娘が進路を決めたタイミングで、同じように公立高校に子どもを通わせることになった知り合いAさんの相談に乗る。
相談とは「自分の家庭は高校無償化の制度の適用を受けるか?」ということである。
公立高校については授業料相当のお金(高等学校等就学支援金*1)を支給するタイプの「無償化」が行われている。
しかし、これには所得制限がある。
目安であるが、高校生1人の子どもがいる場合は、両親が共働きなら年収1060万円、一方が働いているだけなら年収910万円が上限となる。
Aさん夫婦はどちらも働いている。
Aさん夫婦の家庭は、「両親が共働きなら年収1060万円」という条件をクリアしないのではないかという心配がAさんにはあった。
高校のこの無償化制度を使えるかどうかは、行政が勝手に判断して通知してくれない。保護者側が申請をしないといけないのである。
しかし、実際には「高等学校等就学支援金オンライン申請システム」(e-Shien)に、全員が書き込んで申請をさせられる。そして、収入が基準を超えているかどうかは行政が判断してくれる仕組みになっているので、実質的には保護者が自分の家庭は所得制限の基準をこえているかどうかをいちいち調べる必要はない。
ただしこの申請サイトでは、申請者である「保護者等」の情報を入れることになる。
https://www.mext.go.jp/content/20230322-mxt_shuukyo03-000020144_2.pdf
この「保護者」についての情報を入力するところで「親権者」が2人いるかどうか聞かれる。
親権者。
ぼくも、このAさんもハタと迷ってしまった。というのは、Aさん夫婦はうちと同じ事実婚の家庭だからである。事実婚の場合、「親権」はどうなんだっけ? と。
それで、最初は高校の事務に電話して聞いてみたのである。申請案内に「わからなければ事務に聞いてくれ」という趣旨が書いてあって、電話番号が載っていたからだ。
ぼくが「事実婚なんですけど親権者のところはどう書けばいいんですか」と尋ねると「そっち(申請者)の方で決めてほしい」と言われたのである。
え? あ。そうなの? 任意で決めて記入していいってことなの? と思い、ぼくは「親権者2人」でいったん申請した。
しかし、申請してから「いや…それっておかしくないか?」と思い直し、自分で親権について調べた(いや、前にも調べたけど、正確にどうだったか忘れていたのである。)
答えは、事実婚の場合は、親権者は1人しかいない。
それで県の教育委員会事務局に問い合わせることにした。県教委は「確認します」と言って、制度を調べ、ついでにぼくが娘を通わせる公立高校の事務にも確認の連絡をしてくれた。
その結果、ぼくが「親権者2人」で申請したのは間違いであったことがわかった。県教委ははっきりと「一般的に事実婚の場合は親権者は1人です」と回答してくれて助かった。
県教委からの折り返しの電話によれば、高校の事務も「そっち(申請者)の方で(親権者に人数を)決めてほしい」と言ったつもりはないとのことであった。“お前らの事実婚についての具体的状況とか知らんし、込み入った親権の紛争とかがあったりしたら断定するのはイヤなので、申請者がよく判断して決めてくれ”という趣旨だったらしい。(まあでも「一般的に事実婚の場合は親権者は1人です」と県教委のように答えてほしかったのだが…。分からないから聞いているのであって、そう言ってくれないと書類が記入できないからね。)
高校の事務に再度ぼくの方から電話して、真意を確認し、ぼくの方からぼくの質問が悪かった旨を謝った。
結局最初の申請を取り消して、新たに申請をし直すことにした。これは高校の事務に骨を折ってもらった。
ということがあったので、ぼくからAさんには「親権者は1人です。だから、ご夫婦の収入は合算されずに、親権者お一人の方の年収だけで判断されると思いますよ」と答えた。Aさんのところは、夫婦の収入を合計すると明らかに年収1060万円を超える。ところが、どちらか片方なら910万円は超えないのである。
まあ…まだ審査中なので、結果を見ないと分からないが、Aさんは大いに安堵した。
追記
これを聞いて、釈然としない人もいるかもしれない。
所得制限というものは、線引きの境界でいろんな不公平感を生んでしまう。
だから、ぼくとしては日本が最近(2012年)ようやく批准(留保の撤回)した国際人権規約(社会権規約)の13条通り、「無償化」を完全に果たすようにして、小中学校同様に誰でも無償で高校の授業を受けられるようにすべきだと思う。
*1:この支援金制度で私立高校に対しても授業料支援がある。