Fukuoka Higashi? それとも Fukuoka East?

 前から小さく気になっていたことであるが、例えば「樋井川」という河川を英語で表現するさいには「Hii-River」なのか「Hiigawa-River」なのか。

 当然「Hii-River」だろうと思っていたが、標示板を見るとそうでもない。

 ぼくが日常的に見て気になっていたのは、交差点の英語表記である。

 「福岡東交差点」を表すとき「Fukuoka Higashi INTERSECTION」とするのか「Fukuoka East INTERSECTION」にするのか。もっと言えば「Fukuokahigashi INTERSECTION」という表記もありうる。

 「福岡東」という地名はない。一般的には「福岡の東部分」という意味になる。しかし、交差点になってしまうと、「福岡東交差点」という固有名詞としての交差点名はありうる。

 福岡市の中で注意深く見てみると、どういう法則なのかよくわからないのである。

 例えば福岡市中央区のこちらの交差点。

 これは東西に走る道路に設置された標示である。

 ところが同じ交差点の南北に走る道路に設置された標示はどうか。

 このように同じ交差点でも、「Tojinmachinishi」と「Tjinmachi Nishi」という表記の違いがある。東西の道路には「INTERSECTION」がないので、設置時期が違うのだろう。

 

 福岡市西区北原にある交差点は、「北原西交差点」の場合「Kitabarunishi」である。

最初「Kitahara」と表記してしまったらしく「Kitabaru」に修正されている。

 ところが、「北原東交差点」は「Kitabaru East」なのである。

 

 「北原西」と「北原東」の交差点は500mくらい離れているだけだ。どうしてこういう違いが出ているのかはわからない。ぼくが見た限りでは、「北原東」の方が標識としては少しだけ新しい気がする。これもやはり設置時期が違うのだろう。

 

 福岡市西区にあるマリナタウンの近くの交差点は「Marina Town South INTERSECTION」であった。まさか「Marinataunminami」のような状況ではないとは思ったが…。

 そして、同じく福岡市西区にある「さいとぴあ」という公共施設の近くの交差点はやはり「SAITOPIA East INTERSECTION」だった。

 うーむ、たぶん施設名が英語っぽい感じのものは「Higashi」にせず「East」にするんだろう、もともとの地名の後には「East」ではなく「Higashi」にする——こういう法則ではないのか、と予測をしてみた。

 すると…

 伊藤野枝が生まれ育ったあたりの福岡市西区の海岸近く。ここは「Ikinobatsubara East INTERSECTION」なのだ。予想が外れた。

 この標示は全国統一だから全国的な基準があるんじゃないかと思ったのだが、福岡市のホームページをみると、福岡市の努力で表記を変えているようだった。例えば以下は福岡市中央の表記変更である。「koen」を「Park」にしている。

 

  福岡市だけではないのだが、「観光立国」政策の一環として、標示板などの外国語表記をどうするかは、自治体ごとにマニュアルが作られている。

https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/2341/1/shinnfukuokasigaikokugohyoukitebiki2.pdf?20230911094511

 福岡市のマニュアルでは4ページ目にその原則を載せている。

 固有名詞の場合、原則はローマ字表記だけど、外国語由来のものは英語表記にしている。

 例えば「福岡」は「Fukuoka」だけど、「リンカーン」は「Loncoln」だ。

 普通名詞は逆に原則英語表記となる。例えば「本」は「book」となる。

 ところが、固有名詞+普通名詞の場合はどうか。例えば「福岡タワー」などである。その場合は「原則として固有名詞部分をローマ字により表音表記し、普通名詞部分を英語で表記」するという。つまり「Fukuoka Tower」である。「福岡市」も「Fukuoka City」となる。

 「楽水園」は「Rakusuien Garden」となる。

通名詞部分を切り離してしまうと、それ以外の部分だけでは意味をなさない場合や、普通名詞部分を含めた全体が、不可分の固有名詞として広く認識されている場合には、全体のローマ字表記の後に普通名詞部分を英語で表記します。

ということのようである。

 

 さて、交差点はと言えば…あった! 10ページである。

交差点名に含まれる東、西、南、北、中央は、地名として捉えるとき「-」でつないでローマ字表記し、方向を示すときは英語「East、West、South、North、Central」で表記します。

 例示がある。

  • 渡辺通北交差点 Watanabe-dori-kita Intersection  
  • 天神南駅交差点 Tenjin-minami Sta. Intersection  
  • きらめき通り中央 Kirameki-dori Central Intersection  
  • 福岡市役所西 Fukuoka City Hall West Intersection  

 なるほど! 地名と方向の違いか! …といったものの、だからといって「生の松原東」が地名ではなく、「生の松原に対して東」という方向なんですかという疑問は消えない。全然違うはずだ。

 たぶんあの標示はこの原則から外れているんだ、と思うしかない。

 

 ちなみに河川もある。(11ページ)

 普通は「御笠川 Mikasa River」のように表記するらしい。

 しかし、

地名(住所、駅名等)と同じ名称であるものや、慣用上、固有名詞部分と普通名詞部分を切り離せないと判断できるもの等は、普通名詞部分を含めて、ローマ字で表記し、「River」をつけます。

薬院新川 Yakuin Shinkawa River

ということらしい。

 しかし、「薬院新—川」とは確かに切り離せないだろうけど、「樋井川」は明らかにこの原則と違う。それは、まあ、たぶん県がかなり昔に作った標示なので、この原則と違うんだろうなと思うしかなかった。

 そして「Tojinmachinishi」と「Tjinmachi Nishi」、そして「Kitabarunishi」と「Kitabaru East」問題は全く解明されていない。