アベノミクスがにわかに注目されだして、すでに半年近くがたちます。しかし、ぼくは、原発事故のときに原発や放射能について何も知らなかったのと同じで、金融や金融政策についてほとんどドシロートの状況からこの問題に直面することになりました。
ぼくの周りのサヨクのみなさんも、まあ似たりよったりです。
ぼくのようなシロウトがリフレ、つまり人為的にインフレを起こすという政策を聞いたときに、真っ先に思うことは、「物価をあげても給料や所得が上がらないとダメだと思うんだけど、それはどういう回路で実現されるんだろうか?」ということじゃないでしょうか。
そして、インフレといえば、頭にふっと浮かぶのは、ドイツやジンバブエのようなハイパー・インフレ、お金の価値がどんどん下がって、ついには紙幣は紙くずのようになる、アレです。紙幣をたくさん刷ればすぐできると思うんだけど、それはやらないのかな……こういう思いもよぎりました。実際安倍首相は、政権交代前の演説で、「輪転機をぐるぐる回してお札を無制限に刷る」みたいなことを言っていたわけですし。
そこで、アベノミクスを批判するとか礼賛するとかいう角度はおいといて、とりあえず、リフレとはどんな政策なのかを理解したいと思いました。
そこで、本屋に並んでいるアベノミクス本・反アベノミクス本をシロートであるぼくが読んでみて、どれくらいわかりやすいかを見てみました。今後、数回、記事を書いて、感想を垂れ流します。
そのさいに判断基準にしたのは、まず、アベノミクスの第一の矢である金融緩和について、どれくらいわかりやすく書いているのか、ということ。そもそも金融緩和というのは、何をしようとしているのかよくわからないからです。
次に、どういう理屈で経済が上向いていくか、そこを庶民・シロートにも説得的かつわかりやすく書いているのかどうか。反アベノミクス本の場合は、そこをどれくらい説得的に批判できているのか、ということ。
とくに、「賃金が上がらないと経済など上向かないではないか」という理屈に対して、それぞれの本がどんなふうに考えているのかを、見てみました。
森永卓郎「金融緩和をどう考えるのか」
はじめは、森永卓郎です。
それ、本じゃねーじゃん、っていうツッコミは禁止ね。
共産党や社民党の支持者が多い憲法擁護運動のなかで、こういうアベノミクス礼賛をするというのはなかなか大胆なことだというべきでしょう。
庶民にとっては、賃金が上がり、就職もしやすくなる緩やかなインフレを目指したほうが、明らかに有利であるはずなのに、なぜ庶民の意見を代弁するはずの左派政党が、インフレターゲットに反対するのだろうか。
http://www.magazine9.jp/morinaga/121212/
なぜ人為的にインフレを起こすのか、という理由を2点にまとめています。一つは、円安で輸出を応援し、空洞化を止めること。もう一つは、インフレの期待を起こすこと。前者の理屈はわかりやすいと思いますが、わかりにくいのは後者ですね。そこを森永はどう説明しているでしょうか。
これから国内の物価が上昇するという期待が高まると、建築費や設備費がまだ安く、金利も低いうちに投資をしておこうとする人が増えて、設備投資が増える。
http://www.magazine9.jp/morinaga/121212/
うーん。ここですね。ここはシロートにはとってもわかりにくい。
この説明でわかりにくいのは、物価が上昇するということと、金利が高くなることの関係でしょう。他のアベノミクス本などを見ると、アベノミクスで金利が高くなると書いてあるものもあるし、金利は高くならないと書いてあるものもあって、ちんぷんかんぷんです。*1
インフレはお金がダブついて、お金の価値が下がっている状態なので、お金は余っているはず。だとすれば、お金なんてすぐに手に入るから、お金の値段ともいうべき金利は下がっていくよね、高い値段(高い金利)をつけてまでお金をほしがる人は少ないはず……とまずは考えます。えーと、でもお金という商品も同じようにインフレになっていけば、その値段(金利)も一応上がっていくから、高くなるのかなあ……とわけがわからない。
ここは細かく考えると実質金利と名目金利の違いという話です。でもまあ、ここでは書きません。森永の説明は難しいなあということだけ押さえておきましょう。
この問題は、住宅投資で考えると、もっと分かりやすいかもしれない。インフレターゲットが導入されたら、国民はどう思うだろうか。インフレになれば、当然住宅価格が上がる。だから、住宅価格が安くて、金利も低いいまのうちに住宅を買おうという人が増えるだろう。
http://www.magazine9.jp/morinaga/121212/
インフレってたしか物価が上がることだから、物価の安いうちに買っておこう、ってことだろうか……? というくらいは推測できるわけですが、そこに金利というものが入ってくるとさっぱりわからなくなります。
経済が上向いていく理屈を説明しているところが、森永のこの文章では2ヶ所あります。
このように金融緩和は、輸出と投資を増やす。つまり需要が増えるから、生産が増え、当然雇用も増えていく。経済学の教科書には、フィリップスカーブという法則がのっている。物価上昇率と失業率は反比例(正確に言うと逆相関)の関係があるのだ。しかも、日本のデフレ経済が明らかにしたことは、物価上昇率が1%を下回ると劇的に失業率が上昇するという事実だった。だから、物価上昇率を2%以上に誘導できれば、失業率が大きく下がる。そうなれば、リストラのリスクが減り、賃金が上がっていく。
http://www.magazine9.jp/morinaga/121212/
よく、金融緩和を目的に日銀が資金供給をしても、銀行が日銀に預けている当座預金の額が増えるだけで、融資へと資金が回らず、効果がないと主張する人がいる。供給した資金がブタ積み(無利子の日銀当座預金に、銀行が無駄に資金を積んでおくこと)になるだけだというのだ。しかし、そのブタ積みこそが重要なのだ。ブタ積みが増えると、期待インフレ率が上昇することは計量分析で実証されている。期待インフレ率が上がれば、実質金利が下落して、企業の投資判断が変わる。もちろん少しタイムラグはあるものの、金融緩和は確実に設備投資を増やすのだ。
http://www.magazine9.jp/morinaga/121212/
「金融緩和は、輸出と投資を増やす。つまり需要が増えるから、生産が増え、当然雇用も増えていく」というのが、共通した理屈です。ここは大事なところですけど、この理屈に反論したい人たちは、「じゃあ、今まで金融緩和をしてきてもどうしてそうならなかったんだろう?」と思うわけです。
その説明はあまりありません。
リフレ派にとって一番肝心なことは、デフレを止めるにはインフレにするしかなく、それは通貨の操作によって基本的にはできるという点のはずです。森永の文章には、その強調はありますが、そこにすべて収斂させていないので、フィリップス曲線だとか期待インフレ率・実質金利といった「難しい」ことを使わざるをえなくなっています。
デフレを止めないといけない、というのは、ほとんどの立場の人が一致しています。それがなぜ貨幣現象であるインフレを起こすことでしか達成できず、賃金や所得の上昇から始めてはダメなのか、という問いには答えていません。
結局、森永のこの説明では、少なくとも初心者が金融緩和の「よさ」を理解するには、不親切な部分が多いのです。不向きですね。
まあ、この分量でそれをやれっていう方が無理なのかもしれません。
アベノミクスでの儲け方を説く森永
先日「BIG tomorrow」(2013年6月号)を読んでいたら、「森永卓郎のアベノミクス儲けの方程式」という「短期集中連載」が出ていました。ここで森永は、「いまからでもアベノミクスで儲けるには?」と題して、「儲けのチャンス1 家を買うならいま!」「儲けのチャンス2 Jリート、株を仕込もう!」と書いていました。*2
その記事の最後には、「ますます貧富の差が開く!」「2年後にはますます弱肉強食の社会に!」とありました。
マガジン9の文章ではもう少し控えめに、リフレ政策の副作用として書かれていました。「BIG tomorrow」記事では結局格差や貧困は広がらざるをえない、ともっと踏み込んで書いているのですね。
多くの人は、おそらく株が高くなって、企業なんかはモウケがふえるんだろうなとは思っているはずです。でもその「おこぼれ」が果たして庶民のところにまで回ってくるのかと思いながら見つめているはずです。
「所得増えない」69% アベノミクス期待深まらず 憲法改正の発議要件緩和は賛否逆転 共同通信世論調査 : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)
デフレのままでは経済が沈没してしまう、という危機感はわかるのですが、じゃあ、アベノミクスをやったとしてそれがどうしたら労働者や国民のところにまで回ってくるのか、そのあたりを説明してほしいんですよね。