『シリコンバレー式 よい休息』


 そんなふうに思っていない人は多いけど、共産主義の目的は時短による自由時間の増大である。
 「はあ?」「えーっ!?」って思うかもしんない。
 労働時間の短縮で自由時間を増やして人間が全面発達する――という展望をマルクスは人間の解放だと見ていた。
 


 だから、コミュニストのぼくは、自由時間、時短、余暇の時間に強い関心がある。

自由時間でのモノ書きで人生が変わった

 仕事とは別の時間に、ネットにむかってモノを書くようになって、もう14年になる。その間に得られたものは大きかった。
 人生が変わった。
 マルクスの全面発達論というか、「時間は人間発達の場である」というマルクスの有名な言葉を実感している。
 モノを書く人生を送りたいと思いながら、モノを書くのとは違う今の仕事についてしまったので、よく考えたら人生を台無しにするところであった。今「モノを書くことをやめて仕事に専念しろ」という指令がどこからか出るようであれば、すぐ仕事を辞めるだろう。
 ぼくらは自由時間をどう過ごすのか。

戦略的休息をあえて「学ぶ」

シリコンバレー式 よい休息 本書『シリコンバレー式 よい休息』は休息、つまり労働時間ではなく、家事などに拘束されていない自由時間を戦略的に取るべきだという本である。
 休息をとることについていちいち本で読むなんてアホなの? 休んで好きなことするだけだろ? と思うかもしれないが、この本に書いてある次のフレーズは気に入った。

  休息は、セックスや歌唱やランニングのようなものだ。つまり、誰でも、どうすればいいか基本的なところはわかっているが、少し勉強して理解すれば、 はるかにうまくできるようになる。(アレックス・スジョン−キム・パン『シリコンバレー式 よい休息』、Kindle の位置No.223-225、日経BP社. Kindle版)


 本書の感想や書評に少し苦情があるけども、確かに各章を証明するための例証がダラダラと続く。だけどそれは読み飛ばしてもいい。面白そうな部分だけを拾い読みしたっていいんじゃないかと思う。

集中して生産性を上げられるのは4時間くらい?

 例えば「4時間」という章がある。
 これは、各分野で創造的な仕事をした有名人たちは、だいたい4時間くらいでそういうクリエイティブな仕事をしているぜ、って話。ダラダラ長時間働いても生産性なんか上がらないんだよ。ダーウィンとかスティーヴン・キングとかが登場する。
 そのあとの「朝の日課」っていう章には、(本業の)仕事を持っていて子どもがいると夜はエネルギーがなくなるぜ、という話が出てきて、また、キングが午後は平凡な作業の時間に当てているって話もある。
 そのことと「4時間」って話をあわせると、午前中に集中した作業をやるべきだということになるじゃなかろうか。
 うん、これは思い当たることがないでもない。
 午前中に単調・平凡な作業を割り当ててしまうのはもったいないことで、いわばエネルギーがあって、清新な気持ちでいられる時間は、難しいことを考えたりやったりする時間にしたほうがいいと思って、今実践をしている。


 「昼寝」の章もある。チャーチルやダリの逸話が紹介される。
 ダリの15秒仮眠の提案が面白い。
 昼寝が効率を上げるっていう話は、最近新聞でもよく見るようになって、学校でも取り入れているという記事を見るようになった。
 ぼくも、最近10分くらいだけど昼休みに寝るようにした。
 うとうとする程度だけど、確かに違う。
 

 「睡眠」の章では、睡眠こそ戦略的休息そのものだとして、いろんな意義が書かれている。
 確かに、睡眠については、思うところが多いけども、本書のこの章だけでは十分だと思えない。というのは、どれくらいの時間寝たらいいかとか、どんな眠りが必要なのかということは、もっといろんな本を読んで考えるべきだからだ。戦略的に考えられるべきだ、という課題設定だけをした。

ホテルに泊まっている時の方が解放感が大きい

 「回復」の章を読んでいる時、次の言葉に深くうなずいた。

家に戻っている時よりもホテルに泊まっている時のほうが、仕事のストレス からの解放の度合いが大きいことが明らかになった。(本書No.2332-2334)

 いやー全くそうなんだよね。
 最近、出張してたんだけど、出張って解放感がすごくあって、好きなんだわ。


 そして「回復」「ディープ・プレイ」では、仕事=本業から心理的ディタッチメント(離れること)を施すことや、仕事ではないことで遊び込むことについて書いている。
 これをあわせて考えると、仕事でないことで、深い遊びをすることは、自分の思わぬ面を発見したり、仕事にも思いがけない効果をもたらしたりする。これがまさにぼくにとってのネットでの文章を書く作業だったり、そのためにマンガを読んだり本を読んだりすることなのだ。

「心の疲れた部分は、単に休むことによってではなく、他の部分を使うことによって休まり、強化され得る」 (本書No.2847-2848)

チャーチルの言葉のようだが、共感する。


 休まないと人間がダメになるなとつくづく感じるし、マルクスの「時間は人間発達の場である」をかみしめるなら、自由時間が乏しい人は全面発達できないということになる。


 本書は戦略的に休息をとることを考えさせるものだけど、これほどまでのボリュームが必要だったかかという一部の感想は確かにそうかもしれないと思わせる。