クリハラタカシ『名前のチカラ』

 月刊「たくさんのふしぎ」2022年12月号は、クリハラタカシ『名前のチカラ』である。

 「たくさんのふしぎ」は子ども向けに定期刊行されている月刊絵本だ。とはいえ、「たくさんのふしぎ」シリーズはかなり「読み応え」があって、大人でも十分面白い。いや、というより大人こそ面白いのではないか。「読み応え」というか「歯ごたえ」があって、大人であるぼくでも「難解」さを感じることもしばしばだ。

 今回は「名前をつける」という行為を

  • 概念化
  • 概念の段階
  • 立場による呼称の差
  • 民族による注目する概念の豊富・貧弱の差
  • 発見・発明による実体化

などにさまざまな角度から考えていく(もちろんこんな硬い言葉は使っていない)。

 途中に「街角名前採集家」の三土たつおが登場する。

 「何もない空き地」を写真にとって登場人物に見せるのだが、実は「何もない」のではなくこれほど多様なものがあるのだということを示す。名前を媒介にすることで、それらの実在性が急に我々の目の前に出現するのである。命名されるということは、概念として区分されるということであり、また、人工物(道具)の場合は何かの役に立つために世界に登場したことを突きつけてくる。

月刊たくさんのふしぎ2022年12月号、福音館書店、p.22-23

 まあ、特に工業製品だよね。「えっ、あの棒って、『一般構造用炭素鋼鋼管』っていうんだ」「あの塀にも『万年塀』っていう名前があるんだ…」と感心してしまう。

 「一般構造用炭素鋼鋼管」で調べると種類がいろいろあって、当然用途が様々なようである。上記の写真よりも太くて強そうな「一般構造用炭素鋼鋼管」は次のように使われている。

鋼管杭とは
建物の地盤が軟弱な場合に地中に打ち込む鋼製の杭のこと。
深度30メートルほどまで施工可能。

一般住宅では、外径Φ114.3ミリor139.8ミリ、肉厚4.2ミリの、
耐腐食性に優れた一般構造用炭素鋼鋼管STK-400を用いるのが最も一般的です。

 別のサイトでも「建築物には、主にSTK400を使います」とあるから、それが一般的なんだろうなとぼんやり思う。ではここで使われている「一般構造用炭素鋼鋼管」は何のために使うのか…?など様々な疑問が湧いてくる。

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 命名することで概念化され、区別が生まれ、その用途による違いが意識に上ってくる。

 

 上西充子も語っていることだが、「ご飯論法」という命名があってその論法は可視化され、人口に膾炙するようになる。

 名前をつけること、名前を知ること、つまり概念を理解し、世界を区別するようになることで世界の解像度が上がる…ということを、子どもに向けて啓発する本であるが、ぼくも先ほどの図(写真)を見ることで何だか世界が豊かになったような気がした。