都議会のヤジが問題になっている。
東京にいたころ、国会や都議会を傍聴した。国会のヤジは有名であるが、都議会のヤジもかなりひどかった。自民・公明がひどいという印象があって、共産が質問しているときは、聞き取れないこともしばしばあった。
ところが福岡市に来てびっくりしたのは、市議会でほとんどヤジがないことである。特に自民党・公明党は一言もヤジを発しない。きわめて「紳士・淑女」なのである。
というか、東京は総じて地方議会がヤジに寛容であった。
ぼくが初めてそのことに気づいたのは、議事録を読んでいるときだった。
議事録にほとんど残らない福岡市
実は、ヤジは議事録(会議録)に記録されることがある。
「発言する者あり」「……と呼ぶ者あり」などと記されているのがそれだ。
福岡市議会の場合は、これがほとんどない。
唯一あるのは
「異議なし」と呼ぶ者あり。
というフレーズだけである。
これが検索するといっぱい出てくる。議長が「これにご異議ございませんか」と問いかけるので、本来は沈黙することが答えになるのだが、形式として「異議なし」と発声する議員がいるのである。言わない人もいる。そうすると、「ご異議なしと認めます。よって左様決しました」と続く。決まり文句である。
福岡市議会の議事録はそれしかないのだ。
福岡市では議場でヤジがないわけではない。ごくわずかだ。
そしてそれは記録としては残らないのである。
ヤジを詳細に書く都議会
対照的なのが東京である。
たとえば都議会の議事録を検索すると、かなり詳細に記録されている。下記をみてほしい。ちなみに植木というのは共産党議員、川島は自民党の議員(議運委員長)である。なお、以下引用中にある「・・」「……」はすべて原文のままのものだ。
〇植木委員 協議というから・・事実と違うものだから、意見をこれから述べますけれども、まず事実と違う問題について、確かめておきたい。
〔「認識の違いだよ」と呼ぶ者あり〕
〇川島委員長 日の丸がいつからとか、日の丸が国旗でない、国旗かという認識が、それぞれちょっと理事会の議論の中でも違うわけですよね。自民党さんと共産党さんが違うわけですよ、認識が。それは、それぞれの主観があると思うんですよ。ですから、私は違うといったって、こっちはそうだという、真実はどれが正しいかもはっきりしないわけですよ。(「そうしたら法制化する必要もなかったんじゃないか」と呼ぶ者あり)いやいや、だから一つ一つそれをやっていくと、議事進行上大いなる支障が出て、それぞれの立場をきちっと明確に発言することの方が筋論じゃないかなと思うんですね。
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/gikai/d4050015.html
ふだん議運の平場というのは、国旗に限らずあらゆる案件のときに平場を開きますよね。きょうみたいな議論というのは、平場で、議運の理事会の協議結果、中身について・・また、きょうみたいな発言というのは、今までの例でいいますと意外と異例なんです。それだけ理事会の役割というのをみんな尊重していただいて、重く受けとめていただいて、その協議内容をここで報告して、それに対して賛否をここで諮るというのが今までの経緯で来ているわけですから、一々これが違う、例えば、いやあれは赤だと、いやこっちは白だ、あれはピンクにしか見えないという議論と同じような今、議論じゃないかと思うんですよ。(「そういう次元の問題じゃない」と呼ぶ者あり)いやいや、そうなると思うんですよ。もうもとが違うんですから、根っこから。ですからもう少し……。
どうですかといっても、わからないこともあるかわからないし、逆に、自民党から共産党さんへ質問してわからないことがあるかわからないし、その場合は答弁する義務もないわけですよね。わからないから答弁できない。(発言する者あり)いや、わからないものは答弁できないじゃないですか。わからないものはできないですよ。だからわかりませんと、こうなるわけですから。これは、議運の理事会で、九月二十九日、十二月三日、十二月十五日、一月二十日、二月七日、二月十六日、五月十日と、もう七回も議運の理事会でこの問題で議論しているんです。
(議会運営委員会2000年5月10日)
びっくりするのは、ヤジの発言者まで記録してある場合があることだ。下記のうち、吉田は同じく共産党である。
〇吉田委員 保険診療といいますけれども、この方々は生涯にわたって治療を続けなければならないんですよ。しかも、その医療費の負担たるや、決して低いものではありません。一日置きに例えばキョーミノファーゲンを打つ、投薬を繰り返す、月二万から三万は常識なんですよ。それを生涯強いるんですよ。しかも冒頭述べたように、衛生行政の責任に由来する問題なんですよ。(石原知事「それはちょっと違うんじゃないか。そんなこじつけってないよ。ひっかかるなよ」と呼ぶ)こじつけじゃないですよ。これは衛生局自身、厚生労働省自身が認めているんですよ。(石原知事「酒飲み過ぎたって慢性肝炎になるんだよ」と呼ぶ)C型肝炎はウイルス肝炎ですよ、知事。それすら知らないで、こういうことをオーケーするんですか。
さらに、私は訴えたいことは、厚生委員会では、全会派一致でこの慢性肝炎患者に対する医療費の継続ということが可決されたんですよ。議会の意思ですよ。これを、行政として知事を先頭に尊重するのは当然だと思うんです。そのことを改めて強調しておきたいと思うんです。
この衛生局にかかわる最後に、一言述べておきたいと思うんです。
先ほど母子保健院に関連をして発言がありました。我が党は、この記述について、実は厚生労働省に直接確認をしたんです。三百六十五日二十四時間、それは地域医療のことじゃありません、入院中の子どもの面会について、三百六十五日二十四時間いつも開かれているという意味なんですと。これが厚生労働省の説明なんですよ。厚生労働省にも確かめないで、パンフレットだけで発言するというのは極めて乱暴ですよ。(発言する者あり)ましてや、東京都の説明も、全夜間・休日救急活動に参加をするという確約は得ていませんというのが厚生労働省から東京都が得ている結論じゃありませんか。そのことを一言発言をしておきます。(「委員長、局長答弁」と呼ぶ者あり)いいよ、私、質問続けるから。
それでは、続きまして……(石原知事「厚生省の役人呼んでこい、ここに」と呼ぶ)知事、呼べばいいじゃない、それだったら。
次に、高齢者対策に関してです。
世論調査の二番目に、(発言する者多し)一番目が高齢者対策でした。ちょっと静かにさせてもらえませんか。(予算特別委員会2002年3月25日)
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/yotoku/2002/d6212515.html
えーっと、ホントに何の気なしに、検索でヒットした会議録を今紹介したけど、あらためて石原のヤジって内容もひどいな…。
ここまで詳細に書いているんだったら、今回の「結婚」「出産」問題の発言者も特定して、書いてみたらどうだろう。
ヤジの分量、大杉じゃね?
東京の地方議会の議事録を全部見て回ったわけではないので、東京にいたときにたまたま読んだ議事録での印象にすぎないが、葛飾区や日野市はヤジがひどいと思ったし、それがまるまる議事録に書かれているというもの驚きであった。
下記は日野市の議事録。奥野というのは共産党の議員である。
◯委員(奥野倫子君) 全く違います。
23年度はね、2億3,000万返しているんです。だから、実際の額は41億5,200万円だったのに2億3,000万返している。ね。その返した少ない額と24年度を比べたら、今度は24年度はね、前々年度の精算で1億5,700万入ってきている。その差額が大きいんですよ。差額が大きいんであって、国からもらい過ぎたという話では全くないんです。
差額が大きくなるということは、私たちはもう最初から言ってるわけですよ。ここで精算されますよと。本当、精算されたじゃないですか。
それを、何でそういう、実際、あなたが言ってることはね、違いますよ、実際と。(「見解の相違だよな」と呼ぶ者あり)
この差額はね、私たちが当初から言ってるようにちゃんと精算額と書いてあります。前年度はマイナスで精算して、24年度はプラスで精算したから、その差額が大きくなって大きく入ってきて、それが国からもらい過ぎだと、あなたたちが言ってるだけの話でございます。
この国保は社会保障なんですよ。ほかの健保と違ってね、ほかの健保は相互扶助、お互いに助け合う保険。国保は国がつくった社会保障の制度なんですよ。だから、繰り入れて当たり前。これおかしかったら、国がね、文句言うわけですよ。社会保障だから、繰り入れられるんですよ。(「限度がある、限度が」「繰り入れるのにも限度がある」と呼ぶ者あり)
で、ね、限度額が今年度また上がります。高額所得者のほうは、また今度上がって56万でしたか、また上がるんですよ。低所得者カバーできたと。しかし、日野市が20億円ぐらい抜けば抜くほど国保の会計の中だけの支え合い。そしたら、誰が潰れますか真っ先に。(「国保の中だけでいいじゃない。ちゃんと繰り入れてるじゃない」と呼ぶ者あり)
繰入金というのは市民の税金ですが、この繰入金の中にも国保加入者である人たちの税金が入っています。国保加入者の……(「もうかみ合わないんだから、やっても無駄だよ、これはもう。かみ合わないんだよ質問とこれは。全く」と呼ぶ者あり)国保加入者の税金も入っている税金が繰り入れられている。国保というのは、半分が高齢者、半分が非正規社員、低所得者、この国保の中の圧倒的多数がお互いに支え合えない人たちだから、入れるということに対してね、日野市が支えるのは当たり前なのに、日野市は、いや財政大変だから扶助費が大変だからって、日野市が扶助費をね、支えるためにこそ自治体あるわけですよ。扶助費が大変だから引きますなんて話じゃないわけですよ。扶助費が大変だったら、じゃどこを引き締めるかという話になるのが、本来じゃないですか。
◯委員長(奥住匡人君) 奥野委員、質問を。(「まとめろよ、少しはよ。全く。あんた方の意見を述べる場じゃないんだ、ここは」と呼ぶ者あり)市長。
(2014年3月25日 平成26年度一般会計予算特別委員会)
日野市議会のヤジの記録は、もうほとんどそれ自体が体系だった主張である。それが公式の議事録に残るので、そのまま敵対者の発言を傷つけることができる。「言い得」という感じ。
ヤジは民主的活力か
不規則発言はどの議会でもいけないことだとされているので、現状からいえばルール違反である。だが、考えようによっては、これを「ニコニコ動画」のコメント、もしくはブログのコメント欄のようにみることもできる。これと同じ発想から、ヤジを民主的活力としてとらえる見方もある。言論の自由であるから、できるだけ自由にさせた方がよく、もちろん、「悪いヤジ」は批判されるし、批判する自由がある、というわけだ。
だが、やはり議会は住民の代表である議員が、ある手続きに従って発言したことが代表の発言としての公式の発言となり、行政に影響を与えていくのであるから、無秩序に発言することは、この手続き性を破壊し、「住民の代表として何を発言したか」を曖昧にさせてしまうので、議会という場ではやはりマイナスでしかない。
しかも多くのヤジは、上の議事録をみてもわかるように、正式な発言者の発言を聞こえなくしたり、途中でさえぎったりする妨害の役割を果たしている。
議会人としての発言を截然と分けたうえで、それこそ東浩紀が提案しているような「議場に大スクリーンをもちこんで市民が自由にコメントする」みたいなものにすれば、「ヤジで質問が中断する」といった問題も解決するし、「ヤジ=民主的活力」といったような考えも一部とりこむことができる。