朔ユキ蔵『セルフ』

〈この年齢〔3〜4歳——引用者注〕の自慰(オナニー)は指しゃぶりとまったくおなじにかんがえればよい。指しゃぶりにたいして、気にせずにおきなさいというのには、母親は納得する。しかし、自慰にかんしては、いくら気にしなさるなといっても、母親は容易に納得しない。ことセックスにかんすると、おとなは平静でありえないようだ。だが、この年齢の自慰は、おとなのいうセックスとは無関係なのだ。それが容易に理解できないのは、子どものやっているのは自慰だと知ったときのショックが大きかったからであろう。
 女の子のほうがはるかによくやる。はじめ、ふとんのなかで両脚をくみあわせて、力を入れて、まっかな顔をしているときは、母親は何のことかわからぬ。だが、腰をうごかしていたりすると、何であるかわかる。また、人のいない部屋で椅子の角の部分に、前を押しつけて、息をとめてまっかな顔をしているのをみつけると、自慰だとわかる。子どもが自慰をしている、それもこんな小さな子がやっていると知ったとき、母親は非常なショックをうける。子どものからだに害になるのではないか。頭がわるくならないか。変態者になるのではないか。いろいろなかんがえが一度におこってきて、子どもをひどくしかりつける。

 しかし、自慰は幼児によっては、指しゃぶりとかわらない。それが性的であるとしたら、指しゃぶりが性的である(フロイト流のかんがえかただと口唇は性的地帯)のとおなじ程度である。どちらも、子どもに適当なエネルギー発散の場が与えられていないためにおこったものである。どちらも、子どもが友人とあそんだり、戸外で元気よくあそぶようになれば、いつのまにか自然になおってしまう。どちらも将来に何の害ものこさない〉(松田道雄『定本 育児の百科(下)p.263〜265)

 

 今回紹介する『セルフ』の登場人物が叫ぶ「女のコは…オナニーなんかしないもん」というセリフとはうらはらに、女性をふくめ、自慰は人生にとってそれほどなじみが深いものである。

 

 ぼく自身も——と自分語りに入る。ぼくの顔もしらない人はともかく、ぼくをよく知っている人は〈奈緒ちゃんの乳首の色なんて 知りたくなかったよ……〉(秋山『オクターヴ』)なんてことにならないように、この時点で撤収をおすすめしておこう。

 さて。

 

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