幕内秀夫『実践・50歳からの少食長寿法』

沖縄の長寿県転落についての2つの記事

 沖縄県が長寿県から転落したことについての解説的記事が、今日(2013年3月20日付)の「朝日」「毎日」と同じタイミングで出た。


 沖縄県が長寿県から転落したというのは、男性はすでに2000年には26位に転落しており、女性だけがトップだったけど、それも今回(2010年)には3位に転落したというのである。トップは長野県である。
 沖縄県も全国も、寿命自体はのびている。沖縄県ののびが、全国ののびほどでなくなっているのである。65歳以上だけとれば、沖縄県は男女ともに日本一である。


 毎日新聞の分析では、沖縄県を変えた波は2波あって、第一波は、米軍占領。琉球大学医学研究科准教授の等々力英美の次の言葉を紹介する。

「戦後8%ほどだった沖縄人の脂肪摂取は60年から70年代前半にかけて一気に上昇した。いまの50代、60代の世代の成長期に当たる」

 第二波は、本土復帰。すし、焼き肉、焼き魚という「未知の味」がやってきた。それによって何が入ってきたかといえば、塩分。塩っ気が多いというのである。沖縄タイムス元常務の次の言葉。

「沖縄はもともと低食塩文化。かつお節を生かした汁ものが中心で、しょうゆをあまり使わなかったが、本土の影響でかなり味覚が変わった」

 つまり、高タンパク、高脂肪、高カロリー、そして塩分摂取量の増加によって、沖縄県は長寿県の地位を失ったというわけである。

幕内の「予見」

実践・50歳からの少食長寿法-粗食革命のすすめ (講談社+α新書) 前に紹介した幕内秀夫は『実践・50歳からの少食長寿法 粗食革命のすすめ』(講談社、2004年)の中で「沖縄長寿神話の崩壊」という項を立てて、2004年の段階で、長寿県だと目されていた沖縄県に幕内が行って、いかにアブラまみれの食料事情になってるかをスーパーの売場などの様子から描き出した後、次のように書いている。


 たしかに沖縄県はいまだに長寿県です。しかしそれは、お年寄りが長生きしているだけのことでした。「粗食」を食べつづけてきたお年寄りは、全国平均をはるかに上回り長生きをしています。しかし若い世代は……。
 八四〜八五ページの表・グラフを見てください。男女とも、世代別に、沖縄県の死亡率と全国平均の死亡率とを比較しています。全国平均を一とした場合、沖縄県の死亡率はそれを上回っているか下回っているか、一目瞭然です。
 結果は、男女ともに、五〇歳以上の年齢では沖縄の死亡率が全国平均を下回っています。しかし五〇歳以下に目を転じてみると、女性の五〜九歳だけが全国平均より下であるだけで、あとは男女ともにすべての年代で全国平均よりも死亡率が上。つまり、早死にしているのです。
 グラフが示す、あまりにもはっきりとした境界線……。
 沖縄の長寿神話は完全に崩壊していました。「粗食」をとっている世代のみが長生きしていますが、「内地」よりもさらにアメリカナイズされた食事をとっている世代は、バタバタと亡くなっているのです。残念なことにではありますが、このままなら、近い将来、沖縄は間違いなく長寿県ではなくなることでしょう。(幕内p.86〜87)


 ぼくがちょっと興奮して、「ね、ね、幕内ってこんなこと予言してたんだよ。すごくね?」とか言うと、つれあいが、
アホか。グラフみたら数年後が見えたってだけやろ」
などと。
 ぐぬぬ
 まあ、2000年の国勢調査にもとづいておそらく2003年ごろに沖縄県の男性の平均寿命が26位に大幅ダウンしたのが直前に発表されていたのだろう。

「26ショック」と呼ばれた。県をあげて食生活改善に取り組んできたが、「まったく効果が出ていない」と県医師会の宮城信雄会長は嘆く。(朝日前掲)

とあり、幕内の資料も「健康長寿をめざして若いうちから健康づくり」という沖縄県医療福祉保健部健康増進課の資料だから、パンフレットかなにかになって、まとまった問題意識の書かれたものを幕内が読んだというのが正解だろう。

長寿と米飯

 前の記事にも書いたとおり、幕内がここから米飯中心の和食にもどし、肉・アブラ・砂糖をできるだけ控える運動を呼びかける。幕内は、50歳、40歳それぞれに自己防衛の10カ条を出しているが、40歳のそれを箇条書き部分だけ紹介する。各テーゼの中身が詳しく知りたければ自分で読んでほしい(幕内『40歳からの元気食「何を食べないか」 10分間体内革命』講談社)。

  1. 朝、ごはん(米飯)を食べられるような生活をする
  2. 夕食の時間に清涼飲料水(缶コーヒーなど)を飲まない
  3. 朝・昼・晩を通してごはん中心のメニューにする
  4. パンは食事にしない
  5. 副食は季節の野菜を中心にする
  6. 動物性食品は肉より魚を選ぶ
  7. 油のとりすぎに注意する
  8. アルコールは食事に影響を与えない程度に
  9. 砂糖のとりすぎに注意する
  10. ゆっくり、静かなところで食事をする


 「ごはん主義・米飯礼賛論者ではないか」という批判があると思うので、そこは確かに差し引くべきで、まあ「和食中心にしたら、自然とカロリーは下がる」程度の指標だと考えた方がいいだろう。幕内自身も言っているように、アブラや砂糖、肉をむやみに敵視しても意味がない。
 幕内の米飯主義は徹底していて、糖尿病のカロリー指導、とくに米飯などの炭水化物制限まで批判している。それはさすがにどうなんだと思ったが、今日の西日本新聞には「炭水化物制限勧められぬ 糖尿病学会『根拠不十分』」の記事が出ていた。以下は同じ件での読売の記事。

提言では、糖尿病の食事療法は「総エネルギーの摂取量の制限を最優先とする」と従来の立場を改めて強調。そのうえで、欧米での研究は対象が、極端な肥満を示すBMI(体格指数)30〜35以上のことが多く、肥満度が異なる日本人に合った炭水化物摂取量については科学的根拠がそろっているとは言えないとした。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130318-OYT1T01575.htm


 「ほれみろ」というんじゃなくて、それこそ幕内の言っているように、こういうものは知見がいろいろ変わるよね、という気になる。まあ、もしぼくが糖尿病患者なら、どっちみち医者の処方には従うんだけど。


実践的指針――魚が食べたいなら刺身とか寿司とか

 さて話を戻そう。
 問題は、実践である。
 こうした教条を実践できない職場生活というのが存在するのだから、「実際にできるようにするにはどうしたらいいのか」を誰でも考えるはずだ。そこで幕内は、『40歳からの元気食「何を食べないか」』において、次のような実践マニュアルを提示する。これもくわしくは、本書を読んでほしい。

  1. 行きつけの居酒屋に定食を頼む
  2. みそ汁をつくり置きする
  3. 炊かなくても用意できるごはん(市販のパック)を利用する
  4. 漬物、佃煮の「常備食」を買い置きする
  5. 惣菜屋を活用
  6. 刺身で魚はバッチリ

 幕内は、女性が米飯をしてほしいと考え、回転寿司を推奨している。かなりの量の「すめし」をとれるし、女性もけっこう行くからである。寿司は「刺身」でもあるから、ああ、これなら米飯でしかも魚もとれるなあと思った。無理がないのである。


塩分は気にするな? 摂りすぎ?

 幕内の意見の中で、一番ひっかかるのは、塩分についての見方だ。
 幕内の本には、「日本の保存食は塩辛くて当然」「減塩運動の誤り」「塩分は日本の伝統食文化」などという節がある。
 ぼくが前の記事を書いて、コメント欄に塩分に注意をという意見が書かれたのをはじめ、塩分のとりすぎを警戒する意見をよく聞かされた。
 これに対して、幕内は減塩運動によって佃煮や漬物や味噌が追放され、かわりにケチャップやマヨネーズを使うものが入り込み、カロリー過多をもたらしたのだと批判する。減塩は食事の洋風化のテコになっているのだ、と。幕内は、そもそも塩分は日本の保存食のためのものであり、伝統的な食文化であるとして、これを否定すると米飯中心の構造が崩れることを危惧する。長寿県となった信州では、野沢菜をはじめ、塩分をたっぷりとって長生きしているではないかと。幕内は、塩分が高血圧をもたらすというが、高血圧は塩分だけが問題ではないと反論する。


 さて、これにたいして、本日の新聞記事は、随所に塩分の過剰摂取批判が見られる。
 まず、沖縄については、先ほども述べた通り、本土のしょうゆ文化が侵入して、塩分の摂取がふえたことを毎日新聞の記事では批判的にとりあげている(ただし沖縄県の塩分摂取量は全国平均以下)。
 長野県については、同県が長寿化した原因として、野菜の摂取量の多さを指摘し、裏腹に、減塩運動の成功をあげる(朝日)。実は、長野県は昔から長寿県なのではなく、1965年には女性は26位で、60年代には脳卒中の死亡率が全国で最も多かった。現在、寿命が最悪の青森県は、喫煙率が全国トップであると同時に、食塩の摂取量が全国2位である。


 んで、こういう健康情報に接したとき、どうするよ。
 幕内とこれらの新聞記事の矛盾。相反するもの。


 ぼくは、こう受け取ることにした。
 やっぱり塩分のとりすぎはヤバいんだろうな、だけど実際の食生活では、いちおう幕内の指針にそって浅漬けとかは食べるようにしたいな、という感じ。基本的には幕内にしたがって、新聞記事(近代科学)で補正(注意しながらすすむ)。なぜそう考えたかといえば、やっぱり血圧が高い人にとっては、かなりデリケートに塩分を気遣うべきだと思うけど、自分はそうではないから。今年の健康診断で血圧の数値が悪化していたら、見直せばいいんじゃないかと思っている。だめかな。