「隠れ教育費」を3つの部分に分けてその解消を考える

 前の記事を書いたことがきっかけとなり、2023年4月5日に「公立小中高の〝隠れ教育費〟を考える」というテーマで「ABEMA Prime」にオンラインで出演した。

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 ぼくとして話したことの振り返りはツイッターで行った。 

#アベプラ 「隠れ教育費」問題。出演終了。
ぼくの言いたいことが言えたか? という振り返り。

(1)まず、公立高校で入学時の3-4月に25万円準備しなければならないという事実、およびその非情さは理解してもらえたのでは。
(2)25万円のうち、内容も不明で自分が会員になることを同意すらしていないような「教育関係団体の会費」を保護者が負担する理不尽さも、参加者(そして視聴者の)共通認識になったのでは。
(3)「入学時に入学金等を言われた通りに払い込まないと合格=入学資格がなくなるかも」という強迫観念のもとで、任意性を一切説明されずに払わされる不条理も伝わったのでは。この費用部分を削除するか、適切な説明・同意を得るようにすることは「隠れ教育費」軽減の第一歩になる。
(4)「どこまでを無償化するか」問題。まず「教育の費用部分」といえる「授業料」「教科書代」「教材代」「給食代」を公費で完全カバーすれば、高校もかなり楽に。高校の教科書・教材費はクソ高い。「給食」を「教育」とみなす論理は現時点ではわかりやすさがある。
(5)「どこまでを無償化するか」問題の続き。服装・持ち物(制服・体操服・上履き・ランドセル・かばん・体操服)の指定品化・標準化をやめる。教育費用部分の完全公費化とこの「指定品解除」で、かなりラクになる。この(4)(5)は番組で、あわただしくだけど、一応訴えられた。
(6)まとめ発言。小中学校の授業料「金持ちは負担すべきだ」と誰も言わないのは受益者負担の呪縛がないから。だが他の教育費は受益者負担でつい考える。「子どもの教育のためにはお金を使うのがいい」という受益者負担マインドセットから解放される運動が必要という趣旨を述べた。
(7)言いたいことはなんとか言えたけど、前に出た「TVタックル」以上の「大脱線の大乱闘」で、慣れないと大変だなと思った。番組本来のテーマに戻して無償化や公費増額の意義を訴えるという必要な語りをするのに、福嶋尚子准教授も相当苦労されておられるようだった…。
(8)レギュラーの中では、安藤美姫さんのコメントが最も生活感があった。ぼくの意見に一旦同意して、「あ、でもランドセルはやっぱり必要では?」「子どもがすごく楽しみにしていて…」と思い直したり、逆にぼくの発言を聞いて「子どものためにお金をかける」論を見直したりしてくれた。 

 スタジオの状況については、こういうツイートもあった。

 ぼくが発言したことのうち、「どこまでを無償化するか」問題〔上記のツイートの(4)と(5)〕については、もう少し詳しく述べておく。

 

「教育費用」=授業料・教科書・教材・給食を無償に

 ぼくの考えは第一に、「市民からみて実感的にこれは『教育』と言える部分だろう」という「教育費用」部分を無償化することである。

 この「教育費用」にまず授業料が入ってくるのは疑いない。義務教育である小中学校の場合、現在の支配的な憲法学説でも無償化は「授業料」の部分とされている。つまりどういう立場の人でも授業料を無償化することは一致があるはずなのだ。高校でも実現したが、所得制限があるために完全には実現していない。大学にいたってはこれからである。高校も大学も国際人権規約で「漸次的無償化」が決められており、日本もようやく批准した。

 そして、教科書代。小中学校ではすでに無償であるが、高校は有償である。娘が高校に入ってその入学時に準備しなければならないお金の高さにぼくは驚いたわけであるが、そのかなりの部分を占めたのが、教科書代と教材費である。

 教科書無償の理念は、中等教育の無償をめざす条約を批准した今となっては、そのまま高校にも広げられる。

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 そして、給食費である。

 食育基本法の前文では

食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付ける

とし、その第20条では

国及び地方公共団体は、学校、保育所等において魅力ある食育の推進に関する活動を効果的に促進することにより子どもの健全な食生活の実現及び健全な心身の成長が図られるよう、…学校、保育所等又は地域の特色を生かした学校給食等の実施…その他必要な施策を講ずるものとする。

と定めており、給食を単なる食の提供ではなく、教育の一環として扱っている。だから「家で食事はするでしょ」というようなホテルコストと同様に扱うわけにはいかないものである。

 現在行われている統一地方選挙でも大きな争点となり、野党間では国政での実施がほぼ一致ができ(逆に国が行わないもとで、地方での先行実施には温度差がある*1)、自民・公明政権でさえ「無償化へ向けた課題を整理する」と言わざるを得ないようになってきたから、学校給食無償化の社会合意はできつつあると言ってよい。*2

 この分野で一番遅れているのは、教材費であろう。しかし、教育をする上で不可欠だから教科書と教材を使うわけで、「ぜいたく品」であるなら使う必要はない。教科書を無償にした以上、教材も無償にするのがスジである。なんなら、無償供与ではなく貸与制や学校備品にしてもよい。

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 そして、細かい話なのだが、ぼくが費用負担させられた中に「生徒氏名ゴム印 50円」だの「体育祭応援スタンド代 1000円」「入学の手引き 800円」だのがあった。

 もちろんぼくは払える。だけど「払える」からいいというものではない。

 生徒氏名のゴム印って、明らかに学校の事務として使うものである。保護者や子どもが私的に利用したいわけではない。学校の経費で賄うのがスジだ。

 学校教育法第5条では次のように定められている。

学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。

 経費はしっかり設置者(市町村や都道府県)が負担すべきだろう。法律通り。

 これは福嶋尚子が述べていたように、公費を増やすように教職員がリードして訴えつつ(「こんなところに隠れた私費負担がある」と告発する)、保護者や市民も公費化の世論を起こすべきだろうと思う。

 このような「経費」部分は、無償化というより、きちんと公費でカバーすべきなのである。

 

制服・学校指定かばんなどは廃止を

 第二に、制服・学校指定かばんなどの廃止である。

 制服・体操服・かばんなどは学校の校則で指定されていることが多い。特定の店でないと買えない「指定店」制度があるところも依然として多い。そして、教科書・教材費と並んで、この部分の費用はかなり大きな割合を占めている。

 この分の解消をどう進めるべきか。この分を公費でカバーすべきだろうか。ぼくはそうは思わない。*3

 制服は教育だろうか。

 娘の場合、小学校までは制服はなかった。

 中学校になったら制服が導入され、高校にもあった。「中学生らしい服装」「高校生らしい服装」を教えるのが「教育」というわけだ。「教育」? 生徒を並べて「膝上何センチ」などと定規で測って、やり直させるのが「教育」? 眉毛を型通りに剃らせて、反抗する生徒の眉毛を暴力的に反らせるのが「教育」?

 馬鹿も休み休みに言ってほしい。

 教育でもなんでもない。むしろ表現の自由を不当に規制し、人間の自由な精神を圧殺する飼育であり、反教育である。

 このようなものは直ちに廃止すべきだろう。

 もちろん安藤美姫が番組で残念そうに述べたとおり、ランドセルを背負いたい子どものために、ランドセルを買う自由は残すべきだ。それによって小学生になった誇らしさを謳歌することは、家庭の方針で認められていいものだと思う。

 その過渡として、指定品・指定店制度はなくす・大幅緩和すべきだろう。

 中学では制服が全市共通だったので、どこでも買えたし、自由競争があって価格が多少は安くなっていた。また、体操服や上履きなどは学校指定のものがなかったので、そこらの商店、ネットやスーパーで安いものをめいめいが買っていた。

 

会費などは十分に任意性を示す

 第三に、ぼくが一番驚いた教育関係諸団体の会費。

 県の体育連盟の負担金とか、地区の高校生徒指導協議会の会費、県の高校学校保健会の会費などである。なんだそれ。

 これはそもそも保護者が負担すべきものでないものもたくさんあるように思われる。そういうものの半強制的な負担はやめるべきだろう。

 番組では前半、かなりこれに時間を費やしてしまったのだが、無理もない。合格したその日に手続きに呼び出され、「言われた通りの入学料をキチンと振り込まないと入学の権利が取り消されてしまう!」というマインドセットがされている保護者に、無理やりなムードに持ち込んで払わせるべきではないものだ。

 打ち合わせをした番組の担当者が「マルチと同じですね」と言っていた。ぼくは、落語の「付き馬」で、吉原に上がって乱痴気騒ぎをした客が翌朝勘定を見て、店の者に「おい、何かい? こん中にゃあ、あの、途中で『こんちは!』『どうも!』とか言って訳のわからない奴がたくさん来ていたけど、ああいうのも全部この勘定の中に入ってんの!?」と質すシーンがあるけど、酔客からドサクサに紛れて金をむしり取っていく、アレを思い出した。

 この部分がクローズアップされたことは、社会問題として意義があった。

 あれは「入学料とセットにすることをやめる」べきだ。

 少なくとも任意であることを明示して、とっくりと選択できるようにすべきだ。もちろんそこにはPTAも含まれる。

 安全の保険とか共済掛金のようなものもあるのだが、それも任意であることをよく示した上で、加入を問うべきだろう。

 

 まとめると、

  1. 教育費用に関わる部分(授業料・教科書代・教材費・給食費)の無償化
  2. 制服や学校指定かばんの廃止・自由化
  3. 団体会費の任意の徹底

 この3つの部分に整理することが必要である。

 

 

*1:例えば福岡市政では国に対する給食無償化を求める意見書には自民党や令和会(維新を含む)は反対するが、公明党は賛成する。共産党や市民クラブ(立憲・社民など)はもちろん賛成である。ところが、福岡市に無償化実施を求める請願では、共産党は全員紹介議員になるが、市民クラブは一部しかならず、自民党公明党・令和会は誰も紹介議員にならない。

*2:福嶋尚子は給食を「教育」として扱うのではなく、そもそも生存権の立場から考えるべきだとしている。これはこれで重要な議論だとは思うが、現時点では社会合意を得る上では「給食は教育の一環である」というロジックの方がわかりやすいとは思う。

*3:もちろん当面はこの部分を就学援助のような形でカバーするは必要なことだとは思うが。