一番好きなマンガは?

 「一番好きなマンガは何ですか」という問いに答えるのは至難である。

 それは「私におすすめのマンガはありませんか」という質問だからだと読み替えていたせいだ。前にも書いたことがあるけど、聞いた相手の都合や趣味を慮ると「あなたがどんな趣味趣向をお持ちなのか見当もつかない。マンガにはあまりにも多くのジャンルがありすぎて、ぼくはとてもカバーしきれていないし、ぼくが好きなジャンルはおそらくあなたは好きではないだろうから」という思いがわいてきてしまうのである。

 この前も、保育園の父ちゃん仲間(ぼくのブログを知っている)と川遊びに行った時、「『範馬刃牙』っていいっすよね!」と言われたのだが、バキシリーズはほとんど知らないので困ってしまった。

HER (Feelコミックス) では、「おすすめマンガとかじゃなくて、本当にあなたの好きなマンガを教えてほしい」という場合はどうか。

 これに答える難しさは、自分の中で好き=アツいマンガがめまぐるしく変わるということにある。

 たとえば、いまこのブログ記事を書いている瞬間、ぼくにとって最もホットなマンガと漫画家はヤマシタトモコおよび彼女の『HER』である。だがこの熱が持続するかどうかはまったく未知数だ。
 ここ数年くらいのスパンでいうと、志村貴子および『放浪息子』『青い花』、ということになる。
百日紅 (上) (ちくま文庫) 人生全体ではどうかといえば、杉浦日向子『百物語』『百日紅』となる(あと数人そう言える作家やマンガ作品はあるけどもとりあえず)。だが、人生最高のマンガがこれですか、といわれると、自分でも激しく違和感が残る。というのは杉浦が自分の中で高い熱をもって思い抱かれ続けている漫画家なのかといえばそうではないからだ。もちろん熱をもって読んだ時期もあった。だが、いまそういう熱気を自分の中に持っているわけではない。

 あえていえば、ぼくの中での脳内ポイント(得点)を、一定の高さで保持し続けているからにほかならない。いわば、他の漫画家や作品よりも急降下しにくいというだけなのだ。それはそれですごいことなのだろうけども。

 まあ、イチローみたいな感じなのか。ホームラン量産するとか、すごい派手なパフォーマンスはないけども、コンスタントに安打を重ね、落ちていかない、みたいな。知らないけど。

 そう考えると『このマンガがすごい!』のような1年ごとのベストを決めるのは、かえってやりやすいのかもしれない。まあ、これだって、1年の始めに旬だった気持ちと、アンケート集めたりする時点での気持ちには大きくズレがあるんだろうけど。