ちょうど一年前くらいに書いた記事の通りで、今ぼくが自分の中で一番大きな心配をしているのが米朝の衝突である。そのことはこの1年間変わらなかった。*1
http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170417/1492360721
九州に住んでいる、そして日米安保条約下の日本に住んでいるぼくとしては、戦争に巻き込まれる危険を強く感じた1年であった。
奇しくも1月に発表された内閣府の調査でも
現在の世界の情勢から考えて日本が戦争を仕掛けられたり戦争に巻き込まれたりする危険があると思うか聞いたところ、「危険がある」とする者の割合が85.5%(「危険がある」38.0%+「どちらかといえば危険がある」47.5%)、「危険はない」とする者の割合が10.7%(「どちらかといえば危険がない」8.1%+「危険はない」2.5%)となっている。
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bouei/2-6.html
ということが鮮明になった。
興味深かったのは、巻き込まれる理由として「日米安全保障条約があるから」をあげた人が16.4%もあったことだった。昨年度は12.9%だから上昇している。
ぼくが前の記事で書いた、そして一貫して主張していることでもある。
日本が不条理に着上陸侵攻されるわけでもない事態なのに、日米安保条約があることによって、日本が米軍の戦争に巻き込まれ、軍事攻撃を受けるリスクにさらされている
http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170417/1492360721
だから、米朝が直接対話をする方向に傾いたことは心から歓迎している。戦争以外にはそれしか解決方法がないのだもの。
朝鮮戦争の継続、そのもとでの日米安保として現在の朝鮮危機をとらえる
さて本書である。
タイトル『朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか』が示す通り、現在の北朝鮮をめぐる緊張を、朝鮮戦争の継続、そして朝鮮戦争を直接の原因として作られた日米安保体制のもとでの日本の位置、という構図から考えている。
小学生の娘のクラスでは「北朝鮮の無法」は同級生の間のジョークになるほど浸透しているし、この前娘の「2分の1成人式」とやらに行ったときには、ある男の子が将来の夢としてミサイルを防げるロボットの開発者になりたいという作文を読んでいた。*2
テレビだけから情報を得ている人の頭の中が拡大辞で反映されているようで興味深かった。
すなわち「北の狂気じみた無法」という側面だけがそこにある。
むろん、北朝鮮の核開発は国際法を無視したものであることは疑いない。
しかし、いま朝鮮戦争がただ「休戦」しているだけで、法的には継続していて、日本はその一方の当事者の側に立って事実上の兵站を担い、米側は北朝鮮のすぐ南の韓国に軍隊を駐留させ、北朝鮮の近くで軍事演習という示威をして続けている、という構図の中でとらえなければ、問題の解決には近づけない。
本書は、その構図の「そもそも」のところから、ぼくようなシロートにもわかるように問題を解き明かしている。
ぼくは、前の記事で、
横田の米軍基地には、国連旗が掲げられている。
休戦状態にあるが、横田にいる「朝鮮国連軍」は事実上の米軍であり、形式の上では、いまなお北朝鮮と戦争をしている当事者の基地なのである。
http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170417/1492360721
と書いたけども、「朝鮮国連軍」の存在に本書は問題を解く鍵を見ている。
なぜ北朝鮮は休戦協定を結んだ相手の国連ではなく、アメリカを相手に、休戦協定を平和協定に切りかえるよう求めているのでしょうか。(五味p.234)
そして五味自身は、この問いをあまり深く考えたことはなく、
朝鮮国連軍の主体が米軍だからだろうという程度の理解でした(同前)
という認識を吐露し、自省をしている。
「朝鮮国連軍の主体が米軍だからだろう」ということでないとすれば、一体なぜなのか。
そこに働く北朝鮮という国のロジックを平易に、五味は記している。どのようなロジックであるかは、実際に本書を読んでほしいのだが、本書を読むと北朝鮮という国がかなり理屈っぽい国であることを感じる。ただの「狂犬国家」だという認識でいると、間違う。
五味は、逆に、アメリカがこれまで朝鮮国連軍を解体せずに、韓国に駐留し続けてきた理由についても考察している。そして、朝鮮国連軍の解体を思い切って提案する。
今日のニュースで米朝会談を前にして、北朝鮮側が「在韓米軍の無条件撤収」を改めて主張したことが報じられていた。
北朝鮮の国営メディアは、韓国に駐留するアメリカ軍について、「南の人民が願うのは、朝鮮半島の平和を脅かすアメリカ軍の無条件撤収だ」と主張し、ことし5月までに開かれる見通しの米朝首脳会談を前に、従来の立場を改めて示しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180314/k10011364961000.html
「在韓米軍の撤収」と「朝鮮国連軍の解体」は別の要求である。
だとすれば、在韓米軍の撤収を主張しつつ、朝鮮国連軍の解体を落とし所にして平和協定を結ぶということもあるのかもしれない。まあ、それは門外漢の、なんの根拠もない、床屋政談の域を出ない雑談であるが。
ただ、それでも、ぼくらは「北朝鮮の無法」という一面だけでなく、あくまで「朝鮮戦争の継続」という構図の中でこの緊張に接しているのだということは忘れるべきではない。
日本が戦争に巻き込まれるかもしれないという正当な強調
そして、本書のもう一つの大事な問題提起は、日本が戦争に巻き込まれるかもしれないという側面の正当な強調である。
日本にとって朝鮮半島が「きびしい情勢」であるのはまちがいないでしょうが、その一方で、私たちにとってみれば、「朝鮮国連軍」を中心とした現在の対立構図を維持していくことは、アメリカの極東戦略や世界戦略に、日本が軍事的に否応なく巻きこまれていく危険性がつづくことを意味しています。(五味p.270-271)
このことを、五味は単に最近の情勢からだけではなく、日米間の密約などにさかのぼって解明している。
さらに、本書で大事な点は、朝鮮戦争における日本の協力の歴史を書いていることだ(本書第4章「朝鮮戦争と日本の戦争協力」)。その歴史の延長として、継続している朝鮮戦争への後方支援基地として現在も日本が存在し、密約によって戦時になればそこに参加してかざるをえないことが、本書によって平易にわかる。
非常に重要な解明だ。
なぜ、日本の左翼はこのような「構図」「絵図」をもっと示さないのか。
平和的解決をしなければ、甚大な犠牲が生じるということは、確かにぼくが恐れる最も危険なポイントであるし、それは右派・保守派を含めて合意せざるを得ないことだ。
しかし、朝鮮戦争の構図に立ち入って、日本がその兵站基地を担っている危険・有害性を暴露するのが左翼の役目ではなかろうか。
北朝鮮側に立っているかのように思われるのが怖いからか?
しかし、日米安保条約の最大の有害性は他のどこでもない、まさに今ここに現れているのであって、それを暴かなくてどうして日本の左派たり得るだろうか。
この点で、本書は非常に貴重な役割を果たしている。
今この時期にこそ読まれるべき1冊である。
余談2話
一つは、やっぱり『この世界の片隅に』。
ぼくは最初からその作品を読んだ・観た一人として、空襲というものの現実的危険について考え、声を上げざるを得ないと思っている。そのことは前の記事でも書いた。
http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170417/1492360721
http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170503/1493804521
そして「ユリイカ」で論考を書いたときも、『この世界の片隅に』を「反戦マンガ」「戦争マンガ」として捉える角度で寄稿した。
そういうものとして読まない人がいるのは勝手であるが、目の前で起きている戦争の危険や空襲の現実化の危機にあえて意識を鈍麻させ、現実と創作の想像力とを切り離し、できるだけその結合を「偏った」意見として排するつもりであるなら、一体『この世界の片隅に』を読み、観て涙したものは何であったのかとさえ問いたい。
もう一つは、空襲被害者救済法案の骨子素案が超党派でまとめられたこと。
空襲被害者救済、一時金法案の素案を了承 超党派議連
太平洋戦争中の民間戦災被害者の救済問題に取り組む超党派の国会議員連盟は27日、国会内で総会を開き、戦災による身体障害がある人に限り、50万円の一時金支給などを柱とする素案を了承した。各党で調整し、今国会で議員立法による提案をめざす。国はこれまで民間被害の救済に消極的で、実現すれば初の国費による給付となる。
https://www.asahi.com/articles/ASK4T73Y4K4TOIPE034.html
……1970〜80年代、旧社会党を中心に「戦時災害援護法案」が国会に14回提案されたが、すべて廃案になった。自民党を含む超党派での国会提案は初めて。各党内での手続きを経た上で、今国会に提案し、成立をめざす。
空襲の被害を救済することは、空襲の被害に向き合うことである。空襲を生み出す戦争という現実を「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」のもとに変えねばならない。条約を結び一方の兵站を担っているという現実を直視することに、それはつながる。