星から星を調査目的で旅をする(星旅人〔ほしたびびと〕の)主人公(?)の物語である。
主人公はPGT(プラネタリウム・ゴースト・トラベル)という旅行会社の社員で、同社の文化保存局の一員だ。PGTは旅行会社なのであるが、最近は「なんでも屋」になってきており、文化保存局の特別派遣員は
住民のほとんどが眠った星を「まどろみの星」と言って
ぼくはその文化を記録するためにこの星に来たのです
という仕事内容になっている。
主人公は原付バイクに大きな羽根がついたような「スクーター」に乗って旅をしている。
ストーリーについては、決して「ほのぼの」では終わらせない、不穏なラストで1巻を閉じる。でもまあ、ストーリーは読んでもらえばいいので詳しくは紹介しない。
ぼくがこの本をパラパラめくりながらゆったりと付き合っているのは、この本の画面の多くが「夜」、しかも「静かな夜」だからだ。
ひとけのない静かな夜。
ただ自分ともう一人か二人だけ話している人がいる。
ぼくは、今あまりそういう時間を味わえない。いや、まあ、ごく断片的にはある。しかし、そういういわば静謐な夜というものは、田んぼに囲まれた田舎で過ごしていた記憶の中にこそある。
特に、本作ではしばしば「夜のラジオ」が登場する。
「episode.02 シガリス」では、まどろみながらラジオがついている光景が描かれる。
ぼくは小学校4年生くらいまで祖父母と寝ていた。祖父がラジオ好きだったので、寝るときにはいつもNHKラジオがかかっていた。豆球のわずかな明かりの中で、深夜のラジオが流れるのをぼんやりと聴きながら眠るというのは、ぼくにとって「原初的」な光景である。
「episode.02」、p.62からのシークエンスは、夜の闇の「海」と、向こうに見える小さな明かりの列が広がり、そこにラジオを聴いている誰かがいて、その背中を見ながらうとうとしている。さすがにぼくはそんな中で眠ったことはないのだが、「ラジオを聴きながら眠る」という自分の歴史を、盛大に、美しく理想化したら、たぶんこんな感じではないかと思いながらその画面を眺めた。
人はまだ どこかで起きている
と、主人公と知り合った住民は眠りながらぼんやり思う。それは読者であるぼくにとっても「久しぶりだな この感じ」なのだった。
この本は電子でなく紙で手元においている。
装丁がいい。
青みがかった表紙とカラーの口絵。そして作品本体は単色なのだが、モスグリーンの…いやもっと深いボトルグリーン(C100M20Y100C50くらい?)で印刷されている。
そういうところまで含めて、絵本のように何度か見返している。