保育士のスト 「首都圏青年ユニオンニュースレター」を読む


 保育士がストライキをしているというコラムを、食い入るように読んでしまった。


 ぼくのもとに送られてくる「首都圏青年ユニオンニュースレター」は前にも紹介したことがあるが、あれ以来、ずっと楽しみに読んでいる。
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/newsletter.html

 その中にある、名城大学の蓑輪明子のコラムは最近のお気に入りの一つで、第1回目に紹介された都留民子『失業しても幸せでいられる国 フランスが教えてくれること』(日本機関紙出版センター)は実に興味を引かれたので買って読んでみると、いや実に面白かった。また別の機会に紹介したい。


 2017年8月26日付の196号では、福祉保育労という組合が全国で打った保育所・障害者施設でのストライキのことが載っている。
http://www.fukuho.info/2017-0309-101804.html
 蓑輪も現場に行き、初めてストライキする20代の女性保育士の思いをこう描いている。

この世代、ストをやったことも見たこともない人ばかり。ストに入ったという20代の女性保育士は、最初、ストって「ご飯食べない」「座り込み」で、そのやり方は時代遅れだと思ったそうだ。処遇改善といっても、もっとひどい生活の人もたくさんいる中で共感を得られないという思いも強かったという。

 日本では、ストライキという闘争戦術が、死んでいるのである(右図)。ストライキとはどんなもので、どんな役に立つのか、なぜどうしても必要なものなのか。そういうことがわからない、というか、話し合われないまま、眠っているのである。
 「わかったつもり」になっていた、ぼくにしても、ストライキは経営者に対する打撃であり、示威だろう、と思っていた。

…今回は、業務を止めて経営に打撃を与えるのではなく、処遇改善を訴えて事態を動かそうとするもの。だから、どの園でも保育の体制はちゃんと組むし、親にも事前説明して理解を得る。そういうやり方のストもあるとみんな初めて知ったのだそうだ。

 ぼくも「初めて知った」次第である。



 ぼくがこのコラムで一番心を動かされたくだりは、次のところ。

ストに入るにあたって、若い保育士たちが親に説明をしていくのは相当、ハードだったようだ。ある若い女性保育士は、ストが終わってはじめて「親*1に言うのが怖かった」と口にした。

 この不安は手に取るようにわかる。
 コラムを読むと、お昼寝時間にストを打った職場もあるし、子どもが減る夕方に打ったところもあるというが、そんなふうに理解を求めつつも、子どもの命と健康を預かり、なおかつ発達・成長を促す、という仕事を「罷業」する覚悟は、並大抵のものではなかっただろう。
 この不安は、不安のまま、しかし、親(保護者)たちの連帯の声によって、解消されていく。その様が、次のように活写されている。

が、親たちだって若い労働者だ。ストの当日に「がんばってね」と言われたり、翌日に「先生(ストを伝えるテレビを)見たよ、いつもありがとう」と言われたり。親だけでなく住民も応援した。ジュースを差し入れてくれたり、写メをとって「アップすりゃいいんでしょ」とSNSで宣伝してくれたり。地元メディアも味方となり、各新聞がストを報じ、複数の地元テレビ局が長尺で報道した。

 そこに、「親たちだって若い労働者だ」とあるように、違う立場にありながら、そこに労働者としての同じ光を見るという、まさしく「連帯」の基本によって、この不安が乗り越えられていったことがわかる。


 さらに、コラムでは、「処遇改善といっても、もっとひどい生活の人もたくさんいる中で共感を得られないという思いも強かったという」という意見・感情についても、議論の中で変わっていったことが短い文章で綴られている。具体的にどんな議論をきっかけにかわっていったのかは、コラムそのものを読んでほしい。


 保育士に限らず、自分の働き方に対して声を上げる、ということは「お客さんがどう思うだろうか」「他の人から見て、わがままだと思われないだろうか」という躊躇との闘いだといってもよい。
 そういうものが乗り越えられずに、声を押し殺してしまうことがほとんどだからだ。
 それを「ストライキ」という、最もラジカルで、劇的な方法によって、顕在化することは、一種の「劇薬」かもしれないが、その「劇薬」を使うことで、問題が表に出され、死んでいた闘争手段がよみがえり、連帯が広がっていく。声が出るようになるのである。だからここには、すべての働く人にとって極めて普遍的な問題が描かれている。もちろん、ぼくにとっても。
 ストライキに対する不安が乗り越えられていく中で、死んでいたストライキという闘争手段が、よみがえっていく様子が、理屈ではなく実感としてこのコラムから伝わってくる。

*1:保育園に子どもを預けている保護者のこと。引用者注。