本を出します 『“町内会”は義務ですか?』

“町内会”は義務ですか? ~コミュニティーと自由の実践~ (小学館新書)※このエントリは一定期間、ブログの一番上にもっていくようにします。

 小学館新書から、『“町内会”は義務ですか? 〜コミュニティーと自由の実践〜』という本を出すことになりました。


 これは、

義務や強制のない、自治会費ゼロの自治会をつくったよ - 紙屋研究所 義務や強制のない、自治会費ゼロの自治会をつくったよ - 紙屋研究所

をきっかけに編集の方から「書いてみませんか」と声をかけられて書いたものです。もちろん、このブログ記事の部分はごく一部分でしかなく、新書にするにあたって町内会・自治会全体に話を及ばせてあります。

 そこで、本書の「はじめに」の部分を本ブログに掲載させていただくことにしました。
http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784098252077

 また、下記の小学館のページにいけば、さらに目次・序章が読めます。
http://t.co/4dChubkIun


はじめに

 これをお読みのあなたは町内会に入っています。
 ……と言うと、びっくりされるかたがいるかもしれません。
 嘘ではありません。調査をすると9割近い人は町内会に入っていることになっているからです(本書第2章参照)。だから、「入っている」と断じて、まず間違いはないのです。
 「町内会」といってピンとこない人は「自治会」「区」「町会」という名称ならどうでしょう。本書は「町内会」で統一していますが、これらはすべて同じものです。
 逆に、こう書くと、「『町内会』を知らない人間なんているのか」「自分が町内会に入っていることにびっくりする人間がいるのか」などと、全然別の驚き方をされる人もいるかもしれません。そんな「非常識」な大人がいるのか、と。
 しかし、いるのです。町内会をよく知らないという人は、けっこうな割合で。



「町内会を知らない子どもたち」の皆さんへ

 この本をつくるにあたって、東京在住のアラフォー(40歳前後)編集者がまわりの同世代に、町内会について意見を聞いてみてくれたのですが、驚くべきことに「町内会って何ですか」「聞いたことはあるけど、よく知らない」という反応が多数でした。
 たしかに10代、20代の独身世代なら、こういう反応でも驚きはしません。
 しかし、配偶者も子どももいるような世代でこの反応はないだろ、というのが率直な私の感想でした。
 ところが、これを編集者周辺の「異常な特殊事情」とも切り捨てられないと思うようになりました。

 というのは、本書を書くために様々なデータをあたっている中で、町内会へ加入していることを意識しているのは2割台にすぎない、という衝撃的なデータを見たからです(本書第2章参照)。
 ということは、町内会というものを知らない、下手をすると見たことも聞いたこともない層、「町内会を知らない子どもたち」が膨大にいる、と考えねばなりません。まず本書をそんな人たちに読んでいただきたいと考えています。
 「町内会って何?」と言ってはばからない、知らないにもほどがある、大多数の皆さんのために、町内会について「10秒でわかる解説」をしておきましょう。
 町内会とは、防災・防犯・掃除・祭り・見守り・リサイクルなど、その地域のいろんな身近な問題を、住民自身が動いて解決する組織だとされています。また、その地域の住民の意見を代表する組織だということにもなっています。だから、地域ごとに1つだけつくられて、その地域に住む人たちは、みんな入ることになっています。建前としてはマンションもアパートも単身者も例外ではありません(本書第1章参照)。
 みんな入る国民的組織という建前なのに、実際は2割しか自分が入っているという意識がないって、奇妙だと思いませんか。
 本書はまずそんな人たちのために、「町内会ってこんなものですよ」という案内の役目を果たします。
 といっても、行政が出しているような「ガイドブック」ではありません。タイトルを見てもらえばすでにわかりますが、行政や町内会側が出すような「こんなに大事で、すばらしいところですよ」という面だけではなく、町内会のダークサイド、暗黒面についてもお伝えしています。そこには、私自身が体験した「町内会活動でひどい目にあったこと」も含まれています。いわばルポルタージュとしても読んでいただきたいのです。
 本当に町内会がどんなものだか見当もつかないという人は、本書の第1章43ページのところから読んでいただくとよいかもしれません。

ブラック企業、ママ友……コミュニティーと自由の問題

 本書は自治会の話ですが、もう少し広く考えると、「コミュニティーと自由」の問題でもあります。
 たとえば、保育園・幼稚園・小学校のママ友グループがあります。ママ友同士が情報を交換したり、ときには子どもを預けあったり、交流したりする居場所ともなる貴重な存在です。他方で、お互いの空気を読み合う場となって、緊張や対立が生じることがあります。ランチやイベントにいっしょに行かない、1人だけ同調しないという理由で、排除されたり、何となく冷たくされたり……その気疲れで心を病んでしまうケースもあります。
 あるいは会社。本来、企業と労働者は、やるべき仕事・働くべき時間が労働契約に定められており、それさえこなせばよいというドライな関係のはずです。ところが、日本の企業の中には、あたかも会社が一つの家族のようなものとしてとらえられ、目標をやりとげるために生活や、大げさにいうと思想・考え方までが丸ごと管理されたりするケースも少なくありません。こういう管理や統制が高じると「ブラック企業」ということになります。「残業はせずに帰ります」「休日は出勤できません」とドライに言えない関係に巻き込まれて、体や心を病んでしまう人たちもいます。
 生活をより快適にするはずのコミュニティーや組織の中で、私たちは自分の自由を確保する術を持っておかないと、逆にそれらに喰い殺されてしまいます。
 他方で、コミュニティーや組織の負の側面を恐れるあまり、そこから完全に遠ざかってしまえば、今度は逆の苦労を背負い込みかねません。たとえば、企業に入らずに自分で起業することで、あなたは上司に従わない自由を得られますが、かわりに自分で取引先をゼロから開拓し、下げたくもない頭をたくさん下げて回ることになるかもしれません。社会保険のような福利厚生も少なくともいったんは大きく切り下がる場合が多いでしょう。
 コミュニティーや組織に飛び込みながら、自分の自由を確保し、コミュニティーや組織をうまく活用する――そうした方法が得られないでしょうか。本書をそのような「コミュニティーと自由」の関係をどう考えるかという本として読んでいただくのも面白いのではないかと思います。
 もちろん、ママ友と町内会は違いますし、企業と町内会は違います。ここに書いてあることがそのまま他のことに通用するものではありません。しかし、結論めいたことを先に書いておけば、コミュニティーの繋がりや関わりの強度を、従来よりもかなり思い切って下げたものにしなければならない時代になっている、という点では共通したものが見出せると思います。

町内会には入っているけど、面倒くさいなと思っているかたへ

 次に、「町内会には入っているけど、何となく面倒くさいな、できれば逃れたいな」と思っている人。あなたにも本書を読んでもらいたいと思っています。
 たとえば、「町内会は強制加入が当たり前」「町内会で防犯灯(街灯)の管理維持をやるのは当たり前」と思われています。町内会役員にそんなふうに言われたことがあるでしょう。しかし、本書を読んでいただければ、実はそんなことはないことはわかります(本書序章、終章参照)。
 本書は全国の町内会の例や歴史をお示しすることで、あなたの町内会で「当たり前だ」と言われてきたことをひっくり返してみせる爽快感をお約束します。
 加えて、ちょっとした改革の方向もお示ししました(第3章、第4章)。そして実は、何よりもこの本を読んで、町内会との距離のとり方・つき合い方を考えていただき、そのことによって、町内会からまったく逃避するのではなく、町内会に関わってもいいかなと少しでも思ってもらえれば、そちらの方が私の望みでもあります。

町内会活動を熱心にされている方へ

 最後に、町内会活動をすでに一生懸命やっていらっしゃるあなた。あなたにも、ぜひ本書を読んでいただきたいと思っています。
 世の中には、町内会やコミュニティーの役割を強調する本がたくさん出ています。「こんなふうにやったら町内会がうまくいった」という実践成功例もたくさん出ています。特に東日本大震災以後、「絆」とか「コミュニティー」がやたらと持ち上げられ、町内会関連の研修会などに出るたびにそう言われてきたのではないでしょうか。
 しかし、自分の足元をみると、そんな成功例とは裏腹に、加入は減り、高齢化がすすむ一方。役員などの担い手は固定化。どんどん活動がきつくなり、「成功例はわかったけど、それ、うちの町内会でいったら、誰がやるんだ? オレ?」と心中、不安を抱えているのではありませんか。
 そうした方々に本書を読んで、「こんな町内会もあるのか」「町内会というイメージを窮屈に考えすぎていた」と思っていただければ幸いです。
 また、成功して躍進している町内会のかたからは、真摯な批判や感想をぜひいただきたいと願っています。

私のスペック

 遅れましたが、私のスペックを書いておきます。
 私は1970年生まれで、町内会に関わりはじめたのは30代から。引っ越し先の地方都市・H市においてでした。連れあいと娘の3人家族で、ふだんは雇われて働き、給料をもらう生活をしていますが、余技にマンガ評論をやっています。ときどき本書でもマンガの作品を紹介しているのはそのためです。
 私はいわゆる「9時5時」(午前9時に出勤し午後5時に退勤)の、育児にある程度配慮してもらった就業形態。連れあいの方が夜8時、9時まで働く「主たる家計支持者」、つまり稼ぎ頭で、私が毎晩の家事をやっています。町内会はもとより、保育園の保護者会、学校のPTAなどはもっぱら私の仕事。「そういうことはお前にまかせているだろう」ってやつです。
 本書は、そんな私が、町内会についてほとんど何もしらないまま、いきなり町内会の会長になり、その体験と実践をつうじて考えた町内会論、ひいてはコミュニティーと自由についてのささやかな小論になっています。
 なお、本書の中の私の体験については、プライバシーなどの配慮から、氏名・名称などを一部変更していること、そして本稿は私の所属する町内会・職場の見解を代表するものではないことを、あらかじめおことわりしておきます。
 では、ごゆっくり本書をお楽しみください。


2014年8月31日 紙屋高雪


参考