若菜光流『プレシャス・ラブ』

蔵書をふやさずエロを読むには…

 女性向けのエロコミに興味がある。
 いわゆるレディコミを一部にふくめるが、どちらかといえば、ティーンズラブといわれる、もう少し若年層に向けてのものだ。

 興味があるけども、当たり外れが大きすぎる。
 1冊が4〜500円として、まず書店ではシュリンクがしてあって読めない。なので、絵柄や話を確認することはできない。むろん、店員を呼んで包装を破ってもらえばいいのだが、エロマンガで一つひとつそれをやる精神的防御ポイントは、わしゃー持っておらんのじゃよ。

 だから、当たり外れだけじゃなくて、レジに持って行くときのストレスも大きい。いちいち「レジ前羞恥プレイ」に耐えて買うのは辛いのである。
 ほら、地元だと保育園のお母さんとかが本屋にいるじゃないですかあ。

「あれ? プー子(うちの娘の仮名)ちゃんのお父さんじゃないですか? 買い物ですか?」

「(大狼狽)うわっほわっ;m→gevb☆!TRk@tehdかけなbsi&%$#)~!☆ えええええ、まあ、そんなもんです」

「何読んでるんですか?」

とか言われたとき、レジに『朝から欲しいの』『ベッドの上で夜の体育授業』とか置いてあったらもう二度と声とかかけてもらえないじゃないですか。

 じゃあ、ふつうの少女マンガを大量に買っているところを目撃されるのは耐えられるのかというと、もちろんだ。何の問題もない。

 そこで、ウェブコミックですよ。
 Yahoo!コミックはぼくの場合、MacSafariなので対応していないのである。で、ずいぶん早くに探求を諦めていた。
 ところが、たしかmixiで広告(しかも性的コンテンツをにおわせるもの)が出ていたと思うのだが、電子貸本Renta!があった。試し読みができて、48時間程度のレンタル、もしくは無期限レンタル(いわば購買)ができるのである。

 これだ!と思ったものの、クレジットカードをもたないぼくは、適合する決済システムがないのかとまたしてもあきらめていたのだが、よく読むとコンビニでプリペイドを買ってそこに書かれた番号を記入して決済する「WebMoney」というしくみがあった。わーい。


Renta!を利用してみる

 んで、記念すべき1冊目をレンタルしてみたのである。
 「100円〜」というふれこみだが、エロ系コンテンツはほとんど3チケット、つまり300円台くらいからの価格設定で正直高い(「から」というか、ほぼこれで統一されている)。レジ前でもじもじしたり「領収証ください」などと言いたくなる誘惑はなくなったが、一冊一冊を吟味して「ハズレ」を選ばないようにする時間はけっこうかかる。もし100円台設定だったら、もっと気軽にカネを落とせたかもしれないのに。

 表紙などをふくめて最大20ページ前後の無料の試し読みができるようになっていて、たいていエロイベントが始まる前に終わってしまう。「読めないよりはずっといいが、これだけじゃわからんなあ」という感じだ。
 読んだ人のレビューも見られるようになっているが、エロマンガはたいてい「消費」して終わりなのでなかなかレビューがない。1つだけあって高評価でも「編集者のカキコミかな…」と疑ってしまう。

 ただまあそういう乏しい情報のなかでも、女性用のエロコミに読者が何を求めているのかが垣間みれて興味深い。
 たとえば今この時点で「ティーンズラブ」分野のトップにあげられている晴山晴緒『夜伽執事』のレビューは11もついているが、評価が低い。
http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/review/7297/

イラストが好みだったので読んでみましたが、期待外れでした。 話が唐突でただHシーンがあるだけって感じの、中身の薄っぺらな話でした。 そのHシーンもワンパターンだし。 続刊も読んでみたいとは思いません。 タイトル負けしてる作品です。(rinrin4さん)

短いし、内容も薄い。 絵が可愛いと思って借りてみたものの、ひどかった。 感情移入ができる隙もないし、本当に色々唐突で、その分Hシーンがというわけでもなく・・・。こういう設定なら主人公が恋愛にへんに悩むみたいな展開より、濃厚なシーンで攻める方がいいような気がしました・・・(ruruさん)

レビューを見て別の意味で興味がわいて読んでみましたが、 設定の一人歩きと言いますか・・・むしろ初期設定もぐらついてると言うか・・・ とにかくセリフもキャラもセックスシーンも全て性に興味津々な未成年の妄想の閾を超えないなというのが正直な感想です。ティーンズだからそれでいいのかな?(malitiapumpさん)

 逆に評価をするレビューはどうか。千川なつみ『蜜色キャンバス』。

絵も奇麗だし、内容も丁寧に作られています。 男子も女子も気持ちの盛り上がり方や時間の経過に不自然さが無く、短編ながらすとんと入ってきます。 キャラクターの微妙な感情表現も上手いと思います。 一気に全作品読みましたが、全作品そんな感じで安心して読めます。 おすすめです。(GOODKMPさん)

エロシーンさえ読めればいいというものではない

 これを読むと、当たり前のことだが、エロシーンさえ読めればいい、というものではないことがわかる。「唐突」「不自然」「妄想」やご都合主義を否定する言葉が並び、感情をていねいに描いて「感情移入」をさせることなどが重視されている

 一種の様式があって、だいたい1作について150ページくらいなんだけど、その間に2〜3回のエロイベントをもりこんで、それを出来うる限り説得的に描かないといけないのである。なかなか難しそうだ。


女子高生とサラリーマン

プレシャス・ラブ (カルト・コミックス sweetセレクション) ぼくが最初に借りたのは、若菜光流『プレシャス・ラブ』。
 喫茶店でバイトする主人公の女子高生・静江が、そこに時々やってくる8歳年上のメガネ男子サラリーマン・明の疲れて(アンニュイな)知的な感じに恋をしてしまうという設定である。つうか切込隊長山本一郎)を美化したみたいな顔なんですがw

 静江が明に勇気を出して話しかけたりそれに逡巡しているまではわりと丁寧に描かれているのだが、女子高生の着衣を執拗に求める男から逃れるところに明が偶然現れて、そのまま告白→街頭でキス・抱擁→「……帰りたくない? わかった 優しくするから」でホテルにまで行ってしまうのはどうかと。
 一応ロジックとしては、「実はどちらも強く思い合っていて、それが止まらないほどの流れになっている」という説得になっているのだが、ここは肝心なところなのに読んでいてキツい場所であった。

 というか、読者としてはそういうところはあまり求めていないのかな、と逆に思う。
 明は、クールな風貌なのに、キャラクターの描き方としてはむしろ温かさを感じさせるものになっている。そして、静江が「一途でかわいい女子高生」ということになっているので、全体として印象に残るのは、家やホテルでの甘々な会話とセックスの描写である。


細部の破綻はどうでもいいことである

 なんというか、ディティールはいっそ破綻している箇所が多い。自分が会ったこともない女子高生のプリクラを、会社の同僚の男(20代末)が携帯に貼ってたら、普通ドン引きだろ。
 それから、幼なじみの男とのやりとりや未練は、ひどく中途半端な効果しかもたらしておらず、まったく余計としか言いようがない。明のお見合い話とかも。
 そういう「ドラマチックなアゲサゲ」演出はこのページ数で上記の要件(数回のセックスシーン)を満たすためには不要というほかない。

 にもかかわらず、「家やホテルでの甘々な会話とセックスの描写」は印象に残る。静江のやわらかそうな姿態と性格を表すグラフィックもあわせて、ふたりでダラダラと甘い雰囲気に浸っていたくなるし、そのあたりのことがきちんと押し出されている(図参照、笠倉出版社、p.32)。

 仕事でなかなか会えない、という状況下でクリスマス・デート。
 「ゆっくりお話したい」とかそういうことじゃなくて、今日はゆっくりセックスしたいということで静江の方からホテルに誘う展開になっている。しかも、「ふくよかな乳房に胸をうずめさせる」ことで明を癒してあげようとするのだ。
 ベタで申し訳ないが、この流れだけで、ぼくは「わー、いいなあ…」とか思ってしまった。


 そういうふうにこのマンガをみたとき、「ああ今自分は『甘々の、ダラダラした、幸せそうなセックスや関係』のお話が読みたいのだ」と自覚した。
 だから、遠距離恋愛になってしまうかもしれないという状況が生じたとき、明が半分血迷うような形で結婚を申し込むのは、ぼくには「唐突」ではなく、むしろ明が静江を大事にしている、というメッセージとして、「甘々の、ダラダラした、幸せそうな関係」をあらわすものに感じたのである。