「千島列島」はどこまでを指すのか

 中学生である娘の夏休みの宿題を見ていて、社会(地理)では、やはり領土問題が出てくるんだなと改めて読む。

 しかしそこでは「千島列島」は択捉よりも北の部分を指していた。

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帝国書院『中学生の地理』p.126

 百科事典(『日本大百科全書』)では千島列島はこう規定されている。

大きく分けて北千島、中千島、南千島に三分される。

…以下の13島である(〔 〕内はロシア語読み)。
 占守(しむしゅ)〔シュムシュ〕島、阿頼度(あらいと)〔アライド〕島、幌筵(ほろもしり)〔パラムシル〕島(以上北千島)。
 温禰古丹(おねこたん)〔オネコタン〕島、春牟古丹(はるむこたん)〔ハリムコタン〕島、捨子古丹(しゃすこたん)〔シャシュコタン〕島、松輪(まつわ)〔マツア〕島、羅処和(らしょわ)〔ラシュア〕島、計吐夷(けとい)〔ケトイ〕島、新知(しんしる)〔シムシル〕島、得撫(うるっぷ)〔ウルップ〕島(以上中千島)。
 択捉(えとろふ)〔イトルプ〕島、国後(くなしり)〔クナシル〕島(以上南千島)。

 それが常識的な解釈であろう。

 しかし、政府はそうは考えていない。だから、中千島・北千島だけを「千島列島」だとしているのである。そうしないとサンフランシスコ条約第2条で

日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

と定めつつ、(本当は南千島であるはずの)国後・択捉の返還をロシアに求めていることと整合性が取れないからである。

 政府は千島列島の範囲について閣議決定をし、鈴木宗男議員の質問に対して、その根拠を次のように述べている

これらの両島が、樺太・千島交換条約に基づく交換の対象たる千島として取り扱われなかったこと

 しかし、これは無理がある。この条約では

露西亜国皇帝陛下ハ第一款ニ記セル樺太島(即薩哈嗹島)ノ権理ヲ受シ代トシテ其後胤ニ至ル迄現今所領「クリル」群島即チ… 

とあり、これは「今ロシアが所有している千島列島の」と読めて、「所有していない千島列島(の部分)がある」という読み方を排しないからである。「千島として取り扱われなかった」と断定することはできない。

 また、この条約についてはフランス語が正文であり、フランス語正文ではまさにこのような解釈が成り立つ、という議論はすでにある。

 したがって、日本政府の言い分はなかなか苦しいと言わざるを得ない。

 

 と言っても、娘に「だからサンフランシスコ条約で千島を放棄したこと自体が誤りであり、『日本国ハ又暴力及貪慾ニ依リ日本国ノ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルヘシ』というカイロ宣言の原則を徹底して、暴力で取得しなかった千島列島全体の返還を求めるべきなんだよ!」とは教えなかったが…。