『このマンガがすごい! 2010』のアンケートに答えました

 今年もやってきましたこの季節。今回も『このマンガがすごい!』のアンケート回答を務めさせていただきました。

 

 今回はかなり満足です。
 ランキングに満足というより、自分のした回答が、という意味です。この回答の仕方についての逡巡を以前書いたことがありますが、(1)みんなのランキング1位のものを挙げてしまうと何となくショボーンとしてしまう、という基準にくわえ、(2)できれば「みんながあまり知らないけども知っている人は知っている」というような5〜20位くらいのものと、(3)「みんながほとんど知らないけども知っている人は知っている」20位以下のものと、(4)自分だけしかあげないような1作がほどよくミックスされているととても嬉しいですね。
 で、今回それに近い構成になったのわけです。アンケート回答者としての任務を果たしたな、という思いがこみ上げてくるのです(笑)。

 あ、もちろん、これは結果としてランキングと一致しているときの話であって、こういう構成で選ぶつもりはさらさらありません。

 自分のなかであらかじめ課しているのは、毎回自分の好きな作家をあげていたり、超大御所をあげるのは、やはり毎年の話題性を考えるとよくないと思うので、1度あげた作家や漫画作品、大御所の漫画は自分のなかで優先順位を下げるようにしています。それでも過去にこうした作品をぼくは上位にもってくることがあったので、だからこそ意識しておいてナンボだろうと思います。

 さて、『このマンガがすごい!』は編集方針が大きく変わったようで、オトコ版・オンナ版両方に回答できなくなり、回答者が少なそうなオンナ版に回ることになりました。オトコ版に加われなかったのは残念です。

 すでに「漫棚通信ブログ版」で違和感が表明されていますが、得点集計方式も大きく変わった(漫画を日常的にかなりヘヴィーに読み込んでいる人の意見の比重は大きいままであるが、しかしそれ以外の一般読者からの意見も軽い比重で折り込むという方式)ために、従来評価が小さかった少年誌の有名漫画が上位に食い込んできました。ただし1位は集計方式の変更にかかわりなく上位に食い込んできたはずのものです。

 

『このマンガがすごい!』がちょっと納得いかない件について - 漫棚通信ブログ版

 

 ぼくはこの集計方式はかなり上手く考えたな、と思いました。
 この種のムックがたえず揺れるところは「一般読者」と「コアな漫画通」との間でであり、両者の意識や知識状況があまりに隔絶していることが大きな原因です。商業的には後者が強く意識されてきたのが、これまでのところでしょう。
 このことについては以前ふれたことがあります。

『このマンガを読め! 2006』感想 - 紙屋研究所

 

 この間、学生のみなさんとなぜか漫画について交流する機会が増えているのですが、「漫画を読むのが好きだ」という学生に「どんな漫画読むの?」とか聞いてみるとONE PIECE』を挙げる人がもう圧倒的ですね。ぼくが『バクマン』は? とか『いぬまるだしっ』は? とか聞いてみても色よい返事はありません。

 そういう学生たちに「紙屋さんはどんな漫画が好きですか?」と聞かれるわけですが、「志村貴子の『放浪息子』ですよ」とでも答えようものなら「はあ…」、会話終了。てなもんですよ。
 妥協して『おおきく振りかぶって』とでも答えようものなら、「なんすかそれ」ですわあ。

 そしてこうした隔絶以上に重大な問題があります。

 それはこの種のランキングで少年・少女誌と幼年誌の漫画がどうしても弱くなるということです。選者がオトナばかりであった、という単純な理由によってそうなっていると言えるでしょう。

 漫画が子どものものであったという戦後の出自や現在でもかなりの大きな比重をしめている、ということからしても、重大な欠陥であろうと思います。

 「知られざる佳作」というのは、ジャンルが無数に分岐している「大人向け漫画」でこそ存在すると思うのですが、少年・少女誌や幼年誌にはなかなか存在しにくいように思います。いきおい「人気投票」という側面だけになってしまうのですが、それはそれでやむを得ない気がします。少年・少女誌や幼年誌の「知られざる佳作」を反映するうまい集計システムがあれば、さらに改良を加えていけばいいのかなあと思いました。

 ちなみに回答できなかったオトコ版で、ぼくの今年のランクを発表しておけば次のようになるでしょう。

 

  1. こうの史代この世界の片隅に』(双葉社
  2. 佐々木倫子『チャンネルはそのまま!』(小学館
  3. 久保ミツロウモテキ』(講談社
  4. 高橋慶太郎ヨルムンガンド』(小学館
  5. きづきあきら・サトウナンキ『うそつきパラドクス』(白泉社