犬上すくね『恋愛ディストーション』

 

 

 

 稚野鳥子をOLの妄想だと書いたり、花田祐美をOL版『BOYS BE…』だと書いたりしたが、もちろん悪意をもっているわけじゃない。そこに書いたとおり、イイと思っているから買ったんだし、読んだんだ。点数は少し辛いけど。

 そういう妄想や萌えツボのようなものと、自分が無縁かのように書いているけど、ぼく自身は、じつは自分のそういう部分といじりまわすのが大好きなのだ。

 その一つが、このマンガだろうと思う。
 たぶん、20代から30代前半までの、あるタイプ、そうだな、「サブカル的なオタクの周辺」をうろつく男性にとっての、いたれりつくせりのツボをならべまくった作品だと思う。

 「ディストーション」というのは、ゆがみ。
 恋愛における、きわめて特殊なゆがんだ「嗜好」というものを、並べてみたという意味にとれるタイトル。



 なんだか、こんなふうに書くと、ものすごくあやしいマンガのように聞こえるが、2組のカップルの恋愛を軸にしたエピソードをならべている、一見するとごく普通のラブコメなのだ。
 しかし、たとえば、「相手の女の子のメガネを外す」とか「犬として扱われたい(男が)」とか、そんなゆがんだ小さな欲望が随所にちりばめられている。しかもストーリーの中で恋愛を破たんさせるような波風はほとんどたたない。ただただ、甘ったるい、イチャイチャした恋愛がつづいている。しかし、そういうマンガを渇望している男性が多いのもまた事実なのだ。ぼくもそうであるように。

「ぼくのことを好きな女の子が、ぼくに一番効く方法でぼくを元気づけてくれる。それだけでもう人生は おおむねオッケーだ」

は、この漫画家のファンの欲望のツボを集約的に表現した名セリフ。
(※厳密にはこれは「ワーキングゾンビ」という別作品のセリフだが)

 ぼくは、絶対にこのマンガの作者は男だろうと思っていた。
 ところが、わがヨメは、絶対に女だという。
 そして、どうも女らしいのである。
 女性がこれだけ男性の欲望を表現できることは、驚嘆すべきことだと思う。

 2巻の冒頭に、女性の側から、スキンをつけないで1度だけエッチすることを要求してみるという話があって、ということは、毎回きちんとスキンをつけることが当然の前提になっているわけで、その前提は当たり前の話なんだが、世の男性諸子はこういうことをしない乱暴な輩も多い。
 こういう細やかさをみると、やっぱり女性なのかなというふうに思わないでもないのだが。

 少年画報社の「アワーズ・ライト」に連載していたが、雑誌が休刊になってしまったという悲劇に見舞われている。どこか拾って続けてくれないものかと思う。

 各話のタイトルは、すべて作者好みのアーティストの曲名のパロディかパクリ。
 この作者は『エヴァ』の同人誌的作品も書いているけど、こういう正典をパクる文化のなかに、この人がサブカルの正統な流れに属していることをみてしまうのである