河原和音『素敵な彼氏』5巻は、ずっとラブラブだった。
たいてい少女マンガにはいつもしょうもない危機がやってきて、二人を試すんだけど、ずっとラブラブ。ラブラブ展開、すっごく好き。
もちろん、あるよ。ずっとラブラブマンガって。
たとえば志摩時緒とか、かがみふみをとかを即座に思い浮かべられる。
だけどここは、少女マンガとしてのラブラブ。
試練を乗り越えて結ばれた後も、というか結ばれた後こそ、長い「つきあう」という道のりがある。
んで、この巻で一番印象に残ったのは、カラオケボックスで主人公・ののかが、友達3人と自分たちの彼氏のどこが良かったのかを交流するシーン。ののかが、自分の彼氏(桐山)のよさを、
「あと…なんか かわいい…」
ってつぶやくと、
「あー かわいい わかる!!」
「かわいいんだよねー!!」
「ムカついてもかわいいとこがあって許しちゃう!!」
「わーかーるー!!」
っていうところ。
ののかが、びっくりしてあっけにとられる。
3人のことを、自分よりも随分先に行っていた「先輩」のように思っていたら、みんながたちまち同じように共感しあったからだ。
だれかを
好きになる
気持ちって
片想いだとか
つきあいたてとか
何年つきあったとか
そういうの関係なく
一緒なのかも…
と気づく。
男性のマンガや、他の少女マンガなら、普通は、その前に男性の「カワイイ」仕草や描写、エピソードが入っているはずなんだけど、少なくともぼくは桐山を「かわいい」と思ったことはない。
ぼくの読み飛ばしかもしれないけど、そういう描写をしていないはずなのだ。
桐山は「ははは」が口癖で、乾いたような照れたような笑いといっしょに、ドライな、しかしよく考えてみると優しいリアクションをしてくれている、クールで謎めいた感じの男子が桐山のはずなのだ。
桐山の「かわいい」は、ののかにしかわからない「かわいい」だ。
自分にしかわからない「かわいい」、つまり秘密の「かわいい」をそっと公開したら、同じような反響が返ってきた。
それは少女にとってとても意外なことだ。
自分しかわからない「特殊」であったものが、実は「普遍」であった。
その事実に気づいたことによって、
だれかを
好きになる
気持ちって
片想いだとか
つきあいたてとか
何年つきあったとか
そういうの関係なく
一緒なのかも…
という恋愛讃歌を描くことができるのである。