女性マンガ誌の編集者に関するつれあいの予言


 娘といっしょに家に帰ると、つれあいがコタツにすわって、パソコンのモニターを眺めながら涙を流している。


 びっくりした。
 あの、つれあいが、ですよ。眉一つ動かさずにイノシシを屠るかもしれない、と噂されたうちのつれあいがですよ。滂沱と涙を流しているっていうんじゃあ、ただごとじゃない、ってことにここで気づくわけです。


 「どうしたの」、なーんて、気のきかないにも程がある質問を、震えながら口にすると、「ちょっと」。「『ちょっと』、って何」と追いかけないわけにはいかないじゃないですか。ここは。泣いている女を前にして。そこは。スルーする、ってわけには。


 「ちょっと、はつげんこまち、読んでた」


 仰天した。その瞬間何が起こったのか、全然わからなかった。
 は・TSU・ゲ・ん・コ・MA……?
 それが「発言小町」だと、ぼくの脳内で字影を結ぶまで、どれだけ長い時間が流れたことか。
 そう。あの、読売新聞の、人生相談的な投稿サイトで、真剣な相談2割、釣り4割、と環境省の調査でも公表されている、あの「発言小町」である。


 あんなもん読んで泣くやつがいるんだあとフーッと遠い気持ちになった、その次の瞬間、それが自分のカミさんだと気づいたときの間抜け具合ったら。ネットアイドルのオフ会を生暖かく報道する「ワールド・ビジネス・サテライト」を笑いながら観ていたら、その10人ほどのパイプ椅子観客席の最前列に自分の父親の姿を見つけてしまったときに似た感覚だろうな。そんなことに幸い遭遇してないけど。


 それにしても、恐るべしは「発言小町」である。
 アレ読むの無料です。タダです。ロハ。
 そして、それを書いたのは、シロウトさんですよ、シロウト。トーシロ。
 それに泣いているんですよ。
 どんだけ安いんですか。
 うちのつれあいっていうのは、四六時中ミステリーばっかり読んで「これはつまらんわー」とか「これはなかなかイケる」とか偉そうに言っているわけですよ。まるで、ブログやツイッター使って、お前は神かっていうほど上から目線の下らない寸評もどきを書いている自称・漫画評論家みたいなふうで。かみやなんとかみたいな感じで。
 そんな彼女が泣いているんです。
 どんなコンテンツですか。
 スティーヴン・キングですか。
 スピルバーグですか。


 たぶん、そういう小説や映画を読んだり観たりしていても、つれあいは泣いてない。断言できる。それが今、「発言小町」を読んで泣いている、と。うちのつれあいの日常会話には、このところ「発言小町」からの引用が増えてきて、仮面ライダーオーズとかからの名言の引用ばかりしている炎尾燃のアシスタントみたいになってきていて、内心だいじょうぶかな、ヤバいな、と秘かに思っていたところだった。こんなもん引用して会話した日には、2ちゃんのまとめサイトをソースに会話する人間と同じ扱いですよ。かみやなんとかも会話の1割くらいはソースにしているらしいですが、1割なら許せるってもんじゃないでしょうか。まあ、最近は天下の国会において堂々とまとめサイトソースで質問される代議士の方もいらっしゃるといいますから、あまり気にするほどではないとは思いますが。
 それにしても、それを見て泣いているわけですよ。
 ってことはですよ、ってことはですよ、いいですか。


 スピルバーグ < 発言小町

ってことです。すごくないですか。もうね。はっきりいいましょう。
 映画という娯楽は死んだ。
 ムービー・イズ・デッド。
 きょう、ぼくが一番言いたかったのはこれなんです。テレビが始まった時代じゃあるまいしいまどき映画の娯楽収益性に何一石投じた顔してんの、とか、ムービーじゃなくてフィルムとかシネマとかじゃないの、とか。そういうツッコミはいいから。余計だから。そんなことのために口動かしてなくていいから。口動かすんだったら、手を動かして、と言いたいから。


 そんな偉大な「発言小町」なわけですが、うちのつれあいは、女性マンガ誌の編集者は100パー、「発言小町」を読んでネタ探しをしているにちがいないと毎日言ってますから。もう毎日。どんだけ「発言小町」が好きなんだ。
 編集者のみなさん、図星でしょ? びっくりでしょ? 炯眼でしょ?