コージィ城倉・ちばあきお『プレイボール2』


プレイボール2 1 (ジャンプコミックス) ちばあきお『プレイボール』を復活させた、コージィ城倉の『プレイボール2』。
 毎巻楽しみに読んでいる。


 Amazonのカスタマーズレビューを見ると、1巻が星4つで52レビュー、2巻が星3つで35レビューである(2018年2月18日時点)。
 「絶賛」一色というわけではなく、賛否が分かれている状態なのがわかる。
 特に2巻。
 主人公であるキャプテン谷口の性格描写に違和感を持つ人が多いようだ。

何に問題があるのかと言えば,登場人物のキャラクターが初期設定と変わってしまっていることだと思う。谷口は,ひたすら頑張り,言葉で語りかけるより,ひたすら頑張り続けることでナインを引っ張っていくというキャラクターだったはずが,この当たり前のはずのことがきちんと描かれていないように思う。

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谷口の性格の変化が気になり、意志は固いけど、自分の意見を押し通したり押し付けるようなタイプではなかったのに、甲子園の常連校の関西人の監督に明らかに間違った主張を押しと通すのは不自然すぎる。

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谷口くんが田所さんに対して「そんな小さな喜びいりませんよ」なんて絶対に言いません。

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更に、谷口本人も人格者で無くなっています。本作品での谷口には、キャプテンとしての器がありません。チーム内もバラバラになってしまいました。その他、ツーランスクイズや竹バットは、アイデア重視の近藤野球なら有り得ますが、基本に忠実な谷口野球には有り得ません。3人を2-2-2-1-1-1で回す、肩が冷えてからもう一度投げる乱暴な継投策もセオリーでは有り得ません。

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 確かにこの谷口は、あの谷口とは違う
 「あの谷口」との違いを象徴する「この谷口」は、口をV字にして目をまん丸にしたままの表情でクールなことを言い放つのである(下図)。
*1
 表情が変わらないし、瞳が中央に孤立しているので、ものすごくマッドなイメージになる。
 特に2巻になって谷口のクールさ、戦略家ぶりが目立つ。バットの真芯でボールを捉えさせるために竹バットを使うというアイデアの導入はその象徴で、ここに違和感を覚える旧作ファンは少なくないようである。


 だが、ちばあきおの連載が終わって40年の月日が流れ、野球、そして野球を見る目というものが進化している以上、昔のままの谷口を描くということは、懐古にしかならないのではないか。例えば「ひたすら頑張り,言葉で語りかけるより,ひたすら頑張り続けることでナインを引っ張っていく」というようなナイーブな野球像はもはやあり得ないということだ。

 その点から言えば、むしろ谷口が無茶とも言える膨大な練習を課したり、井口が隠れて同じくらいの練習をやっているというシーンは、「1970年代的」である。
 むしろそれを変えてしまうと、70年代的なものが全く消えてしまう。


プレイボール2 2 (ジャンプコミックス) 読者はすでに2010年代の読者であり野球の進化を内面化している。
 他方で、この舞台はピンクレディーをテレビで眺め、新しい洗濯機を夫婦で争って触りたがる1970年代なのである。
 コージィの『プレイボール2』は、40年間の進化を取り入れながら40年前の空気を壊さないという難しい課題を抱えている。
 その点から考えれば、コージィ『プレイボール』はこの難しい課題をうまくこなしていると言える。


 「ちばあきおと違う」という注文を寄せている人も一定数いる。
 コージィ城倉の絵柄は相当ちばの絵に似せているし、コマの運び、時代の雰囲気も相当に気を遣っていることがわかる。
 ただセリフや展開にときどきコージィ色がでる。
 しかし、それでこそ別の人が受け継いだ楽しみだ。
 例えば、下記のコマの谷口はいかにもコージィらしい。
*2

 このコマでは、コージィ『プレイボール』では、例の口がV字・見開かれた目でのマシーンのようなクールさを見せる谷口とは違い、極めてヒューマンである。クールな谷口が壊れる瞬間にコージィらしさがのぞき、それがまた旧作ファンには不満となる。


 1巻末のインタビューで「名作を引き受けたというプレッシャーは全くない」と述べているように、コージィ城倉の頭の中ではすでに『プレイボール』は血肉化されているのであろう。計算ではなく体・頭から絞り出されて来るものを紙に落としている感じで、そのまま我々は素直に作品を楽しみたい。

 

*1:コージィ城倉ちばあきお『プレイボール2』1、集英社、p.206。

*2:コージィ城倉ちばあきお『プレイボール2』1巻、集英社、p.26。