができるはずのものなのだ。

 …と、そんなことをいろいろ考えさせてくれる本であった。