とよ田みのる『金剛寺さんは面倒臭い』1

 どうしても『ラブロマ』と比べてしまった。
 高校生の初々しい、しかし変なカップル、主に男子の側のエキセントリックさに焦点をあてて書かれた、とよ田の出世作
 今から自分が15年も前に書いたレビューを読み直しながら、『金剛寺さんは面倒臭い』は、最初は『ラブロマ』の男女の攻守が逆転しただけなのかと思ったが、やはりそんなことはない。
 『ラブロマ』の時、ぼくはエキセントリックな男の子(星野くん)の側に立って、その心情を理解してくれる女子との邂逅の物語として読んでいた。「心は星野くん」であった。


 『金剛寺さんは面倒臭い』は、柔道が強く、成績は優秀、しかし、クールというか四角四面なまでに形式論理的で一本調子な女子高生が、樺山プリンという男子高校生(実は鬼なのだが)と出会い、恋をする物語である。

金剛寺さんは面倒臭い(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス) 確かに、『金剛寺さんは面倒臭い』における女子・金剛寺さんはエキセントリックであるが、だからといって金剛寺さんに感情移入したり共感するわけではない。といって、それを見つめる樺山君の視点でもない。樺山君は、主人公の一人ですらない。彼は狂言回しにすぎない。


 そう、ぼくが見ていたいのは、金剛寺さん、ただ一人なのである。
 思えば、この表紙の絵、これは第1話のラストの大ゴマをそのまま持ってきているのだが、本当に正解だ。
 この絵に魅入られてしまったと言ってもよい。
 告白した男子であり今しがたそれを反転させて告白し返された男子=樺山君の視点を拝借して、金剛寺さんを見つめる。
 恋した相手にだけ現れる(そんなものは見たことはないが)光輪が散りばめられ、あのクールでロジカルで無表情なはずの女子が、いま相好を崩して

「私も、君が好きだ。」

とあの、とよ田独特の太い字でぼくにはっきりと応えてくれている。
 今しがた「樺山君の視点でもない」と言ったばかりなのに、樺山君の視点でこの非常に美しいコマを見ているとは? 一体? あえて言おうッ!! その瞬間だけ樺山君の視点をまさに「借りる」だけなのだッ!! それ以外、終始、ぼくは樺山君には共感もしないし感情移入もしない。しかしこの瞬間だけは樺山君の視点が、どうしても、なんとしても必要なのであり、その視点こそが、本巻で最も美しいコマなのであるッ!!
 彼の視点を借りて、その可愛い金剛寺さんを見つめ続けるのである。
 ぼくはこの作品で金剛寺さんばかりを見つめ続けている。
 その中でも白眉がこの第1話ラストの告白のコマなのである。なんとも美しい。
 こんな美しいシーンが人生にあったら、それだけで生きていけるんじゃないか?