宮部サチ『友達100人切れるかな』1

 ぼくはこれまでの人生の中で絶交した「友人」が2人ほどいる。

 そのうちの1人は会うたびにぼくを激しくいらだたせたり、挑発するようなことを言ってくる人で、会った後あまりに悔しくて独りで号泣したこともある。

 つれあいにそのことを話したら、せんべいを食べつつテレビの画面を見ながら

「それはさー、その人、あんたに嫉妬してんじゃないの?」

とこともなげに言った。

 そうか。そうなのか。

 本当かどうかはわからないんけども、励まされた気がした。

 そして、絶交することにした。

 

 本作はタイトルのとおり、ネガティブな人間関係に焦点をあて、その清算を2話完結の方式で語っていく物語である。さまざまな人間関係の悩みをかかえた相談者が「人間関係研究所」の「人間関係研究家」有馬亜土を訪ねるのだ。(この設定にはほとんど凝った部分やギミックがない。主張を解説させるだけのすがすがしいまでの道具キャラである。)

 

友達100人切れるかな 1巻: バンチコミックス
 

 

 冒頭の「マウンティング女子」は、自分より格下だと思って自分の引き立て役のように自分の近くに置いていた人物が実は自分よりも「上」であると感じさせられる事実に次第に接するようになり、毒を吐いたり絡んだりする話である。

 ぼくの場合、ぼくが能力的に格下だと思われていたのではなく、ぼくが恋愛や家庭において不幸な道を歩んでいると思われていたようで、しかし実際には幸福そうであったために激しく嫉妬されたのではないかというのがつれあいの見立てだった。

最後にひとつだけ

毒になる関係は いずれ自分を壊します

自分を大切にしないと

あなた 壊れますよ

(本書p.20)

 

 今の世の中、人間関係はむしろ主体的に選択できそうな時代のように思われている。それで「気に入った人しか関係しない」ことの病理のほうがクローズアップされているような気がする。

 だけど、本当にそうならこれだけPTAだの町内会だので苦労する人がいるものだろうか。気に入らない人間関係に耐えて同調圧力につぶされそうになっている人の方が多かろう。

 政治にかかわっているとつい顔を広くもつことがホメられるので、「気に入った人としか関係しない」というあり方はなんとなくうしろぐらい。

 だけど、絶交してみて本当にすっきりした。もうだいぶ昔のことだけど。

 そういうことが思い出された。

 

 本作1巻は必ずしも「切る」話だけではない。

 1巻の最終エピソードにあるように、関係を見つめなおす話も出てくる。

 ちょっとベタではあるけども、ネガティブな人間関係を見つめてみたい誘惑にかられて本作を読んでいる。